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ある正妃の呪い
しおりを挟む鏡に映る自分の姿…私も随分、歳を取ったものだわ。病で窶れただけではないでしょう。
結局、私は夫を自分だけのものにするという願いは叶いませんでした。
一目で恋に落ち、婚約者がいた夫と結ばれる事を望んだ時から、私は修羅に落ちたのかもしれません。
当時、夫には相思相愛の婚約者がいたのです。
その方と正式に結婚をする前に、その方の祖国が滅び、帰る当てのない亡国の王女となってしまわれた。
梅賀王女。
彼女は、本当なら夫の正妃になるはずでした。
祖国が滅びなければ、そうなっていた悲劇の女性。
彼女の祖国は今では我が国の一部になっております。
元王女が産んだ皇子が皇位に就くことを夢見続けた国。
残念ながら、梅賀妃は子供を産むことなく儚く散ってしまわれた。
<<香雅様……>>
ああ、何時もの幻聴だわ。
このところ、梅賀妃の声が聞こえる。幻聴だわ。
<<香雅様……お恨み申し上げます>>
いったい彼女が私のなにを恨むというのかしら?
恨むというのなら、私ではなく、父上や夫の方だというのに……。
<<あなた様のせいで……私はこのような姿に……よくも我が民を……>>
おかしなことを仰いますわ。
貴女の直接の死の原因は、貴女の祖国の者達だといいますのに、何故、私のせいだと?
長い年月、私の夫の愛を独占してきた卑しい分際で。この私に意見しようとは片腹痛い。
<<憎い……恥辱を与えたあなたが…>>
梅賀妃、あなたは心得違いをしているわ。貴女を辱めて殺害したのは、貴女が愛する民ではありませんか。
<<我が民を騙したのは…あなたたち……>>
本当に人聞きの悪い事を仰います。
一体何を騙したというのでしょう?
皇太子夫妻が新しい領土を訪問する事は公務の一つです。
何故、皇帝や皇太子の許しも無く嘗ての祖国に出向いたのですか?
皇太子の巡行に正妃の私を差しおいて出向きいておいて、何故、騒動を起こしたのですか?
<<許さない…決して……>>
おかしなこと。
貴女にはちゃんと忠告したでしょう?
何があっても嘗ての祖国の民に会ってはならない、と。
私の忠告を無視した挙句、多数の男達に弄ばれた姿で躯を曝すなど、我が帝国の恥というものです。
もっとも、徳寿様の寵愛を受けて傲慢になっていた貴女には相応しい末路でしたけれど。
<<かえして…私の民たちを……>>
残念です。
貴女の大切な民とやらは既に奴隷として他国に売り払ってしまったわ。
でも、仕方のないことです。帝国皇太子の側妃を辱めて惨殺したのですから。首謀者たちは拷問の末に公開処刑をせざるを得なかったですし、貴女を辱めた者は何といっても数が多過ぎたのが問題でした。全員を捕らえる事が不可能だったのです。なら放置すればいいという問題でもありません。なにしろ、帝国の威信が掛かっていますからね。
結果として、梅賀妃の祖国の民全員で責任を取ってもらう事になったのです。要は、連帯責任という事ですね。
<<ひどい…彼らに罪は…なかった…あの時もそう……我が国は帝国と…戦をするつもりなどなかった……>>
小国の王女の分際で、徳寿様と結婚しようとした罰ですわ。
私が丁寧に祖国に戻るようお勧めしたにも関わらずに、徳寿様の婚約者として居座ったせいです。
帝国皇女の命令に背くなど身の程知らずが!
全ては貴女の浅はかな行動の結果でしょう。
<<待っているわ。香雅様。貴方様が私と同じ煉獄に落ちてくるその日を……>>
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