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55.とある令嬢side

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「とにかく、エミリーにはもう少し頭を冷やして欲しいわ。貴女の行動一つで家が傾くかもしれない事を覚えておいて頂戴」
 
「なっ?!」
 
「そもそも、どうしてミゲル様なの?高位貴族は他にもいるでしょ?貴女本当にミゲル様が好きなの?」
 
「もちろんよ」
 
「じゃあ、どこが好きなの?家柄?見た目?」
 
「それは……」

 言葉を濁すエミリー。これは怪しいものだわ。
 
「……貴女、まさか公爵家の跡取りだから結婚したいなんて言わないわよね?」
 
「ち、違うわ! ミゲル様は国では珍しい黒髪だし、美形だし、頭も良いし、運動神経だっていい。そ、それに生徒会長だし!!」
 
「最後の理由は一番要らないと思うわ。そもそも見た目と能力で決めたの?それなら他にだって似たようなのはいるでしょ?流石に黒髪は無理だけど。そこそこ顔が良くて能力のある男なんてこの学園に沢山居るわよ。そんなので公爵家の奥方が務まると思って?」
 
「なっ!そんな言い方しないで!!」
 
「事実でしょ?」
 
「うぅ……。でも!公爵家に嫁げば私の家のお店に箔がつくって言われたんだもの!!」

 エミリーはそう言うとボロボロと泣き出してしまった。私はその様子に呆れるしかなかった。

「それなら尚更ミゲル様は止めておきなさい」
 
「嫌!絶対にイヤ! 私が結婚するのはミゲル様よ!他の人じゃダメなの!」
 
「なんで?」
 
「公爵夫人ならもう誰もなんて馬鹿にしてこない!!それに公爵となったミゲル様の妻になれば皆が羨望の目で見てくれるに違いないわ!!」
 
「そんなことで?」

 思わず言葉に出てしまった。
 何、この子。頭沸いてるの?そんなことで公爵夫人になりたい?バカじゃないの。それで自分の人生を棒に振るつもりなのかしら。
 
「エミリー、貴女は公爵家を……いいえ。ミゲル様を甘く見過ぎているわ。あの方は貴女が思っている程簡単な方でもましてや優しい方でもないわ。寧ろ、その逆よ」
 
「どういう意味?」
 
「敵に対して何処までも残酷になれる方ってこと。ミゲル様は敵に容赦しないわ。ブリジット様に危害を加える者をこのまま野放しにはしない。それが例え……ね」
 
「え?」

 エミリーは何を言っているのか分からないという表情をしている。
 それも仕方がない事だった。規律に厳しいミゲル様だけど基本優しい。その姿を見ていれば勘違いしても仕方がなかった。そう、のように。

「これからもブリジット様を貶める行動を止めないというのなら、私は貴女と友人ではいられないわ。エミリー」
 
「そ、そんな!」
 
「だからこれは最後の忠告よ。今すぐ止めなければ死んだ方が遥かにマシだ、と思えるような未来が待っているわ」
 
「……」

 無言になったエミリーに私は溜息をつく。きっとこの子は分かっていない。今の自分がどんな状況か全く気付いていないのだ。愚かだと思った。同時に可哀想だ、とも思った。大公女に騙されて利用されて。
 私はエミリーの友人でありたかった。
 だけどもうそれは叶わないかもしれない。
 私の言葉を聞いてもエミリーは考えを変えないだろう。
 だから私は何も告げずにその場を去った。
 これ以上話すことはない。後ろを振り返ることはしなかった。ただ真っ直ぐ前を見て歩いた。涙は出なかった。只々、胸が痛かった。

 今日、私は保身のために友人を見捨てた。

 



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