8 / 17
8.酒の力1
しおりを挟むコンコン。
「どうぞ」
私が扉に視線を向けながら声をかけると、ある重要人物が部屋に入ってきました。
シュタイン王国の国王、ヴィルヘルム・アウグスティヌス ・シュタイン陛下その人です。
「一区切りせぬか?」
「ありがとうございます。休憩にいたしましょう」
私は執務机から離れ応接ソファーに移動します。この執務室は私個人が使用していますが、国王との執務室と実は繋がっています。秘密通路という程ではありませんが、関係者以外は知らない通行路がある訳です。まあ、これは機密保持と防犯のためのもので、気楽に普段使いされている陛下には物申したい今日この頃。
それはそうと……。
私はテーブルを挟んだ向かい側の席に座っている人物へ視線を移しました。
ヴィルヘルム国王陛下。
彼は今年三十五歳、プラチナブロンドの髪を短く切りそろえた壮年の美丈夫。若い頃から女性から騒がれていただけの事はあります。今だってソファーに向かうだけの私をエスコートしてくださいました。その実に自然でスマートな身のこなしが未だに若い女性からの支持を集めている要因でしょうか?
こうして、 ソファーで寛いでいる姿を見ると、とても一国の王とは思えない態度ですけど。こうしたプライベートな姿を曝すのは極親しい者達の間だけ。私の場合、亡き父が陛下の側近をされていた縁で、目をかけていただいているのです。幼い頃などはお忍びで屋敷に来られていました。その時は、紳士的なお兄様だと思っていましたからね。まさか国王陛下とは夢にも思いませんでした。
「聞いたぞ、婚約を解消したそうだな」
開口一番に切り出してきたのは私の婚約解消についてでした。
婚約解消の件については既に王宮にも報告済みなのですが、まさか国王自ら尋ねられるとは思いもよりませんでした。小さい頃から知っている家臣の娘ということで、何かと気にかけてくださるのですが……ちょっと心配性で過保護な気がいたします。
「はい、色々とありまして」
「ふむ……その割に嬉しそうに見えるのは気のせいかな?」
どうやら無意識に顔に出てしまってたようですね。
いけません。一応、婚約を解消された身の上。少しは悲壮感を漂わせておいた方がコーネル伯爵家と交渉場で会う時は有利に動く筈です。気を付けなければ。
「申し訳ございません。私自身驚いておりますのでコメントは控えさせていただきます」
「ククッ。まぁ、そう言う事にしておこう。もしや落ち込んでいるのやも、と思ってコレを用意したのだがな……不要であったか」
陛下が懐から取り出したのはワイン。
それもかなりの年代物です。
「まぁ、せっかくですから……」
この時、私はすっかり忘れていました。
自分がお酒に弱いということを。
110
お気に入りに追加
1,519
あなたにおすすめの小説
(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!
青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。
図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです?
全5話。ゆるふわ。
なにひとつ、まちがっていない。
いぬい たすく
恋愛
若くして王となるレジナルドは従妹でもある公爵令嬢エレノーラとの婚約を解消した。
それにかわる恋人との結婚に胸を躍らせる彼には見えなかった。
――なにもかもを間違えた。
そう後悔する自分の将来の姿が。
Q この世界の、この国の技術レベルってどのくらい?政治体制はどんな感じなの?
A 作者もそこまで考えていません。
どうぞ頭のネジを二三本緩めてからお読みください。
とある令嬢の婚約破棄
あみにあ
恋愛
とある街で、王子と令嬢が出会いある約束を交わしました。
彼女と王子は仲睦まじく過ごしていましたが・・・
学園に通う事になると、王子は彼女をほって他の女にかかりきりになってしまいました。
その女はなんと彼女の妹でした。
これはそんな彼女が婚約破棄から幸せになるお話です。
言い訳は結構ですよ? 全て見ていましたから。
紗綺
恋愛
私の婚約者は別の女性を好いている。
学園内のこととはいえ、複数の男性を侍らす女性の取り巻きになるなんて名が泣いているわよ?
婚約は破棄します。これは両家でもう決まったことですから。
邪魔な婚約者をサクッと婚約破棄して、かねてから用意していた相手と婚約を結びます。
新しい婚約者は私にとって理想の相手。
私の邪魔をしないという点が素晴らしい。
でもべた惚れしてたとか聞いてないわ。
都合の良い相手でいいなんて……、おかしな人ね。
◆本編 5話
◆番外編 2話
番外編1話はちょっと暗めのお話です。
入学初日の婚約破棄~の原型はこんな感じでした。
もったいないのでこちらも投稿してしまいます。
また少し違う男装(?)令嬢を楽しんでもらえたら嬉しいです。
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
番(つがい)はいりません
にいるず
恋愛
私の世界には、番(つがい)という厄介なものがあります。私は番というものが大嫌いです。なぜなら私フェロメナ・パーソンズは、番が理由で婚約解消されたからです。私の母も私が幼い頃、番に父をとられ私たちは捨てられました。でもものすごく番を嫌っている私には、特殊な番の体質があったようです。もうかんべんしてください。静かに生きていきたいのですから。そう思っていたのに外見はキラキラの王子様、でも中身は口を開けば毒舌を吐くどうしようもない正真正銘の王太子様が私の周りをうろつき始めました。
本編、王太子視点、元婚約者視点と続きます。約3万字程度です。よろしくお願いします。
恋心を利用されている夫をそろそろ返してもらいます
しゃーりん
恋愛
ソランジュは婚約者のオーリオと結婚した。
オーリオには前から好きな人がいることをソランジュは知っていた。
だがその相手は王太子殿下の婚約者で今では王太子妃。
どんなに思っても結ばれることはない。
その恋心を王太子殿下に利用され、王太子妃にも利用されていることにオーリオは気づいていない。
妻であるソランジュとは最低限の会話だけ。無下にされることはないが好意的でもない。
そんな、いかにも政略結婚をした夫でも必要になったので返してもらうというお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる