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~一度目~

11.陽向side

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 誕生した子供は女の子。
 名前は『美咲』と名付られた。

 子育ては大変だって聞いてはいたけど、美咲はそうじゃなかった。
 まあ、義両親が『乳母』を雇ってくれたお陰なんだけどね。お金持ちって凄いって改めて思った。わざわざ子供の面倒を見てくれる人を雇ってくれるんだもん。お蔭で楽させて貰っちゃった。聞けば晃司にも『乳母』がいたみたい。幼稚園に通うようになってからは晃司の乳母は辞めちゃったみたいだけど。だから、美咲の場合も同じようにした。だって幼稚園に通ってまで乳母って必要ないもんね。
 ただちょっと気持ちに引っかかるコトがある。
 美咲が産まれてから晃司は仕事が忙しくなった。頻繁に海外出張があるし。美咲が幼稚園に通い出して数ヶ月後にアメリカ支社に転勤になっちゃったし。私もアメリカについていきたかったけど、義両親に反対された。「子供を置いていくなんて」って。なら「美咲も一緒に連れて行く」と言えば更に怒られた。なんで?
 晃司は「今まで乳母に任せっきりだったんだ。急に一人で子育てなんて大変だろう。長期休暇になったら日本に戻って来るから陽向は日本に居ろ。お母さんとしての役目は果たさないといけないしな」と言って納得させようとして来るし。三対一で勝ちなし。仕方ないから日本で暮らすことになったのよね。

 晃司はけっこうマメで、アメリカに行っても毎日連絡をくれた。日本に戻って来た時は短い時間でも私との時間を大切にしてくれたし、美咲には何でも好きな物を買ってあげていた。普段会えない分、家族サービスが旺盛だった。これはこれでありかな?って思ったくらい。何だか気持ちが新婚時代に戻ったみたいにワクワクするもの。

 ただ、この数日ちょっとおかしい。
 日本に戻ってから塞ぎこむ日が多いし、夜は飲みに出かけてばかり。
 何かあったのかな?

 気のせいだといいけど、美咲を見る目がちょっと厳しく感じる。今だってそう。友達の家に遊びに行った美咲の後姿を暗い目で見てる。


「ねぇ、どうかした?」

「いや、美咲も大きくなったと思ってな」

「ああ、もうすぐ中学生だもんね」

「そんなになるのか。時が経つのは早いな」

「やだ!晃司ったら!おじいさんみたいなこと言って!」

「そうか?」

「そうよ!」

「なぁ、陽向」

「なに?」

「美咲の中学だが、やっぱり俺達の学校にしよう」

「また受験させるの?」

「ああ」

 四つ角を曲がってもう見なくなった娘。
 晃司は目を前に向けたまま言い放つ。


「他の学校じゃダメなの?幼稚園も小学校も落ちたし……美咲にあの学校合ってないんじゃない?」

「……」

「今の学校の良いところよ?家から近いし」

「美咲にバレエ習わさないか」

「え?バレエ?」

「ああ」

「踊りの?」

「ああ」


 ……どうしよう。まったく意味が分からない。なんで急にバレエが出て来たんだろう?それは受験に関係ある?ないよね。


「あの子、飽きっぽいから。それにどちらかというと、そういったモノに興味ないと思うよ」

 現に小さい頃に色々習わせてみたけど、どれも長続きしなかったんだよね。水泳とかはまだ長く続いた方かな?

「……そうか」

「うん」

「陽向、知ってるか?美咲と同じ歳の日本人の子供がパリバレエ団学校に入学した事を」

「知らない」

「そうか」

「うん」


 会話の意味がわからない。
 本当にどうしたの?
 もしかして美咲にもバレエ学校に通って欲しいって意味?
 急だな。
 ああいうのって才能がモノをいう世界っぽいし。やっても引退が早そう。でもまぁ、趣味としてはいいかもね。美咲に聞いてみよう!


 後日、「なんで?」という反応をされた。
 やっぱりね。

 

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