85 / 112
85.大公の死
しおりを挟む「ミゲル、ブリジット。めんどう……いいえ、大変なことが起こりました」
それは義母の第一声からはじまった。
いったいどんなことが起こったというのか。ただならぬ義母の気配に緊張が走る。僕とブリジットは顔を見合わせつつ続きの言葉を待った。こういう場合、大抵の場合は碌なものじゃない。嫌な予感がする。
「グラバー大公が亡くなりました」
「「………」」
あまりの出来事に、僕たちは無言になるしかなかった。そして次の瞬間、思わずブリジットと顔を見合わせて、深い溜息をついた。
予想外のことが起きた。
あの大公が死ぬなんて想像もしていなかった。番狂わせもいいところだ。
「昨晩、亡くなったそうよ。持病が悪化した、というのが表向きの理由にはなっているのだけれど……」
「実際は違うと?」
「えぇ、暗殺が濃厚らしいわ」
「一体誰が……」
「大公が死んで得をする者は多いわ。特定は難しいでしょうね」
「敵対している王家が怪しいのでは?」
「それは否定できません。けれど、大公を目障りに思っているのは何も王家だけではないわ。大公に部下の如く扱われ始めた宰相派、大公を恨む誰かの可能性も十分ありえるでしょう。もしかすると大公家の内部問題かもしれません」
「動機も理由もあり過ぎて絞り切れないと言った処でしょうか?」
「それが一番正しいでしょうね」
義母は大きく肩を落とした。
「どちらにせよ、これで大公派の瓦解は時間の問題でしょう。大公家は跡継ぎ争いに忙しく政争どころではないでしょうからね」
義母の意見に僕とブリジットは頷いた。
問題が多い大公家が今までバラバラにならなかったのは何だかんだ言っても亡くなった大公の強権があったからだろう。絶対的な存在が居なくなったんだ。抑圧された者たちにとってはこの上ないチャンスとなるに違いない。大公家の権威を利用していた他の貴族たちがどうでるかも未知数だ。王家は、恐らくはこれを機に求心力を復活させようと図るだろうし、宰相はそれを阻むことは間違いない。少なくとも大公派が瓦解してもそのまま黙って引き下がる元義父ではない。変な処で頑固だからな。和解はまずないだろう。
「それとこれはまだ未確認の情報ですけど、陛下が床についたらしいわ」
国王までもか。確かに最近は寝込むことが増えたとは聞いていたけど。
「陛下の容体は如何なんですか?」
ブリジットの質問を受けて、義母は渋面を浮かべた。
何か良くないことでもあるんだろうか? 僕は少し不安になった。僕の表情を見たからなのか、義母はゆっくりと口を開いた。
「ベッドから起き上がれない状態が続いているらしいわ。長くはないでしょう」
「それはやはり魔力の枯渇が原因でしょうか?」
「それは分かりません。医師の見立てではそれも可能性の一つと言うだけで、詳しい病状の理由は解明されていないのです。ただ、こうなってくると王位継承にも影響が出るかもしれないわ」
「義母上、陛下はこれを機に第一王子に王位を譲位しようとなさると?」
もしそうなら最悪である。
第一王子の婚約者はあの大公女。大公家が後ろ盾に付けばやりたい放題だろう。
「分からないわ。今の時点では情報不足ね。ミゲルの言った可能性もあるという程度に留めておくべきでしょう」
つまり最悪の状況になる恐れは十分あると言う事だ。
この時、さらに笑えない事態が発生していることを僕たちは知る由も無かった。
112
お気に入りに追加
3,258
あなたにおすすめの小説
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)
深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。
そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。
この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。
聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。
ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
国外追放を受けた聖女ですが、戻ってくるよう懇願されるけどイケメンの国王陛下に愛されてるので拒否します!!
真時ぴえこ
恋愛
「ルーミア、そなたとの婚約は破棄する!出ていけっ今すぐにだ!」
皇太子アレン殿下はそうおっしゃられました。
ならよいでしょう、聖女を捨てるというなら「どうなっても」知りませんからね??
国外追放を受けた聖女の私、ルーミアはイケメンでちょっとツンデレな国王陛下に愛されちゃう・・・♡
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる