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13.懐妊1

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 後宮入りして数ヶ月後、私は最悪の状況に陥っていました。

「……おぇっ」

 自室で胃の中のものを吐いてしまいました。朝から具合が悪かったのです。最近は食欲も落ちてきて少し食べただけで戻してしまっていたのです。

「妃殿下、医師をお呼びしましたので、ご安心くださいませ」

 私付きの女官であるリーアの心配そうな声に申し訳なくなりました。
 体調を崩しがちの私に付きっきりで看病してくれているのです。彼女も年頃の女性。恋人の一人や二人いるでしょうに。
 そんな私の心中を察してか彼女は微笑みながら言いました。「妃殿下のお側にいることがこの上ない幸せですよ」と。その言葉にじんわり心があったかくなって涙腺が緩みそうになりましたが何とか耐えました。泣いたりしたら彼女まで不安にさせてしまう。
 私が弱っているところを他の妃方に見られるわけにはいきません。弱った新参者の妃など格好の標的にされてしまいますもの。私が体調を崩した事さえ秘密にしているのですから。バレると「体調管理も出来ない妃」だの「弱い体」だと陰口を叩かれてしまいます。なので、侍医を呼び寄せるにも秘密裏に行う必要があったのです。

 そこへやってきた医師は高齢の男性でした。
 リーアの説明では医官長だそうです。

 ……何故、医官の長が一介の妃を診に来るのでしょう?

 私の疑問をよそに医官長は顔をしかめ「ふむ、これは……」と言いながら、私の脈を取り、瞳孔を見て一通り触診したあと診察の結果を口にします。

「おめでとうございます、ご懐妊されておりますぞ!」

 はぁ!?何を言っているのですか!?妊娠しているですって!?
 まだ後宮入りして半年ちょっとですよ?早すぎませんか!?

「……」

 あまりの展開についていけず無言になる私の代わりに、リーアが口を開きます。

「それはまことのことでしょうか?」

 疑わしげな視線を向ける彼女に、医官長は笑顔のまま告げます。

「はい、間違いありません。ご懐妊でございます」
 彼は力強く断言します。リーアはその言葉を聞いて泣き崩れるように床に座り込んでしまいました。

 そして――


「おめでとうございます!!妃殿下!!!」

 感極まったように叫びました。

 そうですか。
 懐妊ですか。
 突然の事に頭が真っ白になってしまいます。

 喜ばしい事に変わりはありません。
 ただ、実感がわかないので呆然とするばかりです。でも、自分のお腹をさすりつつ、そこに命があることを感じることが出来て不思議な気持ちにもなりました。ここに新たな生命があると思うと、なんだか胸がいっぱいになり涙が出てきました。嬉しいのか悲しいのか自分でもよくわかりませんでした。感情が入り乱れていました。ただひとつ確かな事はあります。私はこの小さな命を守らなければならないという事でした。私がしっかりしないと! 決意を新たにしつつ、まずしなければならないことがあります。妃としての立場を崩さないことです。

「皆さまへ知らせるのはもう少し待ちましょう。陛下の御意向を伺ってからにしたいわ」

 今の時点で発表してしまうと騒ぎが大きくなることは必至です。何しろ相手はこの国の王なのですからね。慎重に行動せねばなりません。
 陛下の御意志次第ということにしておきましょう。
 しかし、そんな私の考えは甘いものでした。すぐに事態は大きく動き出してしまったのです。

 数日後、私の懐妊が発表されました。


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