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92.国王side
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「陛下!」
私を呼ぶ声。それを聴きながら目を開けると、そこには、私の顔を覗き込む側近の顔があった。彼は私の側近の中でも信頼している者の一人だ。
「申し訳ありません、陛下。魘されておりましたので……」
心配そうな彼の顔を見ながらぼんやりと思う。この悪夢は死ぬまで続くのだろう、と。側近が水差しからグラスに水を注ぎ、私に差し出す。その水を飲み干してようやく一息ついた。夢を見るのは疲れるからだ。彼も私の夢見が良くない事を知っている。そのうえで聞いてこない。気遣ってくれているのだ。
「ありがとう。もう大丈夫だ」
「いえ……」
側近の私を案じる視線を感じて苦笑した。この国はどうなるのか。側近達が必死に王家の血脈を探してくれている。
「陛下……」
「大丈夫だ。私はまだ死ねない」
私が死ねばこの国は荒れる。そんなことは許されない。私には果たすべき役目があるのだから。誓いを新たに、側近に今日の報告を聞こうと口を開きかけた時だ。妙な違和感を感じた。
「そなたは誰だ?」
側近の姿をしているコレは私の側近ではない。私の問い掛けに側近の姿を借りたソレは歪んだ笑いを浮かべた。それは見る者に不安を与えるような笑顔だった。私は身構えた。
「ふふっ……さすがですねぇ。魔力を殆ど失っていても気づくなんて」
楽しそうに言うソレからは邪悪なモノしか感じなかった。本能が警鐘を鳴らすが逃げ場はない。側近だった者の声から若い男の声に変化したソレは不敵に微笑む。
「貴方に生きていてもらっては困る者。貴方に死んでほしい者。この国の王だというのに。ここまで憎まれ恨まれている存在は珍しい」
「なに?!」
「あれ?気付かなかったんですか?自分が恨みを買っている事に」
「なん……だと……?」
「ああ、その様子だと自分の妻が死んだ理由も分かってなさそうだ。王様って鈍いのか鋭いのか分からない人だねぇ」
ソレの言葉に愕然とする。私の妻は病で亡くなった。医者もそう判断した。毒殺でもなんでもなかった。徹底的に調べたのだから間違いない!だというのに何故そのような事を言う?!
「はははっ。世の中、毒も呪いも関係なく病死に見せる方法は幾らでもある。解剖でもしない限り分からない方法なんかを使えば簡単だよね。特に、王族の場合は医者と魔術師が検死を行うから楽だ」
心底おかしそうに語る目の前の存在に吐き気がしてくる。
「まさか……」
信じたくはなかった。
だが、今更、王妃の死を不審に思ったところで証拠は何もない。
「王妃ってのはあそこまで恨まれるものかねぇ。王妃が死んだことで悲しんだ人間なんて殆どいないときてる。高位貴族たちは特にひどい。葬儀の際には涙を流してたのに帰ったらシャンパン開けて祝福ムードだった。物凄く喜んでた。あれは名演技だな。俺ですら感心したよ」
ソレは呆れたように溜息をつく。
「ばかな……ぐっ!げほっ!!」
反論しようとしたが、咳と共に血を吐き出してしまった。なんだ?何が起こった!?
「さっきの水には王家にまつわる毒も仕込んであったんだよね。ダメだよ?王様なんだから側近の姿形をしてるからって油断し過ぎ。まぁ、こんなところに来ているのは自分が選んだ者だけって認識があるから仕方ないかもだけど」
ケラケラと笑う声が室内に響く。
「俺の雇い主からの伝言。『お前たちを絶対に許さない。地獄に堕ちろ』だってさぁ。ああ、心配する事はないよ。最後に残った王子様にはメインの役割があてられる。その為の準備をしてきたらしいしね。『歴史に残る愚王として記憶に残らせてやる』ってさ。ホント、怖いよね」
刺客の声を聞きながら私は意識を失ったのだった。
私を呼ぶ声。それを聴きながら目を開けると、そこには、私の顔を覗き込む側近の顔があった。彼は私の側近の中でも信頼している者の一人だ。
「申し訳ありません、陛下。魘されておりましたので……」
心配そうな彼の顔を見ながらぼんやりと思う。この悪夢は死ぬまで続くのだろう、と。側近が水差しからグラスに水を注ぎ、私に差し出す。その水を飲み干してようやく一息ついた。夢を見るのは疲れるからだ。彼も私の夢見が良くない事を知っている。そのうえで聞いてこない。気遣ってくれているのだ。
「ありがとう。もう大丈夫だ」
「いえ……」
側近の私を案じる視線を感じて苦笑した。この国はどうなるのか。側近達が必死に王家の血脈を探してくれている。
「陛下……」
「大丈夫だ。私はまだ死ねない」
私が死ねばこの国は荒れる。そんなことは許されない。私には果たすべき役目があるのだから。誓いを新たに、側近に今日の報告を聞こうと口を開きかけた時だ。妙な違和感を感じた。
「そなたは誰だ?」
側近の姿をしているコレは私の側近ではない。私の問い掛けに側近の姿を借りたソレは歪んだ笑いを浮かべた。それは見る者に不安を与えるような笑顔だった。私は身構えた。
「ふふっ……さすがですねぇ。魔力を殆ど失っていても気づくなんて」
楽しそうに言うソレからは邪悪なモノしか感じなかった。本能が警鐘を鳴らすが逃げ場はない。側近だった者の声から若い男の声に変化したソレは不敵に微笑む。
「貴方に生きていてもらっては困る者。貴方に死んでほしい者。この国の王だというのに。ここまで憎まれ恨まれている存在は珍しい」
「なに?!」
「あれ?気付かなかったんですか?自分が恨みを買っている事に」
「なん……だと……?」
「ああ、その様子だと自分の妻が死んだ理由も分かってなさそうだ。王様って鈍いのか鋭いのか分からない人だねぇ」
ソレの言葉に愕然とする。私の妻は病で亡くなった。医者もそう判断した。毒殺でもなんでもなかった。徹底的に調べたのだから間違いない!だというのに何故そのような事を言う?!
「はははっ。世の中、毒も呪いも関係なく病死に見せる方法は幾らでもある。解剖でもしない限り分からない方法なんかを使えば簡単だよね。特に、王族の場合は医者と魔術師が検死を行うから楽だ」
心底おかしそうに語る目の前の存在に吐き気がしてくる。
「まさか……」
信じたくはなかった。
だが、今更、王妃の死を不審に思ったところで証拠は何もない。
「王妃ってのはあそこまで恨まれるものかねぇ。王妃が死んだことで悲しんだ人間なんて殆どいないときてる。高位貴族たちは特にひどい。葬儀の際には涙を流してたのに帰ったらシャンパン開けて祝福ムードだった。物凄く喜んでた。あれは名演技だな。俺ですら感心したよ」
ソレは呆れたように溜息をつく。
「ばかな……ぐっ!げほっ!!」
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「さっきの水には王家にまつわる毒も仕込んであったんだよね。ダメだよ?王様なんだから側近の姿形をしてるからって油断し過ぎ。まぁ、こんなところに来ているのは自分が選んだ者だけって認識があるから仕方ないかもだけど」
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刺客の声を聞きながら私は意識を失ったのだった。
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