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112.新時代

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 即位して、翌年に待望の第一子が誕生した。男の子である。その翌年には女の子が、更に五年後には男の子が産まれた。

 世継ぎに恵まれ、政治と経済の両方とも順調だった。
 怖いくらいに。


「ミゲル陛下」

「辺境伯爵、本当に行ってしまうのか?」

「はい」

「寂しくなるな」

「私も歳です。後の事は息子夫婦に任せます。末娘も嫁ぎましたので。私の辺境伯爵としての仕事も親としての義務も果たし終えました」

「辺境伯爵が末の御令嬢を一介の騎士に嫁がすとは思わなかった」

「皆にも驚かれましたよ。ですが、娘が惚れ込んだ相手です。反対する者はいませんでした」

 彼の末娘。彼女は前回、僕の婚約者になった女性だ。
 辺境伯爵の話では随分前から恋仲だったらしい。らしいというのは、恋人だった訳でも付き合っていた過去がある訳ではなく、簡単にいうと両片思いだった。プラトニックラブといった処だ。それを聞いた時は、前回の王太子達を久しぶりに思い出した。あいつらに爪の垢を煎じて飲ませてやりたいと。後から、奴らには爪の垢すら勿体ないと反省した。

 掘り下げて聞いてみると、初恋の相手でもあった。

 純愛だ。
 一途だ。

 辺境伯爵令嬢が十歳の頃からの初恋となると……もしかして前回もそうだったのでは?
 
 そうか、好きな人いたんだ。
 全然気づかなかった。ごめんね。
 今回は是非とも好きな相手と結ばれ、幸せになって欲しい。
 

「何はともあれ、おめでとう。御令嬢には『お幸せに』と伝えておいてくれ」

「ありがとうございます。娘も陛下に祝われて幸せでしょう」

 そこから何時結婚式を挙げるのかという話で盛り上がった。そして知ったのは令嬢はかなりのお転婆だということ。剣の腕前は中々らしく、『姫騎士様』『姫武者』と呼ばれているらしい。あれ?前回はそんな話は無かった。どちらかというと大人しい女性というイメージがあった。淑やかで、しっかりした女性という印象しかない。今のような『女戦士』と言わんばかりの勇ましい姿など想像できない。前回とは異なる道を歩んでいるからだろうか。それとも、今の彼女は本来の彼女なのかもしれない。前回の僕は彼女と婚約していながら何も見ていなかったんだろう。
 

「辺境伯爵、道中気を付けて」

「はい、陛下もお元気で」

「ああ」

 こうして、辺境伯爵は旅立っていった。
 以前の王都へ――――



 元王都は復興を果たし、今では宗教都市へと変貌を遂げた。
 そして嘗ての王宮は新たに建設されて大神殿へと蘇っている。

 辺境伯爵は何故か、大神殿へと赴くというのだ。
 その理由を聞いても答えてくれず、「どうしても行かなければならないのです」というだけ。不思議ではあったが、彼なりの考えがあるだろうと思って深く追求するのは止めにした。


 彼が大神殿に赴いた一年後に第二王女が誕生した。
 この第二王女こそ、彼が長年待ち望んだ存在姉の生まれ変わりだとは誰も知らない。
 それは辺境伯爵本人ですら知らぬ形での出来事であった。


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感想 98

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みんなの感想(98件)

K
2024.08.08 K

某少年漫画の嫌われからの逆行、ザマア長編二次創作を下敷きにしたとしか思えない展開と設定でした。特に国王がレガリアとやらから見放された、あたりは致命的だと思いました。回収されない伏線ではなく元の話から持ってきた設定をうまく使いこなせなかった結果だと推察します。これをオリジナルとして出される行為が残念です。

解除
pajan
2023.11.21 pajan

とても面白い作品でした。
とくに最初の復讐はとても良かった。
被害者の方の立場に立ったとても筋の通っていて納得のいく物でした。
私も長年生きていますが不条理なことは山ほどありました。
作中でもかかれていましたが「復讐はなにも生まない……」という言葉は自身がそれほどの不幸もしくは不条理なめにあったことのない人および想像力が欠如している人物の戯れ言です。
しかし、一点だけ腑に落ちなかったのは副団長の処罰です。
もう次期国王は確定している人物に刃を向けたと言うことは、「国家反逆罪」を問われるほどの重罪です。
それこそクーデターと同じで一族郎党皆殺しが当たり前でしょう。
それが訓告あたりですんでしまっては、今までの筋の通っていた話の腰を折ってしまうと思います。
せめて生涯幽閉で地下牢にでもほおり込む位はした方が、ケジメが付いたと愚考します。
それ以外はとても理想的な展開でとても面白かったです。

解除
ひゅふぁ
2023.08.23 ひゅふぁ

面白かった!!んですけど、自分の読み落としかもしれませんが、理解が追いつかない箇所が所々ありました。
思わせぶりな公爵の弁護士。彼は大活躍でした。宰相に個人的恨みがあるそうだけれど、何だったのか。
公爵家の親族らしい話が出ましたが、もしかして辺境伯の変装かな、と邪推したりもしました。
そして、レガリア。多分、これが時間を遡らせる魔法道具で、番人という人身御供を要する国宝だと思うのですが、正確にはわかりませんでした。王が遡りの代償を払ったのかな、と推察できたのですが、定かではありません。
前世で、王の腕で死ぬ王太子に謝っていたことから、もしかしてミゲルが王族を追い詰めて、拷問し?王が国宝のことを話して、国宝が使用されたのかな、と思いました。
また、最後の辺境伯の姉、で終わるシーン。辺境伯が元王都にいるのは、レガリアがそこにあるからということで、転生することがあらかじめわかっていたということなのか、これもまたレガリアの機能の一つ?最後の最後で、??でした。

解除

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