【完結】「離婚して欲しい」と言われましたので!

つくも茄子

文字の大きさ
上 下
42 / 130

42.修side

しおりを挟む
 
 その日、俺は夢を見た。
 懐かしい夢だ。

 俺の家は母子家庭で母はパートを掛け持ちして女手一つで俺を育ててくれた。父親の事は知らない。小さい頃に家を出てそれっきりだ。近所の暇な主婦たちの噂話で、俺の父親は他に女を作って妻子俺達を捨てたクズ野郎だった。
 慰謝料も養育費も払わなかったクズ野郎だ。
 風の噂で再婚して子供が出来たらしいが、俺には関係ない。

 顔を覚えていないからな。恨みはなかった。ただ、その事を知った時は「子供一人養育できない男がまた無駄な種を増やしやがった」「子供は養育費なしでも勝手に育つと考えるイカレ野郎に子供が育てられるのか?」「また同じことを繰り返すんじゃね?」くらいには思ったが。

 母は父親の悪口は一切言わなかった。

 俺を育てるのに苦労したであろう母に親孝行したかった。
 だから幼馴染の少女早川陽向の誘いを受けて、あの高校成金学校に入学した。

 全くの別世界――では無かった。
 思った以上に庶民的だったからか、俺は直ぐに馴染んだ。
 それでも高校で日本文化と海外の文化、そしてそれらに伴うマナーを学ばされた時は「あ、やっぱり金持ち学校だ」と感じた。それも俺のような途中入学したしてきた生徒のための授業だ。初めからこの学校に通っている生徒は当たり前すぎて授業になってなかった。所作が当たり前に出来てるんだ。頭じゃなく体で覚え込んでいる感じだった。


 クラスメイトは皆良い奴らだった。
 特待生だからって遠巻きにする事もない。

 俺が生徒会メンバーに選ばれた時も喜んでくれた。



「いや~~っ、修が選ばれてよかったよ!」

「本当に」

 しみじみ言う友達に俺は不思議だった。

「なんだよ、急に」

 二人のおかしな会話が気になった。
 他意はない。
 ただ妙なニュアンスがちょっと気になっただけだ。

「だってさぁ、修が選ばれなかったら、もう一人の特待生が選ばれてただろう?あの子じゃなくて良かったよ!」

 意外な答えが返ってきた。

「それって篠原さんの事?」

「そ、二組の特待生。あの子が生徒会メンバーになってたら、が出来てただろうからさ」

「そうそう」

「今でもかなり影響受けてるらしいからな」

「それヤバイ。今のうちに軌道修正しとかないと取り返しがつかなくなるぜ」

「ああ、二組の連中も困ってた。自分のところの特待生が早川陽向に憧れてるって」

「それはそれは……」

「あの子も頭良いのか悪いのか分からんな」

「頭は良いだろう。ただ常識がないだけだ」
 
「いや、一部ではメチャクチャ人気あるのも確かだ」

「……まぁな……。アレが感染症のように伝染していかない事を願うしかない」


 二人の会話に衝撃を受けた。
 だってそうだろ?!
 早川陽向……幼馴染の名前が出てきたんだ!
 しかも、陽ちゃんに対する非難?悪口?……いや……何というか俺の知ってる陽ちゃんの事を言っているのか?!ってくらいに驚いた。

 最初は聞き間違いか?――――とも思ったが二人は「早川陽向」と名指ししていたので残念ながら聞き間違いではなさそうだ。


「修も気を付けろよ」

「え?」

「二年の早川陽向先輩に、だよ」

「……え……と……?」

「おい、修は知らないんじゃないか?例の先輩の事」

「あ!確かに。修、噂話に疎いからな」

「興味ない事は全く無頓着だもんな。そこが修の良いところでもあるけどな。ただこの場合に限っては知っておいた方が良い」

 そう言って二人は話し始めた。
 俺の知らない幼馴染陽ちゃんの事を。

 この学園で今現在起こっている、良家の子息と特待生の恋物語。

 その主役の一人が陽ちゃんである事を。
 二人から語られる陽ちゃん特待生の人物像は俺の知っている陽ちゃん幼馴染とは全くかけ離れたものだった。

しおりを挟む
感想 372

あなたにおすすめの小説

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。

真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。 一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。 侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。 二度目の人生。 リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。 「次は、私がエスターを幸せにする」 自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

【完結】アッシュフォード男爵夫人-愛されなかった令嬢は妹の代わりに辺境へ嫁ぐ-

七瀬菜々
恋愛
 ブランチェット伯爵家はずっと昔から、体の弱い末の娘ベアトリーチェを中心に回っている。   両親も使用人も、ベアトリーチェを何よりも優先する。そしてその次は跡取りの兄。中間子のアイシャは両親に気遣われることなく生きてきた。  もちろん、冷遇されていたわけではない。衣食住に困ることはなかったし、必要な教育も受けさせてもらえた。  ただずっと、両親の1番にはなれなかったというだけ。  ---愛されていないわけじゃない。  アイシャはずっと、自分にそう言い聞かせながら真面目に生きてきた。  しかし、その願いが届くことはなかった。  アイシャはある日突然、病弱なベアトリーチェの代わりに、『戦場の悪魔』の異名を持つ男爵の元へ嫁ぐことを命じられたのだ。  かの男は血も涙もない冷酷な男と噂の人物。  アイシャだってそんな男の元に嫁ぎたくないのに、両親は『ベアトリーチェがかわいそうだから』という理由だけでこの縁談をアイシャに押し付けてきた。 ーーーああ。やはり私は一番にはなれないのね。  アイシャはとうとう絶望した。どれだけ願っても、両親の一番は手に入ることなどないのだと、思い知ったから。  結局、アイシャは傷心のまま辺境へと向かった。  望まれないし、望まない結婚。アイシャはこのまま、誰かの一番になることもなく一生を終えるのだと思っていたのだが………? ※全部で3部です。話の進みはゆっくりとしていますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。    ※色々と、設定はふわっとしてますのでお気をつけください。 ※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。  

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

処理中です...