上 下
48 / 112

48.ジョバンニside

しおりを挟む
 
『我らは国のため王家のために存在するのだ』

 近衛騎士団団長である父は国と王家に忠誠を尽くしていた。
 それは代々の侯爵家当主としての誇りもあったのだろう。

『正義のために剣を振るえ』

 父の教えに背いた事はない。
 一度たりとも。

『弱き者を助けるのが騎士の務めだ』

 それが俺の行動指針だった。
 なのに。
 父上は俺を信じてはくださらなかった。
 誰よりも強く正しい父は俺ではなく、他人を信じた。家から出された時、父上に裏切られたと思った。何故、信じてくださらないのか。実の息子の言葉よりも他人の言葉を信じるのですか?怒りや悲しみより先に失望を覚えた。俺はもう父上にとって不要な存在なのだろうか……と絶望すらしたものだ。

 あの日、ルーチェ様が俺への冤罪を晴らして下さるまでずっと。

 弱者と思っていた者は平然と嘘をつき、人を貶めるのが上手かった。

 分からない。
 これが父上が守ろうとしたモノだというのか?
 こんな卑劣極まりない輩を守っていくのが騎士道だというのか?
 嘘に躍らされて無実の者を寄ってたかって責め立てるモノを守るだと……?

 ふざけるな!!

 俺の剣はそんな愚か者達を守るためにあるのではない!!
 そんなものは守るに値しない!!




『あなたは無実に決まっているわ。私がきっと証拠を見つけ出すから待っていて』

 彼女だけが俺の味方だった。
 どんなに他の者が俺を犯人だと決めつけても彼女だけは信じなかった。大変な労力をかけて証拠を集めて来てくれた。


『許す必要なんてないわ。だって彼らはなんだもの』

 そうだ。
 俺を信じなかった者達。
 冤罪と知るや否や再び擦り寄ってきた連中。何が悪かった、だ。すまない?そんな言葉で終わらせる気か?
 訳知り顔で、「人は間違いを犯すものです。深い心で許して差し上げる事も大事ですよ」とアホな事をほざいてきた奴らもいた。
 偽善者が!!
 俺が知らないとでも思っているのか!!
 お前達も以前は陰口を叩いていたくせに!!!
 何故、被害者の俺が許しを与える事を強制されなければならないんだ!!?

 
『被害者のジョバンニがどうして苦しむ必要があるの?』

 許さなくていいと言ってくれたのは彼女だけ。
 許しを与える必要はないと微笑んでくれたのは彼女だけ。
 苦しむことはない……そう言ってくれたのも彼女だけ。
 

『行くところがないならずっとココに居ればいいわ』

 行き場のない俺に居場所を与えてくれた。
 これからも傍にいることを喜んでくれた。
 
 俺は大公女ルーチェ様の為に剣を振るう。
 そう決めたんだ。
 後悔はない。



 なのに……この全身を襲う痛み。
 ミゲル・ぺーゼロット公爵子息。
 甘やかされた典型的な箱入り息子のはずが。俺を圧倒する実力を持っていたとは予想外だった。

 俺は二週間高熱で魘されていた。
 
「一時は危ないところでした」

 医師は熱が引いた事に安堵していた。
 どうやら俺は命の危機に瀕していたようだ。素人相手に情けなくなった。

「それと……ジョバンニ様。その……非常に言いにくいのですが」

「なんだ?ハッキリと言ってくれ」

「…………顔面を酷く殴打されまして。回復魔法を施してもこれ以上は無理でしょう。恐らく魔力を込めて殴られたと思われます。これ以上の治癒は難しいかと……。それと左目の視力はほぼ失われるかと思われます……」

 医者の言葉に俺は愕然とした。
 俺は言葉が出てこなかった。
 顔は良い。そんなものはどうだっていいのだ。だが目は?俺の左目はもう二度と光を見る事がないのか? あの日の光景が浮かび悔しさと憎しみが蘇ってくる。

 あの男……決して許さない!!!


しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

【後日談完結】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長していった。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、そして・・・。 初投稿というか、初作品というか、まともな初執筆品です。 今までこういうものをまともに書いたこともなかったのでいろいろと変なところがあるかもしれませんがご了承ください。 誤字脱字等あれば連絡をお願いします。 感想やレビューをいただけるととてもうれしいです。書くときの参考にさせていただきます。 おもしろかっただけでも励みになります。 2021/6/27 無事に完結しました。 2021/9/10 後日談の追加開始 2022/2/18 後日談完結

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。

鏑木 うりこ
恋愛
 クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!  茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。  ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?    (´・ω・`)普通……。 でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪

鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。 「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」 だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。 濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが… 「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」  テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。 「誰と誰の婚約ですって?」 「俺と!お前のだよ!!」  怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。 「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

処理中です...