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85.大公の死
しおりを挟む「ミゲル、ブリジット。めんどう……いいえ、大変なことが起こりました」
それは義母の第一声からはじまった。
いったいどんなことが起こったというのか。ただならぬ義母の気配に緊張が走る。僕とブリジットは顔を見合わせつつ続きの言葉を待った。こういう場合、大抵の場合は碌なものじゃない。嫌な予感がする。
「グラバー大公が亡くなりました」
「「………」」
あまりの出来事に、僕たちは無言になるしかなかった。そして次の瞬間、思わずブリジットと顔を見合わせて、深い溜息をついた。
予想外のことが起きた。
あの大公が死ぬなんて想像もしていなかった。番狂わせもいいところだ。
「昨晩、亡くなったそうよ。持病が悪化した、というのが表向きの理由にはなっているのだけれど……」
「実際は違うと?」
「えぇ、暗殺が濃厚らしいわ」
「一体誰が……」
「大公が死んで得をする者は多いわ。特定は難しいでしょうね」
「敵対している王家が怪しいのでは?」
「それは否定できません。けれど、大公を目障りに思っているのは何も王家だけではないわ。大公に部下の如く扱われ始めた宰相派、大公を恨む誰かの可能性も十分ありえるでしょう。もしかすると大公家の内部問題かもしれません」
「動機も理由もあり過ぎて絞り切れないと言った処でしょうか?」
「それが一番正しいでしょうね」
義母は大きく肩を落とした。
「どちらにせよ、これで大公派の瓦解は時間の問題でしょう。大公家は跡継ぎ争いに忙しく政争どころではないでしょうからね」
義母の意見に僕とブリジットは頷いた。
問題が多い大公家が今までバラバラにならなかったのは何だかんだ言っても亡くなった大公の強権があったからだろう。絶対的な存在が居なくなったんだ。抑圧された者たちにとってはこの上ないチャンスとなるに違いない。大公家の権威を利用していた他の貴族たちがどうでるかも未知数だ。王家は、恐らくはこれを機に求心力を復活させようと図るだろうし、宰相はそれを阻むことは間違いない。少なくとも大公派が瓦解してもそのまま黙って引き下がる元義父ではない。変な処で頑固だからな。和解はまずないだろう。
「それとこれはまだ未確認の情報ですけど、陛下が床についたらしいわ」
国王までもか。確かに最近は寝込むことが増えたとは聞いていたけど。
「陛下の容体は如何なんですか?」
ブリジットの質問を受けて、義母は渋面を浮かべた。
何か良くないことでもあるんだろうか? 僕は少し不安になった。僕の表情を見たからなのか、義母はゆっくりと口を開いた。
「ベッドから起き上がれない状態が続いているらしいわ。長くはないでしょう」
「それはやはり魔力の枯渇が原因でしょうか?」
「それは分かりません。医師の見立てではそれも可能性の一つと言うだけで、詳しい病状の理由は解明されていないのです。ただ、こうなってくると王位継承にも影響が出るかもしれないわ」
「義母上、陛下はこれを機に第一王子に王位を譲位しようとなさると?」
もしそうなら最悪である。
第一王子の婚約者はあの大公女。大公家が後ろ盾に付けばやりたい放題だろう。
「分からないわ。今の時点では情報不足ね。ミゲルの言った可能性もあるという程度に留めておくべきでしょう」
つまり最悪の状況になる恐れは十分あると言う事だ。
この時、さらに笑えない事態が発生していることを僕たちは知る由も無かった。
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