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~一度目~
42.その後2
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元夫は直ぐに出所しました。
元々、実刑には問われない程度のものだったらしく、裁判も直ぐに終わりました。
しかしその直後に彼は大怪我を負いました。
背後から殴られ、その後にバットのようなもので滅多打ちにされて。
とても酷い現場だったそうです。
元夫をそんな目に合わせた犯人は逮捕されないまま。
犯人は一人ではなく複数いたらしく、未だに捕まっていないようです。
警察は鈴木グループに対して恨みを晴らすために犯行に及んだと見て捜査を行っています。
ですが、元夫はきっと知らないでしょう。
彼自身が憎まれ恨まれている事を。
恨みを買う覚えがないという方ですから。
それでも世間は彼を非難します。
自業自得とはいえ、彼には同情的な意見もあり、今でも腫れ物のように扱われています。
そんな彼の最愛の妻である陽向さんがどうなったかと言うと、日常生活もままならなくなった夫をそれは献身的に支えているそうです。
それだけなら美談で済んだかもしれません。
ですが、住んでいる場所が場所です。
陽向さんの今までの言動や鈴木グループの事を知るご近所の目は冷たいものがあります。
世間の目も冷たい。
陽向さん自身は気にしていないようですが、彼の方はそこまで鈍感では無かったようです。
周囲からの冷遇は、重い障害を負ってしまった彼には相当堪えたでしょう。
精神的に追い詰められても仕方ありません。
耐え兼ねた彼が妻の「引っ越さないか」と提案をしたそうです。それに対して陽向さんは「いいかもしれない」と賛成し、早川家の家を売り払って遠い土地で再出発を図ろうとする始末。
家を売り払うって……。
呆れてモノも言えませんわ。
「彼らは何を考えているのでしょう。ご自宅の名義は陽向さんではありませんでしょう?」
私は不思議に思い、シオンに話しました。
すると彼はあっさりと答えました。
「そこまで考えていないんじゃないか?」
「はい?」
「実際にあの家に住んでいるのは二人だ。彼のことだ、家の持ち主は妻だ、と思っている可能性が高い。だから彼女に提案したんだろう」
「それでは……」
「自分の実家だから自分の持ち物だ、とでも思っているのでは?」
「そんなことあります?」
「普通はない。だが、彼女は普通じゃない」
「……」
言われてみればそうかもしれません。
普通は家や不動産を手放すとあれば、もっと悩むものですし、名義の事にだって敏感になるでしょう。
ですが、陽向さんは違いました。
自分の夫の提案に対して深く考えず、むしろ乗り気です。
「これを機に彼女の父親も娘に見切りが付くのではないか?」
「と、言いますと?」
「実家の家を娘に与えて縁を切るという手もある。孫の事を考えれば娘とその夫は害でしかない」
シオンの読みは当たっていました。
陽向さんのお父様は、陽向さんに家を譲り渡したのです。
「これを機に、娘とは縁を切る」という意思を込めて――――
元々、実刑には問われない程度のものだったらしく、裁判も直ぐに終わりました。
しかしその直後に彼は大怪我を負いました。
背後から殴られ、その後にバットのようなもので滅多打ちにされて。
とても酷い現場だったそうです。
元夫をそんな目に合わせた犯人は逮捕されないまま。
犯人は一人ではなく複数いたらしく、未だに捕まっていないようです。
警察は鈴木グループに対して恨みを晴らすために犯行に及んだと見て捜査を行っています。
ですが、元夫はきっと知らないでしょう。
彼自身が憎まれ恨まれている事を。
恨みを買う覚えがないという方ですから。
それでも世間は彼を非難します。
自業自得とはいえ、彼には同情的な意見もあり、今でも腫れ物のように扱われています。
そんな彼の最愛の妻である陽向さんがどうなったかと言うと、日常生活もままならなくなった夫をそれは献身的に支えているそうです。
それだけなら美談で済んだかもしれません。
ですが、住んでいる場所が場所です。
陽向さんの今までの言動や鈴木グループの事を知るご近所の目は冷たいものがあります。
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陽向さん自身は気にしていないようですが、彼の方はそこまで鈍感では無かったようです。
周囲からの冷遇は、重い障害を負ってしまった彼には相当堪えたでしょう。
精神的に追い詰められても仕方ありません。
耐え兼ねた彼が妻の「引っ越さないか」と提案をしたそうです。それに対して陽向さんは「いいかもしれない」と賛成し、早川家の家を売り払って遠い土地で再出発を図ろうとする始末。
家を売り払うって……。
呆れてモノも言えませんわ。
「彼らは何を考えているのでしょう。ご自宅の名義は陽向さんではありませんでしょう?」
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すると彼はあっさりと答えました。
「そこまで考えていないんじゃないか?」
「はい?」
「実際にあの家に住んでいるのは二人だ。彼のことだ、家の持ち主は妻だ、と思っている可能性が高い。だから彼女に提案したんだろう」
「それでは……」
「自分の実家だから自分の持ち物だ、とでも思っているのでは?」
「そんなことあります?」
「普通はない。だが、彼女は普通じゃない」
「……」
言われてみればそうかもしれません。
普通は家や不動産を手放すとあれば、もっと悩むものですし、名義の事にだって敏感になるでしょう。
ですが、陽向さんは違いました。
自分の夫の提案に対して深く考えず、むしろ乗り気です。
「これを機に彼女の父親も娘に見切りが付くのではないか?」
「と、言いますと?」
「実家の家を娘に与えて縁を切るという手もある。孫の事を考えれば娘とその夫は害でしかない」
シオンの読みは当たっていました。
陽向さんのお父様は、陽向さんに家を譲り渡したのです。
「これを機に、娘とは縁を切る」という意思を込めて――――
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