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60.とある子息side
しおりを挟む受け取った指輪。
俺は男子寮の部屋に戻るとそれを嵌めてみた。
すると脳に直接何かの映像が送られてきたような感じがして目眩がした。
な、なんだ?これは?
俺は知らないぞ?こんなこと……。俺がブリジット様の悪評を流しているだと?!
それに……大公女様が平民のまま?聖女?光魔法だ……と?
次々と映像が送られてきて頭の中に焼き付いてくるようだ。
うわっ……これは一体なんの記憶だ?何故?第一王子が王太子?ブリジット様の婚約者?なんだ!これは!!!くそっ……頭がおかしくなりそうだ……映像はそれでも終わらない。
ブリジット様を糾弾する者達。
王太子殿下との密約。
王太子夫妻の華やかな結婚式。
ブリジット様が亡くなっただと?!
いやだ……いやだ……これ以上見たくない!!
「あ、ああああああああ!!!」
思い出した!これは俺の未来の姿だ!!
いや、待て!違う。過去か?俺は俺は……。そうだ……そうだった……あの時に全てが壊れた。いや違う。ミゲル様の逆鱗に触れたんだ!!俺の仕出かした事で家族だけじゃない。一族の全てを壊したんだ……俺は……。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
くっ……身体が熱い。全身汗だらけだ……気持ち悪い。
俺は水を出して桶に溜めて、それで頭を冷やしながら思考を巡らせる。
今の俺が持っている情報はおかしなものばかりだ。おじさんは言っていた「忘れた記憶を取り戻せる」と。俺はあの地獄から解放された?いや、それはおかしい。俺はまだ学生だ。ならなんだ?
もしかして……時間が戻った?悲劇が起きる前に戻って来たという事だろうか?
ああ、それなら説明がつく。
フリードは俺よりはマシな人生を送れるだろう。
まだ、学園内で悪評を流していただけだからな。俺のような末路を辿ることは無いはずだ。両親も揃っている事だし。これから幾らでも挽回できる。
「それにしても……前とは全然違うな」
ミゲル様は学生時代は大人しい優等生タイプだった。姉君が亡くなった事で魔王と化したが……。
「それに王子殿下は立太子していない。聖女が大公女……?」
違いが多過ぎる。
それは学園の在り方もそうだ。
以前は入学試験など無かった。
ランダムな感じでクラス分けがされていたように思う。
『人の姉を貶めておいて自分達は幸せになれるなんて本気で思ってる?もし思っているんだったら人の心を持って無いクズだね。そんなクズには自分達にお似合いの場所に行くのが一番いい』
底冷えするミゲル様の声を思い出す。
一番下の妹が変態親父に売り払われた時に言われたセリフだ。
あの時は恨んだ。なんで妹までって。俺にだけ復讐すればいいじゃないかって。家族や妹は関係ないだろうと叫んだ。その時のミゲル様の蔑んだ冷たい目は一生忘れられないだろう。
ブリジット様は王家の全てを知っていた。だからこそ王家に嫁がなければ待っているのは「死」だという事すら考えつかなかった。冷ややかな声で説明された時に俺は何て言ったか……ああ、そうだ。
『そんなもの俺達は知らない!雲の上の連中の考えなんて知る訳ないだろ!!』
我ながら最悪の言葉だ。
ミゲル様の復讐が苛烈だったのはきっと俺みたいな連中が多かったせいだろう。
だから家族や親族まで復讐対象だったんだ。
人様の「姉」を殺しておいて自分達の家族は関係ないと宣ったんだ。
そりゃあ、復讐の対象にされてもおかしくない。先にミゲル様の「家族」に手を出したのは俺達なんだから。
あの方に目を付けられないようにしないと――――
できうることなら『記憶にあまり残らない同級生』の立場が一番いい。
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