38 / 112
38.放火事件1
しおりを挟む
ヨハン・フィーデス。
彼もまた前回は王太子の側近だった男だ。
そして義姉上を嵌めた連中の一人。
神官長の息子で、聖女に御執心だった男が再び彼女に入れ込むのは何も不思議とは思わなかった。
そう、この報告書を読むまでは――
「こ、これは……」
「ある意味で、カストロ侯爵子息よりも悪質だわ」
「義姉上はヨハン・フィーデスの件にも大公女が関わっていると考えているのですか?」
「ええ。正確には大公家が関わっていると思っているわ。だって、大公家にとって都合の良い展開ですもの」
深夜の神殿が放火されるなど中々ない。
それも郊外の小さな神殿だ。新聞の端に情報が載ったくらいだろう。噂にもならなかったに違いない。けれど、当事者たちは違う。何故か、その日その場所にヨハンの妹が滞在していた。数名の供の者と一緒に。そこで起こった火事のせいで彼女は失明し、喉を傷めて美しかった声を失ったらしい。義姉上の言う通り偶然にしては出来すぎている。火事に気付くのに遅れたというのも作為的なものを感じる。報告書を読む限り彼女以外は軽傷で済んでいるのも妙な話だ。彼女を助け出す事さえしていない。まあ、突然の火事で判断能力を失っていたとも言えるだろうが……。それにしては随分と杜撰すぎるのではないか? まるで彼女が重症になって欲しいと言わんばかりだ。考え過ぎと言えばそれまでだろうけど。次のページでヨハンの妹は回復魔法を施されたものの火事のショックで目が見えないままらしい。
「憐れに思った大公女が彼女に慈悲を与えたとあるわ。目が見えないのは心の病の所為だと。彼女に最新の精神魔法を施す事で、彼女の目は見えるようになる。でもその対価として声を失うという誓約がなされたみたいだわ」
「義姉上……それは……」
「ミゲルの考えている通りよ。つまりフィーデス家は彼女から声を奪う代わりに光を取り戻したということね」
「ですが、精神魔法が新しい魔術である以上その誓約がどう反応するのかまだ未知数だと聞いています。場合によっては両方失うことになるとも……」
「そうなるかもしれないわね。でも、ならないかもしれない。こればかりは本当に分からないわ。彼女の兄や家族は何時治るか分からない心の病よりも確実性を取ったと言う話よ。話せないリスクよりも目が見えないリスクの方が大きいと判断したのでしょう。目が見れるようになれば話せなくとも筆談や手話で会話できるのだから」
「確かに一理あります。それでも思い切った事をしたものです」
「大公家が責任をもって直すと言い切ったらしいわ」
「それはそれは」
「なんでも、大公女は妹君と親しい間柄だったようで、娘の願いを叶えたいと大公からの申し出のようだわ」
親しいね。
前の時は友人だった。
神官長の娘と聖女という立場は親しくなれる環境でもあった。でも、今回は?
ルーチェ・サンタは平民の聖女ではない。
大公家の令嬢だ。
嘗ては神殿に保護された孤児から聖女になった。
だからこそ、自分を聖女に推挙した神官長の娘と親しくなる機会があったとも言える。
だが、今は違う。
親しくなったのは偶然とは思えない。何からの意図を感じざるを得ない。
彼もまた前回は王太子の側近だった男だ。
そして義姉上を嵌めた連中の一人。
神官長の息子で、聖女に御執心だった男が再び彼女に入れ込むのは何も不思議とは思わなかった。
そう、この報告書を読むまでは――
「こ、これは……」
「ある意味で、カストロ侯爵子息よりも悪質だわ」
「義姉上はヨハン・フィーデスの件にも大公女が関わっていると考えているのですか?」
「ええ。正確には大公家が関わっていると思っているわ。だって、大公家にとって都合の良い展開ですもの」
深夜の神殿が放火されるなど中々ない。
それも郊外の小さな神殿だ。新聞の端に情報が載ったくらいだろう。噂にもならなかったに違いない。けれど、当事者たちは違う。何故か、その日その場所にヨハンの妹が滞在していた。数名の供の者と一緒に。そこで起こった火事のせいで彼女は失明し、喉を傷めて美しかった声を失ったらしい。義姉上の言う通り偶然にしては出来すぎている。火事に気付くのに遅れたというのも作為的なものを感じる。報告書を読む限り彼女以外は軽傷で済んでいるのも妙な話だ。彼女を助け出す事さえしていない。まあ、突然の火事で判断能力を失っていたとも言えるだろうが……。それにしては随分と杜撰すぎるのではないか? まるで彼女が重症になって欲しいと言わんばかりだ。考え過ぎと言えばそれまでだろうけど。次のページでヨハンの妹は回復魔法を施されたものの火事のショックで目が見えないままらしい。
「憐れに思った大公女が彼女に慈悲を与えたとあるわ。目が見えないのは心の病の所為だと。彼女に最新の精神魔法を施す事で、彼女の目は見えるようになる。でもその対価として声を失うという誓約がなされたみたいだわ」
「義姉上……それは……」
「ミゲルの考えている通りよ。つまりフィーデス家は彼女から声を奪う代わりに光を取り戻したということね」
「ですが、精神魔法が新しい魔術である以上その誓約がどう反応するのかまだ未知数だと聞いています。場合によっては両方失うことになるとも……」
「そうなるかもしれないわね。でも、ならないかもしれない。こればかりは本当に分からないわ。彼女の兄や家族は何時治るか分からない心の病よりも確実性を取ったと言う話よ。話せないリスクよりも目が見えないリスクの方が大きいと判断したのでしょう。目が見れるようになれば話せなくとも筆談や手話で会話できるのだから」
「確かに一理あります。それでも思い切った事をしたものです」
「大公家が責任をもって直すと言い切ったらしいわ」
「それはそれは」
「なんでも、大公女は妹君と親しい間柄だったようで、娘の願いを叶えたいと大公からの申し出のようだわ」
親しいね。
前の時は友人だった。
神官長の娘と聖女という立場は親しくなれる環境でもあった。でも、今回は?
ルーチェ・サンタは平民の聖女ではない。
大公家の令嬢だ。
嘗ては神殿に保護された孤児から聖女になった。
だからこそ、自分を聖女に推挙した神官長の娘と親しくなる機会があったとも言える。
だが、今は違う。
親しくなったのは偶然とは思えない。何からの意図を感じざるを得ない。
136
お気に入りに追加
3,314
あなたにおすすめの小説
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」
まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05
仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。
私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。
王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。
冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。
本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~
紫月 由良
恋愛
辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。
魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません
との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗
「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ!
あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。
断罪劇? いや、珍喜劇だね。
魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。
留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。
私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で?
治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな?
聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。
我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし?
面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。
訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結まで予約投稿済み
R15は念の為・・
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね
星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』
悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。
地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……?
* この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。
* 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜
ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。
護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。
がんばれ。
…テンプレ聖女モノです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる