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2.離婚2
しおりを挟む私の旧姓は、伊集院桃子と申します。
結婚して鈴木桃子となりましたが、昔ながらの友人、知人の間では未だに私を「伊集院家のお嬢様」との認識が強いでしょう。
鈴木家は戦後に成り上がったグループ企業。所謂、成り上がりに属する方々です。対する我が伊集院家は千年以上続く旧家。鈴木家は伊集院家の持つ歴史と名声、そして人脈を喉から手が出る程欲していました。
伊集院家は代々、『家』を守る事を重要視しておりました。結婚相手が新興財閥だからといって侮ったりはしませんでした。
鈴木家から婚約を申し込まれた時もそうです。
他の婚約候補の方々より好条件だったとは言え、侮ったりはしませんでした。全て調査されて他者よりも秀でていると判断されたからこそ、この婚姻が実現しているのですから。
鈴木家は『箔』を付けたかったのでしょうね。なにしろ、鈴木家の直系は夫一人。その分、期待も大きかった事でしょう。
私との結婚が成立すれば鈴木家は名実共に『名家』の仲間入りを果たせると考えたのも無理ありません。そして……その思惑通り、私と晃司さんの婚約が成立した時に漸く成り上がり扱いされていた鈴木家は家としての『格』が上がった形となったと言えます。
その後も鈴木は事業拡大を続けました。
伊集院家の持つ人脈と情報網を取り込みつつの上昇だった事はお察しの通りでしょうね。
夫はそれを手放すと言っているのです。
「解りましたわ」
「え?」
「離婚、致しましょう」
「い、いいのか?」
「勿論です。ただ、私達の結婚は『個人』ではなく『家』が大きく関係していますわ。その事も含めて今後の事を話し合いましょう」
そう、私と夫の結婚は家同士の結びつきなのです。
私達だけで勝手に離婚する事はできませんわ。夫から『離婚』の言葉が出た時点で『婚姻の解消と家同士の結びつきとその関係の変化』『私達の離婚によって発生するであろう諸々の問題』等々を弁護士を交えて話し合わなくてはなりません。
「そうだな。会社の事もあるしな」
「法的にも、離婚後の事を合わせて互いの弁護士を交えてキチンとお話をしましょう。勿論、お義母様達にもご報告しなくてはなりませんわ」
「母さん達か…………」
「はい」
「そうか。そうだな。……母さん達に話さないと、だな」
私との婚姻をダメにした理由。それを話すのは躊躇われているようですわ。まぁ、ご自分の有責ですからね。どうやって穏便に両親に説明するか、夫はそれを考えているのでしょう。まったく。どう説明したところで修羅場でしょうに……。
「私からお話しましょうか?」
「いや……その必要はない。俺から話しておく」
「お願い致しますわ」
「ああ……」
「では、次の日曜に話し合いの場を設ける事に致しましょう。宜しいですか?」
「ああ……助かる」
次の日曜日。
私達と両親の話し合いが行われましたわ。そして、その数日後には正式に離婚の手続きがなされて、私達の夫婦関係は解消するに至ったのです。
結婚して五年。
これが早いのか遅いのかは分かりませんが、私達の間に子供がいなかった事はある意味で良かったのかもしれませんわね。子供がいた場合、親権問題で揉めたと思いますもの。
晃司様から聞いた話では、お相手の女性は一般家庭出身の方。
鈴木家の義両親にとって『跡取りの母親』はどちらが良いか――など考えるまでもありません。時代錯誤な話ですけど、義両親は旧家以上にそういった面を強く持っている方々ですもの。もっとも、彼はご自分の両親のそういった一面を今一つ理解出来ていませんけどね。きっと揉めた事でしょう。それを考えると、子供がいなかったのは本当に不幸中の幸いだったのかもしれませんわ。
離婚後、荷物一切を全て運び出し実家からの迎えの車に乗ろうとした時、何故か夫の浮気相手がわざわざ会いにやって来たのです。
何でしょう?
そもそも何故、彼女はここにやって来たのでしょうか?
理解不能ですわ。
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