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8.酒の力1

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 コンコン。

「どうぞ」

 私が扉に視線を向けながら声をかけると、ある重要人物が部屋に入ってきました。
 シュタイン王国の国王、ヴィルヘルム・アウグスティヌス ・シュタイン陛下その人です。
 
「一区切りせぬか?」
 
「ありがとうございます。休憩にいたしましょう」

 私は執務机から離れ応接ソファーに移動します。この執務室は私個人が使用していますが、国王との執務室と実は繋がっています。秘密通路という程ではありませんが、関係者以外は知らない通行路がある訳です。まあ、これは機密保持と防犯のためのもので、気楽に普段使いされている陛下には物申したい今日この頃。

 それはそうと……。

 私はテーブルを挟んだ向かい側の席に座っている人物へ視線を移しました。

 ヴィルヘルム国王陛下。
 彼は今年三十五歳、プラチナブロンドの髪を短く切りそろえた壮年の美丈夫。若い頃から女性から騒がれていただけの事はあります。今だってソファーに向かうだけの私をエスコートしてくださいました。その実に自然でスマートな身のこなしが未だに若い女性からの支持を集めている要因でしょうか? 

 こうして、 ソファーで寛いでいる姿を見ると、とても一国の王とは思えない態度ですけど。こうしたプライベートな姿を曝すのは極親しい者達の間だけ。私の場合、亡き父が陛下の側近をされていた縁で、目をかけていただいているのです。幼い頃などはお忍びで屋敷に来られていました。その時は、紳士的なお兄様だと思っていましたからね。まさか国王陛下とは夢にも思いませんでした。
  
「聞いたぞ、婚約を解消したそうだな」

 開口一番に切り出してきたのは私の婚約解消についてでした。
 婚約解消の件については既に王宮にも報告済みなのですが、まさか国王自ら尋ねられるとは思いもよりませんでした。小さい頃から知っている家臣の娘ということで、何かと気にかけてくださるのですが……ちょっと心配性で過保護な気がいたします。

「はい、色々とありまして」
 
「ふむ……その割に嬉しそうに見えるのは気のせいかな?」
 
 どうやら無意識に顔に出てしまってたようですね。
 いけません。一応、婚約を解消された身の上。少しは悲壮感を漂わせておいた方がコーネル伯爵家と交渉場で会う時は有利に動く筈です。気を付けなければ。
 
「申し訳ございません。私自身驚いておりますのでコメントは控えさせていただきます」
 
「ククッ。まぁ、そう言う事にしておこう。もしや落ち込んでいるのやも、と思ってコレを用意したのだがな……不要であったか」

 陛下が懐から取り出したのはワイン。
 それもかなりの年代物です。
 
「まぁ、せっかくですから……」

 
 この時、私はすっかり忘れていました。
 自分がお酒に弱いということを。




 

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