上 下
13 / 112

13.自分勝手な男

しおりを挟む
「公爵家の跡取り教育が始まってこれほど優秀な成績を上げるなど信じられない。とてもとは思えないとフォード氏は絶賛していたぞ」

「お褒め頂き光栄です」

「ははは。なんだい、言葉使いまで公爵家らしくなってきたな。だが、私達は家族だ。堅苦しい言葉使いは無用だよ」

「はい」

「はははは。まだまだ堅いな。お前も公爵家で苦労しているのだろう。不甲斐ない父を許してくれ。この数ヶ月碌に会えなかったからな。お前には辛い思いをさせてしまった。これからも大変だろうが耐えてくれ。いずれ公爵家はお前の物になる。それまでの辛抱だ」

何処までも自分勝手な言い分をこれでもかという義父に対して僕はただただ平伏した。この男は父親として終わっている。前は優しい義父だと思っていたが、只単に自分勝手なだけの野郎だ。確かに優しかった。ただそれは僕が愛した女の息子だからに他ならない。
はぁ~~。
前の時に義姉上の言葉を何一つ信用しなかった男だ。
つくづく僕は見る目がない。こんな男を一時でも信用していたんだから。
 
高熱を出して起き上がれるようになったら前と同じ家庭教師による「公爵子息教育」が開始された。といっても、幼児教育といっても差し支えの無い初歩の初歩だ。「完璧な公爵子息」に家庭教師の男は豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
 
はっ!
いい気味だ。

奴にされた仕打ちは忘れてはいない。
早々にお役御免にしてやるから見ていろ!


「ミゲル、この調子で頑張ってくれ。ブリジットの婚約も調いそうだからな」

「婚約!?」

「そうだ。お前の義姉はいずれこの国でになる」

 王太子だ!
 瞬時に理解した。
 
 目の前にいる男は再び義姉上を過酷な運命へと引きずり込もうとしている!

 その男はダメだといいたい。
 だが会ったことのない王太子だ。
 今、反対意見を言った処で子供の癇癪と受け止められるのがオチだ。

「義父上」

「ん?どうした?」

「義姉上の婚約は決定されたのでしょうか?」

「いや、まだだ。とはいえ、本決まりだがな」

「でしたら、より詳しく相手をお調べになった方が宜しいかと愚考致します」

「詳しくだと?」

「はい。如何に高貴なお方とはいえ欠点の一つや二つはあるもの。それを把握しておくのは公爵家のためにもよいかと」

「はははは!!確かに!!ミゲルの言う通りだ!!」

 上機嫌に笑う義父だが、残念ながら王太子の欠点は二つ処じゃない。あり過ぎる程だ。まあ、今はそれを言う事はできないし、王太子もまだ子供だ。十分改善の余地あり、なんて言われたら大変だ。

「婚約した後いざという時婚約破棄のために見守る事監視も重要かと思われます」

「まさしくその通りだ!!婚姻後にブリジットが王家を支える為には万全の準備が必要だからな!」

 相変わらず自分の都合の悪いことは無視するタイプだ。この男の脳みそは自分の都合のいいことしか認識しないらしい。だから義姉上の冤罪を知っても王家大事と汚名を灌ぐ努力をしなかった。僕の進言を鵜呑みにする義父に心の中で嘆息しつつ表向きは笑顔を取り繕う。僕もなかなかの演技派だ。まあ、こんな大根役者に騙されるのは義父くらいだろうけど。 
 はぁ~~。
 王太子との婚約が整えばもう僕には手が出せなくなる。そうなれば僕に出来る事はただ一つ。王太子がボロを出した時に備えて監視体制を徹底的にする事だ。あの時のように後悔したくない!






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!

林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。  マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。  そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。  そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。  どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。 2022.6.22 第一章完結しました。 2022.7.5 第二章完結しました。 第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。 第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。 第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

無能だと言われ続けた聖女は、自らを封印することにしました

天宮有
恋愛
国を守る聖女として城に住んでいた私フィーレは、元平民ということもあり蔑まれていた。 伝統だから城に置いているだけだと、国が平和になったことで国王や王子は私の存在が不愉快らしい。 無能だと何度も言われ続けて……私は本当に不必要なのではないかと思い始める。 そうだ――自らを封印することで、数年ぐらい眠ろう。 無能と蔑まれ、不必要と言われた私は私を封印すると、国に異変が起きようとしていた。

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

家の全仕事を請け負っていた私ですが「無能はいらない!」と追放されました。

水垣するめ
恋愛
主人公のミア・スコットは幼い頃から家の仕事をさせられていた。 兄と妹が優秀すぎたため、ミアは「無能」とレッテルが貼られていた。 しかし幼い頃から仕事を行ってきたミアは仕事の腕が鍛えられ、とても優秀になっていた。 それは公爵家の仕事を一人で回せるくらいに。 だが最初からミアを見下している両親や兄と妹はそれには気づかない。 そしてある日、とうとうミアを家から追い出してしまう。 自由になったミアは人生を謳歌し始める。 それと対象的に、ミアを追放したスコット家は仕事が回らなくなり没落していく……。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

処理中です...