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87.騎士団団長side

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 王宮の最奥。
 国王陛下の私室とは別に有事の際には陛下とその家族が籠る場所である。そこには王族専用の転移陣が設置されていて、緊急時には郊外の王領の邸宅へと一瞬で避難することが出来るようになっているのだそうだ。普段は使われていないが長い歴史の中には使用した王が居たのだろう。利便的ではあった。
 
 そして現在、病床に伏した陛下はこの場所を拠点とされ、回復魔法を掛け続けている。しかしそれも焼け石に水であり、もう長くない事は誰の目にも明らかであった。
 

「団長、陛下がお呼びです」

 近衛騎士団の騎士から呼ばれて部屋へと向かうとベッドの上に横たわる陛下の姿が見える。枯れ枝のようになった手足や首筋などは遠目でも痛々しく見えた。
 だが、陛下が人前に姿を出せないのは何も窶れ果てた姿だけでは無い。陛下の病はただの病ではない。魔力が枯渇しているのは周知の事実だが、その肌がどす黒く変色してきているのが一番の理由だろう。
 宮廷魔術師たちはだと言う。
 なら解呪すればいいのだがそれが出来ないのだそうだ。陛下自身に呪いに対する抵抗力が残っていないらしく解呪したところで助かるとは思えないとのことらしい。そんな状態で無理矢理命を長らえているのが現状だった。
 私は静かに歩み寄りながら膝をつく。すると私の方へ視線だけを向ける陛下の姿があった。
 
 
「お呼びと聞き参上いたしました」
 
「カストロ侯爵、グラバー大公家の方はどうなっておる?」
 
「はっ!大公家は後継者争いにて混乱中。未だまとまってはいないようです」
 
「そうか……」
 
「また大公派内部での主導権争いも勃発しております」


 いくらグラバー大公家が王国で二分する程の力を持つとは言え、所詮は亡き大公あってのもの。頭さえ居なくなればすぐに瓦解する事は分かっていた。


「後継者を決めていなかった事が仇となったな」

「はい」

「遺言状も無かったと聞く」

「はい」

「……大公は慎重な処があった。信頼できる人間に遺言状を密かに渡している可能性がある。それらしき者はいなかったか?」

「はい。弁護士の方は一切預かっていなかった事は確認が取れております」

「弁護士に預けはしないだろう。もし預けるとするなら野心を持たない秘密を守れる者だ。他人に渡す事もないだろうから娘のうちに誰かに渡していないだろうか?」

「はっ……残念ながらそのような御息女はいらっしゃらないと思われます」

「そうか……私の考え過ぎか……」

「陛下……」

「それはそうとエンリケの様子はどうだ?相変わらずか?」

「はい……よほどショックだったようです」

「婚約者が殺される瞬間を見てしまったせいだな」

「はい」

 
 神官長の息子の気持ちも分かる。
 だが、何故、殿下が一緒の時に大公女を殺すのだ。あの一件以来、殿下は部屋から出る事が困難になってしまった。


 


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