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42.修side
しおりを挟むその日、俺は夢を見た。
懐かしい夢だ。
俺の家は母子家庭で母はパートを掛け持ちして女手一つで俺を育ててくれた。父親の事は知らない。小さい頃に家を出てそれっきりだ。近所の暇な主婦たちの噂話で、俺の父親は他に女を作って妻子を捨てたクズ野郎だった。
慰謝料も養育費も払わなかったクズ野郎だ。
風の噂で再婚して子供が出来たらしいが、俺には関係ない。
顔を覚えていないからな。恨みはなかった。ただ、その事を知った時は「子供一人養育できない男がまた無駄な種を増やしやがった」「子供は養育費なしでも勝手に育つと考えるイカレ野郎に子供が育てられるのか?」「また同じことを繰り返すんじゃね?」くらいには思ったが。
母は父親の悪口は一切言わなかった。
俺を育てるのに苦労したであろう母に親孝行したかった。
だから幼馴染の少女の誘いを受けて、あの高校に入学した。
全くの別世界――では無かった。
思った以上に庶民的だったからか、俺は直ぐに馴染んだ。
それでも高校で日本文化と海外の文化、そしてそれらに伴うマナーを学ばされた時は「あ、やっぱり金持ち学校だ」と感じた。それも俺のような途中入学したしてきた生徒のための授業だ。初めからこの学校に通っている生徒は当たり前すぎて授業になってなかった。所作が当たり前に出来てるんだ。頭じゃなく体で覚え込んでいる感じだった。
クラスメイトは皆良い奴らだった。
特待生だからって遠巻きにする事もない。
俺が生徒会メンバーに選ばれた時も喜んでくれた。
「いや~~っ、修が選ばれてよかったよ!」
「本当に」
しみじみ言う友達に俺は不思議だった。
「なんだよ、急に」
二人のおかしな会話が気になった。
他意はない。
ただ妙なニュアンスがちょっと気になっただけだ。
「だってさぁ、修が選ばれなかったら、もう一人の特待生が選ばれてただろう?あの子じゃなくて良かったよ!」
意外な答えが返ってきた。
「それって篠原さんの事?」
「そ、二組の特待生。あの子が生徒会メンバーになってたら、第二の早川陽向が出来てただろうからさ」
「そうそう」
「今でもかなり影響受けてるらしいからな」
「それヤバイ。今のうちに軌道修正しとかないと取り返しがつかなくなるぜ」
「ああ、二組の連中も困ってた。自分のところの特待生が早川陽向に憧れてるって」
「それはそれは……」
「あの子も頭良いのか悪いのか分からんな」
「頭は良いだろう。ただ常識がないだけだ」
「いや、一部ではメチャクチャ人気あるのも確かだ」
「……まぁな……。アレが感染症のように伝染していかない事を願うしかない」
二人の会話に衝撃を受けた。
だってそうだろ?!
早川陽向……幼馴染の名前が出てきたんだ!
しかも、陽ちゃんに対する非難?悪口?……いや……何というか俺の知ってる陽ちゃんの事を言っているのか?!ってくらいに驚いた。
最初は聞き間違いか?――――とも思ったが二人は「早川陽向」と名指ししていたので残念ながら聞き間違いではなさそうだ。
「修も気を付けろよ」
「え?」
「二年の早川陽向先輩に、だよ」
「……え……と……?」
「おい、修は知らないんじゃないか?例の先輩の事」
「あ!確かに。修、噂話に疎いからな」
「興味ない事は全く無頓着だもんな。そこが修の良いところでもあるけどな。ただこの場合に限っては知っておいた方が良い」
そう言って二人は話し始めた。
俺の知らない幼馴染の事を。
この学園で今現在起こっている、良家の子息と特待生の恋物語。
その主役の一人が陽ちゃんである事を。
二人から語られる陽ちゃんの人物像は俺の知っている陽ちゃんとは全くかけ離れたものだった。
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