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64.王子side
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大公女との交流はハッキリ言って退屈極まりなかった。
そもそも育った環境が違う。話など合うはずがなかった。しかも中途半端な貴族の情報を持っているものだから余計に始末に悪い。最初は媚びるような態度の大公女は次第に横柄になり、今では最低限の交流しか行っていない。
それは王立学園に入ってからも変わらなかった。
「父上、あの大公女は自分の立場が分かっていません。彼女の学園内の評判は最悪です」
「それほどか」
「はい。登校初日の件があるためかは分かりませんがぺーゼロット公爵子息を追いかけまわしています」
「公爵の息子をか?」
「はい」
最近では体調が回復傾向にある父上に私は学園内で起こっている事を逐一報告している。宰相が大公家に寝返ったせいで父上の支持基盤が危うくなっている。父上の魔力枯渇は機密扱いだが、いつ宰相達が暴露するか分かったものではない。そのため大公女の行動はなるべく父上と共有しておいた方がいいと思ったからだ。
学園の大多数の人間から敬遠されているというのに大公女は他者の評価に関心を示さないのか態度を改める気はない。このままだといずれ取り返しのつかない事になるかもしれないという不安もある。
しかしだからと言って彼女に苦言を呈するには抵抗があった。
「そう言えば父上は以前私とぺーゼロット公爵令嬢との婚姻を望んでいらっしゃいましたね」
私は話題を変えるためにそんなことを口走った。他意はない。深刻な顔の父上に違う話題で頭を切り替えて欲しかっただけだ。
「それがどうかしたのか?」
「いいえ。何でもありません。ただ父上は今もそれをお望みなのかと思いまして」
「そうだな。それが一番いいと思っていた。お前にとっても、王家にとっても……国にとってもな。だが、それは叶わぬ夢となった」
「父上、やはり私の婚約者をぺーゼロット公爵令嬢に致しましょう。大公女の振る舞いは余りにも酷い。それを理由にすれば婚約解消はできるのではありませんか?」
「大公は決して許さないだろう。それに」
「それに?」
「私が今のような状況である限り宰相が娘を王家に嫁がせる事はないだろう」
「……」
「すまないな。エンリケ」
「謝らないでください父上」
「すまぬ」
父上は何も悪くない。何もかも全部大公家が悪いのだ。そして父上が魔力枯渇だと知るや否や大公家に鞍替えした宰相が悪い。
しかし現実は父上の言う通りだ。
結局、私とぺーゼロット公爵令嬢の間に正式な婚約を結ぶことは無かった。そして私は彼女を妻にするどころか顔を合わせる事すらできなかった。同じ学園に通っていても校舎が違えば会う事もない。馬車に乗る姿を遠目から見かけただけだ。遠くからでも分かる気品の高さと美しさだった。まるで絵画の世界から抜け出てきた女神のようだった。主席の成績を修め、容姿端麗の公爵令嬢は秘かにファンクラブまでいると聞いた。彼女なら次期王妃として相応しい。それに大公家に対抗するには打って付けの人材だ。
私達を裏切った宰相だが、家族に国の機密情報を漏らす人物ではない。
ならば、公爵令嬢の方を落とせば宰相も再びこちらの味方にならざるを得ないだろう。一度裏切った宰相を信じる事はできないが、それでも政界の実力者だ。ここは王族の大きな器をもって許してやるのもやぶさかではない。
そうして、公爵令嬢に接近しようと下位貴族の何人かを協力者に仕立てる事ができたが、何故かどれも失敗に終わった。
そもそも育った環境が違う。話など合うはずがなかった。しかも中途半端な貴族の情報を持っているものだから余計に始末に悪い。最初は媚びるような態度の大公女は次第に横柄になり、今では最低限の交流しか行っていない。
それは王立学園に入ってからも変わらなかった。
「父上、あの大公女は自分の立場が分かっていません。彼女の学園内の評判は最悪です」
「それほどか」
「はい。登校初日の件があるためかは分かりませんがぺーゼロット公爵子息を追いかけまわしています」
「公爵の息子をか?」
「はい」
最近では体調が回復傾向にある父上に私は学園内で起こっている事を逐一報告している。宰相が大公家に寝返ったせいで父上の支持基盤が危うくなっている。父上の魔力枯渇は機密扱いだが、いつ宰相達が暴露するか分かったものではない。そのため大公女の行動はなるべく父上と共有しておいた方がいいと思ったからだ。
学園の大多数の人間から敬遠されているというのに大公女は他者の評価に関心を示さないのか態度を改める気はない。このままだといずれ取り返しのつかない事になるかもしれないという不安もある。
しかしだからと言って彼女に苦言を呈するには抵抗があった。
「そう言えば父上は以前私とぺーゼロット公爵令嬢との婚姻を望んでいらっしゃいましたね」
私は話題を変えるためにそんなことを口走った。他意はない。深刻な顔の父上に違う話題で頭を切り替えて欲しかっただけだ。
「それがどうかしたのか?」
「いいえ。何でもありません。ただ父上は今もそれをお望みなのかと思いまして」
「そうだな。それが一番いいと思っていた。お前にとっても、王家にとっても……国にとってもな。だが、それは叶わぬ夢となった」
「父上、やはり私の婚約者をぺーゼロット公爵令嬢に致しましょう。大公女の振る舞いは余りにも酷い。それを理由にすれば婚約解消はできるのではありませんか?」
「大公は決して許さないだろう。それに」
「それに?」
「私が今のような状況である限り宰相が娘を王家に嫁がせる事はないだろう」
「……」
「すまないな。エンリケ」
「謝らないでください父上」
「すまぬ」
父上は何も悪くない。何もかも全部大公家が悪いのだ。そして父上が魔力枯渇だと知るや否や大公家に鞍替えした宰相が悪い。
しかし現実は父上の言う通りだ。
結局、私とぺーゼロット公爵令嬢の間に正式な婚約を結ぶことは無かった。そして私は彼女を妻にするどころか顔を合わせる事すらできなかった。同じ学園に通っていても校舎が違えば会う事もない。馬車に乗る姿を遠目から見かけただけだ。遠くからでも分かる気品の高さと美しさだった。まるで絵画の世界から抜け出てきた女神のようだった。主席の成績を修め、容姿端麗の公爵令嬢は秘かにファンクラブまでいると聞いた。彼女なら次期王妃として相応しい。それに大公家に対抗するには打って付けの人材だ。
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ならば、公爵令嬢の方を落とせば宰相も再びこちらの味方にならざるを得ないだろう。一度裏切った宰相を信じる事はできないが、それでも政界の実力者だ。ここは王族の大きな器をもって許してやるのもやぶさかではない。
そうして、公爵令嬢に接近しようと下位貴族の何人かを協力者に仕立てる事ができたが、何故かどれも失敗に終わった。
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