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106.宰相(元公爵)side
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「今度はE地区か……」
「宰相閣下、如何致しましょう?」
「残っている部隊を向かわせるしかない」
「宜しいのですか?」
「他に手立てはない以上は致し方ない。援軍の要請はどうだ?」
「そ、それが……」
「無理か。まぁ、そうだろうな。反乱軍に参加していない貴族は日和見主義ばかりだ。負けると分かっているところに援軍など出さないか」
「閣下……」
私の言葉に、部下たちは悲壮感を漂わせている。
問いかけた部下など必死に唇を噛んでいる程だ。
どうやら私に「援軍はくる」「希望はまだある」と言って欲しかったようだ。だがな、そんな現実逃避などはできん。
「エンリケ王はどうだ」
「は、陛下は床についたままです」
「まだ夢の中か」
「はい」
私も部下の事は言えない。
その言葉を否定して欲しかった。
騎士団が暴徒側に付いた事を知り、また援軍を要請する手紙の返事すらない状況では如何に楽観的な王でも理解せざるを得なかった。貴族に見捨てられたのだと。失った腕が痛むといい、現実を受け入れる事ができずにそのまま夢の世界に逃避してしまわれた。
どこまで醜態を晒せば気が済むのか。
反乱軍に殺される前に暴徒共の手にかかって死ぬ可能性が高い。
それをバカ王も理解したのだろう。
まだ完全に夢の世界の住人になってはいないが時間の問題だ。
王宮からの脱出を考えなければならない。
秘密通路を知るのは今や私だけだ。
恐らくだが、エンリケ王は知らない。いや、知っていても今の状態では逃げられない。ここは私だけでも生き延びなければ。
私だけなら妻や子供達は受け入れてくれるだろう。
ミゲルに公爵位を譲った以上は妻と共に支えてやればいい。孫ができれば次期公爵として私が自ら教育してもいい。今まで出来なかった家族の団欒を再現できるはずだ。
「ここは今や陸の孤島だ」
暴徒たちに囲まれた王宮。
残った部下たちは揃いも揃って何の役にも立たない木偶の坊ときている。
この国はもう終わりだ。
王宮の秘密通路を歩いている。
ここを通った人間はそういないだろうと場違いなことを思いながら。深夜の今なら私が脱出したことに気付く者はいないだろう。すまないとは思っている。だが、彼らと違って私には待っていてくれる家族がいる身だ。
「がはっ……?!」
後ろから強烈な痛みが襲う。
なんだ?!
何が起こった!!?
衝撃はそれだけではなかった。悶絶する私を布で目を隠し、縄で括りつけられた。文句を言おうと口を開くとそのまま猿轡を噛ませてきたのだ。
なんたる屈辱!!
許さんぞ!!
ただで済むと思うな!!!
私を誰と思っている!私はこの国の宰相なのだぞ!!!
怒りと屈辱に満ち溢れながらも私の身体は何者かの手によってズルズル引きずられて行った。
「宰相閣下、如何致しましょう?」
「残っている部隊を向かわせるしかない」
「宜しいのですか?」
「他に手立てはない以上は致し方ない。援軍の要請はどうだ?」
「そ、それが……」
「無理か。まぁ、そうだろうな。反乱軍に参加していない貴族は日和見主義ばかりだ。負けると分かっているところに援軍など出さないか」
「閣下……」
私の言葉に、部下たちは悲壮感を漂わせている。
問いかけた部下など必死に唇を噛んでいる程だ。
どうやら私に「援軍はくる」「希望はまだある」と言って欲しかったようだ。だがな、そんな現実逃避などはできん。
「エンリケ王はどうだ」
「は、陛下は床についたままです」
「まだ夢の中か」
「はい」
私も部下の事は言えない。
その言葉を否定して欲しかった。
騎士団が暴徒側に付いた事を知り、また援軍を要請する手紙の返事すらない状況では如何に楽観的な王でも理解せざるを得なかった。貴族に見捨てられたのだと。失った腕が痛むといい、現実を受け入れる事ができずにそのまま夢の世界に逃避してしまわれた。
どこまで醜態を晒せば気が済むのか。
反乱軍に殺される前に暴徒共の手にかかって死ぬ可能性が高い。
それをバカ王も理解したのだろう。
まだ完全に夢の世界の住人になってはいないが時間の問題だ。
王宮からの脱出を考えなければならない。
秘密通路を知るのは今や私だけだ。
恐らくだが、エンリケ王は知らない。いや、知っていても今の状態では逃げられない。ここは私だけでも生き延びなければ。
私だけなら妻や子供達は受け入れてくれるだろう。
ミゲルに公爵位を譲った以上は妻と共に支えてやればいい。孫ができれば次期公爵として私が自ら教育してもいい。今まで出来なかった家族の団欒を再現できるはずだ。
「ここは今や陸の孤島だ」
暴徒たちに囲まれた王宮。
残った部下たちは揃いも揃って何の役にも立たない木偶の坊ときている。
この国はもう終わりだ。
王宮の秘密通路を歩いている。
ここを通った人間はそういないだろうと場違いなことを思いながら。深夜の今なら私が脱出したことに気付く者はいないだろう。すまないとは思っている。だが、彼らと違って私には待っていてくれる家族がいる身だ。
「がはっ……?!」
後ろから強烈な痛みが襲う。
なんだ?!
何が起こった!!?
衝撃はそれだけではなかった。悶絶する私を布で目を隠し、縄で括りつけられた。文句を言おうと口を開くとそのまま猿轡を噛ませてきたのだ。
なんたる屈辱!!
許さんぞ!!
ただで済むと思うな!!!
私を誰と思っている!私はこの国の宰相なのだぞ!!!
怒りと屈辱に満ち溢れながらも私の身体は何者かの手によってズルズル引きずられて行った。
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