上 下
66 / 130
~一度目~

18.浅田理事長side

しおりを挟む
 数日でゲッソリと痩せた気がする。つかれた。現実は無情だ。


「本当なのか?例の女子生徒が妊娠しているのは?」

「はい……残念ながら事実です」

「そうか……」

「はい……」


 沈黙するしかない。
 校長も先ほど病院側から連絡を貰ったばかりだ。どう対応すればいいのか分からないのだろう。それは俺も同じだ。こんな事、今までなかった。俺が知らないだけかもしれないが……。それでもどうしてこうも次から次へと重なるんだ!


「それで、生徒の方はどうなんだ?」

「病院側は未成年というのを考慮され、ご両親にだけ話されたようです」


 まあ、妥当なところだろう。
 いきなり本人に言う事はできない。しかも学生の身だ。親に伝えてそれから本人に伝えるのだろう。隠し事はできないしな。


「起きてしまった事はしかたない」

「はい」

「不幸中の幸いというか、生徒が運ばれた病院は我が校のOBの病院だ。しっかりと対応はしてくれるだろう」

「学園側からも『よろしくお願いします』と伝えてあります」

「なら大丈夫だ。ただ、子供の父親は誰だ?」

「……解りません。こればかりは本人に聞かない事にはなんとも……」


 校長は言葉を濁しているが「父親候補」の男子生徒が多過ぎて判別できないのが現実だろう。そもそも、本人も把握していないのではないか?それともちゃんと解っているのか?不安だ。

 この不安は的中した。









久志ひさしの子よ。間違いないわ」


 誰だ?それ?
 俺の頭の中はクエスチョンマークで一杯だ。それは俺だけじゃない。一緒に来ている校長もポカンとしている。それはそうだ。「久志ひさし」と名前だけ言われても解らん。こっちで把握している彼女の子供の「父親候補」にその名前の人物はいなかった。念のために持ってきた調査報告書を広げて確認したが、やはり該当する名前はなかった。頼むからフルネームで教えてくれ。


めぐみ、名前だけ言われてもお母さん分からないわ。誰なのその人は?同じ学校の子?それとも……」

 ナイスだ!
 お母さん!
 我々では決して言えない事を言ってくれる。

「やだ!勿論学園の生徒よ!」

 ……そうか。
 そうだろうな。分かってはいたが。やはりうちの学園の生徒か。

「お気を確かに」

 校長が小声で言ってくる。いかん。気が遠くなっていた。
 これも目の前の現実を受け入れたくない「人間」の性なのだろう。何故、俺がこんな苦労しないといけないんだ。

「ねぇ、お母さん。そんなことより、お腹空いた」

 本当に呑気だな。こんな状況で腹を空かす娘って珍しいよな?普通、妊娠を告げられて、こんなに平然としていられるものか?「本当に?嘘でしょ?」って驚愕するものじゃないのか?なんで、そんなに冷静なんだよ? 俺なら間違いなく取り乱す。だってまだ高校三年生だぞ!これからの人生が掛かってるんだぞ?そんな冷静になれるか?いや!ならない!これからどうするか考えるし、相手の男を呼びだす!

「ねえ!聞いてる?私、お腹空いちゃった!」

「え、えぇ……解ったわ。食事を運んでもらいましょう。めぐみ、食事がすんだら相手の男の子の事を詳しく教えて。相手の親御さんとも話さないといけないしね」

「うん、いいわよ」

 上機嫌で返事をしているが、そんな呑気な事じゃないぞ!分っているのか!!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

【完結】お前なんていらない。と言われましたので

高瀬船
恋愛
子爵令嬢であるアイーシャは、義母と義父、そして義妹によって子爵家で肩身の狭い毎日を送っていた。 辛い日々も、学園に入学するまで、婚約者のベルトルトと結婚するまで、と自分に言い聞かせていたある日。 義妹であるエリシャの部屋から楽しげに笑う自分の婚約者、ベルトルトの声が聞こえてきた。 【誤字報告を頂きありがとうございます!💦この場を借りてお礼申し上げます】

【完結済】完全無欠の公爵令嬢、全てを捨てて自由に生きます!~……のはずだったのに、なぜだか第二王子が追いかけてくるんですけどっ!!〜

鳴宮野々花@初書籍発売中【二度婚約破棄】
恋愛
「愛しているよ、エルシー…。たとえ正式な夫婦になれなくても、僕の心は君だけのものだ」「ああ、アンドリュー様…」  王宮で行われていた晩餐会の真っ最中、公爵令嬢のメレディアは衝撃的な光景を目にする。婚約者であるアンドリュー王太子と男爵令嬢エルシーがひしと抱き合い、愛を語り合っていたのだ。心がポキリと折れる音がした。長年の過酷な淑女教育に王太子妃教育…。全てが馬鹿げているように思えた。  嘆く心に蓋をして、それでもアンドリューに嫁ぐ覚悟を決めていたメレディア。だがあらぬ嫌疑をかけられ、ある日公衆の面前でアンドリューから婚約解消を言い渡される。  深く傷付き落ち込むメレディア。でもついに、 「もういいわ!せっかくだからこれからは自由に生きてやる!」 と吹っ切り、これまでずっと我慢してきた様々なことを楽しもうとするメレディア。ところがそんなメレディアに、アンドリューの弟である第二王子のトラヴィスが急接近してきて……?! ※作者独自の架空の世界の物語です。相変わらずいろいろな設定が緩いですので、どうぞ広い心でお読みくださいませ。 ※この作品はカクヨムさんにも投稿しています。

【完結】 いいえ、あなたを愛した私が悪いのです

冬馬亮
恋愛
それは親切な申し出のつもりだった。 あなたを本当に愛していたから。 叶わぬ恋を嘆くあなたたちを助けてあげられると、そう信じていたから。 でも、余計なことだったみたい。 だって、私は殺されてしまったのですもの。 分かってるわ、あなたを愛してしまった私が悪いの。 だから、二度目の人生では、私はあなたを愛したりはしない。 あなたはどうか、あの人と幸せになって --- ※ R-18 は保険です。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...