55 / 112
55.とある令嬢side
しおりを挟む「とにかく、エミリーにはもう少し頭を冷やして欲しいわ。貴女の行動一つで家が傾くかもしれない事を覚えておいて頂戴」
「なっ?!」
「そもそも、どうしてミゲル様なの?高位貴族は他にもいるでしょ?貴女本当にミゲル様が好きなの?」
「もちろんよ」
「じゃあ、どこが好きなの?家柄?見た目?」
「それは……」
言葉を濁すエミリー。これは怪しいものだわ。
「……貴女、まさか公爵家の跡取りだから結婚したいなんて言わないわよね?」
「ち、違うわ! ミゲル様は国では珍しい黒髪だし、美形だし、頭も良いし、運動神経だっていい。そ、それに生徒会長だし!!」
「最後の理由は一番要らないと思うわ。そもそも見た目と能力で決めたの?それなら他にだって似たようなのはいるでしょ?流石に黒髪は無理だけど。そこそこ顔が良くて能力のある男なんてこの学園に沢山居るわよ。そんなので公爵家の奥方が務まると思って?」
「なっ!そんな言い方しないで!!」
「事実でしょ?」
「うぅ……。でも!公爵家に嫁げば私の家のお店に箔がつくって言われたんだもの!!」
エミリーはそう言うとボロボロと泣き出してしまった。私はその様子に呆れるしかなかった。
「それなら尚更ミゲル様は止めておきなさい」
「嫌!絶対にイヤ! 私が結婚するのはミゲル様よ!他の人じゃダメなの!」
「なんで?」
「公爵夫人ならもう誰も商人貴族なんて馬鹿にしてこない!!それに公爵となったミゲル様の妻になれば皆が羨望の目で見てくれるに違いないわ!!」
「そんなことで?」
思わず言葉に出てしまった。
何、この子。頭沸いてるの?そんなことで公爵夫人になりたい?バカじゃないの。それで自分の人生を棒に振るつもりなのかしら。
「エミリー、貴女は公爵家を……いいえ。ミゲル様を甘く見過ぎているわ。あの方は貴女が思っている程簡単な方でもましてや優しい方でもないわ。寧ろ、その逆よ」
「どういう意味?」
「敵に対して何処までも残酷になれる方ってこと。ミゲル様は敵に容赦しないわ。ブリジット様に危害を加える者をこのまま野放しにはしない。それが例え……王族であろうともね」
「え?」
エミリーは何を言っているのか分からないという表情をしている。
それも仕方がない事だった。規律に厳しいミゲル様だけど基本優しい。その姿を見ていれば勘違いしても仕方がなかった。そう、以前の私のように。
「これからもブリジット様を貶める行動を止めないというのなら、私は貴女と友人ではいられないわ。エミリー」
「そ、そんな!」
「だからこれは最後の忠告よ。今すぐ止めなければ死んだ方が遥かにマシだ、と思えるような未来が待っているわ」
「……」
無言になったエミリーに私は溜息をつく。きっとこの子は分かっていない。今の自分がどんな状況か全く気付いていないのだ。愚かだと思った。同時に可哀想だ、とも思った。大公女に騙されて利用されて。
私はエミリーの友人でありたかった。
だけどもうそれは叶わないかもしれない。
私の言葉を聞いてもエミリーは考えを変えないだろう。
だから私は何も告げずにその場を去った。
これ以上話すことはない。後ろを振り返ることはしなかった。ただ真っ直ぐ前を見て歩いた。涙は出なかった。只々、胸が痛かった。
今日、私は保身のために友人を見捨てた。
141
お気に入りに追加
3,258
あなたにおすすめの小説
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
【完結】無能な聖女はいらないと婚約破棄され、追放されたので自由に生きようと思います
黒幸
恋愛
辺境伯令嬢レイチェルは学園の卒業パーティーでイラリオ王子から、婚約破棄を告げられ、国外追放を言い渡されてしまう。
レイチェルは一言も言い返さないまま、パーティー会場から姿を消した。
邪魔者がいなくなったと我が世の春を謳歌するイラリオと新たな婚約者ヒメナ。
しかし、レイチェルが国からいなくなり、不可解な事態が起き始めるのだった。
章を分けるとかえって、ややこしいとの御指摘を受け、章分けを基に戻しました。
どうやら、作者がメダパニ状態だったようです。
表紙イラストはイラストAC様から、お借りしています。
異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)
深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。
そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。
この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。
聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。
ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
国外追放を受けた聖女ですが、戻ってくるよう懇願されるけどイケメンの国王陛下に愛されてるので拒否します!!
真時ぴえこ
恋愛
「ルーミア、そなたとの婚約は破棄する!出ていけっ今すぐにだ!」
皇太子アレン殿下はそうおっしゃられました。
ならよいでしょう、聖女を捨てるというなら「どうなっても」知りませんからね??
国外追放を受けた聖女の私、ルーミアはイケメンでちょっとツンデレな国王陛下に愛されちゃう・・・♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる