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~三度目~
10.大樹side
しおりを挟む俺はアレコレと姉に現実を見せた。見せつけた、ともいう。
表向き良い人が本当に良い人とは限らないこととか。
ラブラブのカップルが実は裏では罵り合っていることとか。
虐めっ子から助けていた子が逆に虐めのターゲットにされたこととか。
人間の嫌な場面を多く見たわりに人間不信に陥らないのは流石、姉だ。
俺の方が人間不信に陥りそうだ。こういう人間が一番得をするんだろうな。天然最強とは姉のことだ。
ただ、この天然具合が人を巻き込んでいかなければ一番いい。
姉に巻き込まれたら人生終わりだ。俺は弟だからな。嫌でも巻き込まれる。ならそれを少しでも抑えたい。
そうして、姉を徐々に矯正していった……と思う……たぶん。きっと。そうだといいな。
ただ、高校進学に例の学校を選ぶことはなかった。それだけが救いといえば救いなのかもしれない。
大学は国立に進み、卒業後は友人と起業してそれなりに成功した。
仕事先で知り合った男性と結婚して子供にも恵まれた。
あの男と違って普通の男だ。
少し気弱なところがあるけど、真面目でいい人だ。
そんな男と家庭を持ち、子供を育てた。
ああ、普通だ。ごく普通の幸せを手に入れた。
数年後、義兄は会社を辞めて専業主夫になった。
姉は逆に家の事は義兄にまかせて仕事三昧。
それでいいのか?とも思ったが、二人はそれで幸せらしい。
父は複雑そうな顔をしていたが、姉の壊滅的な家事能力と子育てスキルのなさを考えると、妥当な判断だったのかもしれない。
「私に主婦は無理だわ」
笑って言う姉さん。
まあ、確かに無理だろうなと思った。
姉はお菓子作りは上手なのに、何故か普通の料理が不味い。
なにいれた!?と言いたくなるくらい酷い味なのだ。
なにはともあれ、俺達家族は幸せだ。
来週、転勤で俺は引っ越すことになった。
新しい土地で上手くやれるか心配ではあるが、なんとかなるだろうと思っている。
もうなにも怖くない。
悪夢は終わったんだ。
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