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48.ジョバンニside
しおりを挟む『我らは国のため王家のために存在するのだ』
近衛騎士団団長である父は国と王家に忠誠を尽くしていた。
それは代々の侯爵家当主としての誇りもあったのだろう。
『正義のために剣を振るえ』
父の教えに背いた事はない。
一度たりとも。
『弱き者を助けるのが騎士の務めだ』
それが俺の行動指針だった。
なのに。
父上は俺を信じてはくださらなかった。
誰よりも強く正しい父は俺ではなく、他人を信じた。家から出された時、父上に裏切られたと思った。何故、信じてくださらないのか。実の息子の言葉よりも他人の言葉を信じるのですか?怒りや悲しみより先に失望を覚えた。俺はもう父上にとって不要な存在なのだろうか……と絶望すらしたものだ。
あの日、ルーチェ様が俺への冤罪を晴らして下さるまでずっと。
弱者と思っていた者は平然と嘘をつき、人を貶めるのが上手かった。
分からない。
これが父上が守ろうとしたモノだというのか?
こんな卑劣極まりない輩を守っていくのが騎士道だというのか?
嘘に躍らされて無実の者を寄ってたかって責め立てるモノを守るだと……?
ふざけるな!!
俺の剣はそんな愚か者達を守るためにあるのではない!!
そんなものは守るに値しない!!
『あなたは無実に決まっているわ。私がきっと証拠を見つけ出すから待っていて』
彼女だけが俺の味方だった。
どんなに他の者が俺を犯人だと決めつけても彼女だけは信じなかった。大変な労力をかけて証拠を集めて来てくれた。
『許す必要なんてないわ。だって彼らは加害者なんだもの』
そうだ。
俺を信じなかった者達。
冤罪と知るや否や再び擦り寄ってきた連中。何が悪かった、だ。すまない?そんな言葉で終わらせる気か?
訳知り顔で、「人は間違いを犯すものです。深い心で許して差し上げる事も大事ですよ」とアホな事をほざいてきた奴らもいた。
偽善者が!!
俺が知らないとでも思っているのか!!
お前達も以前は陰口を叩いていたくせに!!!
何故、被害者の俺が許しを与える事を強制されなければならないんだ!!?
『被害者のジョバンニがどうして苦しむ必要があるの?』
許さなくていいと言ってくれたのは彼女だけ。
許しを与える必要はないと微笑んでくれたのは彼女だけ。
苦しむことはない……そう言ってくれたのも彼女だけ。
『行くところがないならずっとココに居ればいいわ』
行き場のない俺に居場所を与えてくれた。
これからも傍にいることを喜んでくれた。
俺は大公女ルーチェ様の為に剣を振るう。
そう決めたんだ。
後悔はない。
なのに……この全身を襲う痛み。
ミゲル・ぺーゼロット公爵子息。
甘やかされた典型的な箱入り息子のはずが。俺を圧倒する実力を持っていたとは予想外だった。
俺は二週間高熱で魘されていた。
「一時は危ないところでした」
医師は熱が引いた事に安堵していた。
どうやら俺は命の危機に瀕していたようだ。素人相手に情けなくなった。
「それと……ジョバンニ様。その……非常に言いにくいのですが」
「なんだ?ハッキリと言ってくれ」
「…………顔面を酷く殴打されまして。回復魔法を施してもこれ以上は無理でしょう。恐らく魔力を込めて殴られたと思われます。これ以上の治癒は難しいかと……。それと左目の視力はほぼ失われるかと思われます……」
医者の言葉に俺は愕然とした。
俺は言葉が出てこなかった。
顔は良い。そんなものはどうだっていいのだ。だが目は?俺の左目はもう二度と光を見る事がないのか? あの日の光景が浮かび悔しさと憎しみが蘇ってくる。
あの男……決して許さない!!!
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