上 下
1 / 112

1.復讐1

しおりを挟む
 許せない。
 許せるものか!

 華やかな神殿で愛の誓いを交わす二人の男女。
 幸せそうに微笑んでいる。

 ふざけるな!



 
「「「「「王太子殿下ばんざ~~い!!!」」」」」

「「「「「王太子妃殿下おめでとうございますぅぅぅぅ!!!」」」」」

 
 
 王太子夫妻は王城のバルコニーから手を振っている。
 それに歓声を上げる民衆たち。

 認めない。
 こんなことは絶対に認められない!!


 義姉上を冤罪で貶めておいてよくも……。
 義姉上は間違いなくに殺された。優秀な義姉上は既に「妃教育」を修了していた。王家の全てを知り尽くした義姉上を王家が野放しにできないという判断だ。表向き、義姉上は修道院に送られた事になっているがそれは違う!修道院に行く前に毒杯を賜って亡くなった。奴らはそれを知っていながらさも義姉上が今も生きているかのように振る舞っている。

 全ては王家の求心力を低下させないための処置に他ならない!!

 義姉上の死はほとぼりが冷めるまで内密にするという王命まで出た。大方、王太子に泣きつかれた結果だろう。賢王と名高い陛下も所詮は人の親。元婚約者とはいえ、王家の血を濃く引き継いだブリジット・ベアトリス・ぺーゼロット公爵令嬢の喪は最低三年はしなければならない。それは、王家の『色』を持って生まれた義姉上に対する敬意でもあった。

 王太子はそれを嫌がった。
 いや、正確には寵愛の男爵令嬢を早く妃に迎えたかったからに他ならない。下半身がユルユルの男は三年も待てなかったんだろう。
 
 そうまでして手に入れた王太子妃ルーチェは新婚早々に懐妊した。





「こ、これは一体どういうことだ!!?」

 予定日よりも早く生まれた王太子の子供。
 それは見事な赤い髪と茶色の目をして生まれてきた。金髪に青い目の王太子と金髪に金の目をした王太子妃。どちらにもない『色』を持って生まれた赤ん坊は当然ながら王太子の子供ではなかった。

「これは何かの間違いです!!!」

 真っ青な顔で否定する王太子妃を相手にする者はいない。
 それはそうだろう。
 誰が見ても王太子エンリケの子でないのは明らかだ。
 しかも、王太子妃の産んだ子供と同じ『色』を持つ男が彼女の傍近くにいたことも疑惑を深めさせた。王太子妃の護衛騎士は子供と同じ赤い髪と茶色の目をしていた。十中八九、父親はこいつだろう。

 怒り狂った王太子は、護衛騎士を刺殺した。

 赤子に瓜二つの赤毛の護衛騎士は、王太子妃の愛人として王家に対する反逆罪として命を落とした。もっとも、王家の混乱はそれで収まることは無かった。寧ろ、事態は悪化した。

 それまでは王太子の寵愛と他の高位貴族の子息達の手前、王太子妃に文句を言えなかった令嬢達が挙って反撃にでた。

 学生時代に王太子妃によって婚約を破棄された令嬢、破棄されなかったものの結婚後も夫と不倫関係にあった夫人達が声を上げ始めたのだ。その上、いい寄られて迷惑をしたという子息達からも相次いで告発された。
 

 王太子妃でありながら他の男と通じて子をなす阿婆擦れ女。

 貴族達の間に疑惑が渦巻いた。
 
『婚約破棄されたぺーゼロット公爵令嬢は果たして本当に王太子妃を虐めていたのか?』

『そもそも、公爵家の御令嬢が如何に聖女とは申せ、一介の平民相手に自ら手を下すこと自体あり得ない。公爵家の力を使えば神殿に圧力をかける事も容易だ』

『聖女とは言うが光魔法が使えるだけだろう?』

『光魔法は確かに希少なものだが、大して使い道はない。ただ珍しいと言うだけのブランドに過ぎないものだ』
 
『こちらも調べたが結果は散々だったぞ。虐めの証言は全て出鱈目だ。王家はブリジット様に対してまともな調べもしなかったそうじゃないか!』

『先週発表されたブリジット様の悲報も怪しいものだ』

『嘘だと言うのか?』

『ああ。病ではなく殺された可能性が高いらしい』

『それは王家が?』

『他にいるか?王家の証とも言われる紫の目を持ったブリジット様が邪魔だったんだろう。王太子は婚約期間中も平民女に現を抜かしていたそうじゃないか。大方、妊娠を事前に知って、婚約者の存在が邪魔になったんだろう。だから冤罪を被せたに違いない』


 王太子妃の事件を皮切りに王家の評判は地に堕ちた。
 それと同時に義姉上に対する王家のあまりにも理不尽な仕打ちは王家の求心力を低下させ、結果的に国の政治基盤を揺るがす事態となった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ふしだらな悪役令嬢として公開処刑される直前に聖女覚醒、婚約破棄の破棄?ご冗談でしょ(笑)

青の雀
恋愛
病弱な公爵令嬢ビクトリアは、卒業式の日にロバート王太子殿下から婚約破棄されてしまう。病弱なためあまり学園に行っていなかったことを男と浮気していたせいだ。おまけに王太子の浮気相手の令嬢を虐めていたとさえも、と勝手に冤罪を吹っかけられ、断罪されてしまいます。 父のストロベリー公爵は、王家に冤罪だと掛け合うものの、公開処刑の日時が決まる。 断頭台に引きずり出されたビクトリアは、最後に神に祈りを捧げます。 ビクトリアの身体から突然、黄金色の光が放たれ、苛立っていた観衆は穏やかな気持ちに変わっていく。 慌てた王家は、処刑を取りやめにするが……という話にする予定です。 お気づきになられている方もいらっしゃるかと存じますが この小説は、同じ世界観で 1.みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について 2.婚約破棄された悪役令嬢は女神様!? 開国の祖を追放した国は滅びの道まっしぐら 3.転生者のヒロインを虐めた悪役令嬢は聖女様!? 国外追放の罪を許してやるからと言っても後の祭りです。 全部、話として続いています。ひとつずつ読んでいただいても、わかるようにはしています。 続編というのか?スピンオフというのかは、わかりません。 本来は、章として区切るべきだったとは、思います。 コンテンツを分けずに章として連載することにしました。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

聖女であることを隠す公爵令嬢は国外で幸せになりたい

カレイ
恋愛
 公爵令嬢オデットはある日、浮気というありもしない罪で国外追放を受けた。それは王太子妃として王族に嫁いだ姉が仕組んだことで。  聖女の力で虐待を受ける弟ルイスを護っていたオデットは、やっと巡ってきたチャンスだとばかりにルイスを連れ、その日のうちに国を出ることに。しかしそれも一筋縄ではいかず敵が塞がるばかり。  その度に助けてくれるのは、侍女のティアナと、何故か浮気相手と疑われた副騎士団長のサイアス。謎にスキルの高い二人と行動を共にしながら、オデットはルイスを救うため奮闘する。 ※胸糞悪いシーンがいくつかあります。苦手な方はお気をつけください。

無能だと言われ続けた聖女は、自らを封印することにしました

天宮有
恋愛
国を守る聖女として城に住んでいた私フィーレは、元平民ということもあり蔑まれていた。 伝統だから城に置いているだけだと、国が平和になったことで国王や王子は私の存在が不愉快らしい。 無能だと何度も言われ続けて……私は本当に不必要なのではないかと思い始める。 そうだ――自らを封印することで、数年ぐらい眠ろう。 無能と蔑まれ、不必要と言われた私は私を封印すると、国に異変が起きようとしていた。

伯爵令嬢は身の危険を感じるので家を出ます 〜伯爵家は乗っ取られそうですが、本当に私がいなくて大丈夫ですか?〜

超高校級の小説家
恋愛
マトリカリア伯爵家は代々アドニス王国軍の衛生兵団長を務める治癒魔法の名門です。 神々に祝福されているマトリカリア家では長女として胸元に十字の聖痕を持った娘が必ず生まれます。 その娘が使う強力な治癒魔法の力で衛生兵をまとめ上げ王国に重用されてきました。 そのため、家督はその長女が代々受け継ぎ、魔力容量の多い男性を婿として迎えています。 しかし、今代のマトリカリア伯爵令嬢フリージアは聖痕を持って生まれたにも関わらず治癒魔法を使えません。 それでも両親に愛されて幸せに暮らしていました。 衛生兵団長を務めていた母カトレアが急に亡くなるまでは。 フリージアの父マトリカリア伯爵は、治癒魔法に関してマトリカリア伯爵家に次ぐ名門のハイドランジア侯爵家の未亡人アザレアを後妻として迎えました。 アザレアには女の連れ子がいました。連れ子のガーベラは聖痕こそありませんが治癒魔法の素質があり、治癒魔法を使えないフリージアは次第に肩身の狭い思いをすることになりました。 アザレアもガーベラも治癒魔法を使えないフリージアを見下して、まるで使用人のように扱います。 そしてガーベラが王国軍の衛生兵団入団試験に合格し王宮に勤め始めたのをきっかけに、父のマトリカリア伯爵すらフリージアを疎ましく思い始め、アザレアに言われるがままガーベラに家督を継がせたいと考えるようになります。 治癒魔法こそ使えませんが、正式には未だにマトリカリア家の家督はフリージアにあるため、身の危険を感じたフリージアは家を出ることを決意しました。 しかし、本人すら知らないだけでフリージアにはマトリカリアの当主に相応しい力が眠っているのです。 ※最初は胸糞悪いと思いますが、ざまぁは早めに終わらせるのでお付き合いいただけると幸いです。

【完結】冷遇された翡翠の令嬢は二度と貴方と婚約致しません!

ユユ
恋愛
酷い人生だった。 神様なんていないと思った。 死にゆく中、今まで必死に祈っていた自分が愚かに感じた。 苦しみながら意識を失ったはずが、起きたら婚約前だった。 絶対にあの男とは婚約しないと決めた。 そして未来に起きることに向けて対策をすることにした。 * 完結保証あり。 * 作り話です。 * 巻き戻りの話です。 * 処刑描写あり。 * R18は保険程度。 暇つぶしにどうぞ。

【完結】大聖女は無能と蔑まれて追放される〜殿下、1%まで力を封じよと命令したことをお忘れですか?隣国の王子と婚約しましたので、もう戻りません

冬月光輝
恋愛
「稀代の大聖女が聞いて呆れる。フィアナ・イースフィル、君はこの国の聖女に相応しくない。職務怠慢の罪は重い。無能者には国を出ていってもらう。当然、君との婚約は破棄する」 アウゼルム王国の第二王子ユリアンは聖女フィアナに婚約破棄と国家追放の刑を言い渡す。 フィアナは侯爵家の令嬢だったが、両親を亡くしてからは教会に預けられて類稀なる魔法の才能を開花させて、その力は大聖女級だと教皇からお墨付きを貰うほどだった。 そんな彼女は無能者だと追放されるのは不満だった。 なぜなら―― 「君が力を振るうと他国に狙われるし、それから守るための予算を割くのも勿体ない。明日からは能力を1%に抑えて出来るだけ働くな」 何を隠そう。フィアナに力を封印しろと命じたのはユリアンだったのだ。 彼はジェーンという国一番の美貌を持つ魔女に夢中になり、婚約者であるフィアナが邪魔になった。そして、自らが命じたことも忘れて彼女を糾弾したのである。 国家追放されてもフィアナは全く不自由しなかった。 「君の父親は命の恩人なんだ。私と婚約してその力を我が国の繁栄のために存分に振るってほしい」 隣国の王子、ローレンスは追放されたフィアナをすぐさま迎え入れ、彼女と婚約する。 一方、大聖女級の力を持つといわれる彼女を手放したことがバレてユリアンは国王陛下から大叱責を食らうことになっていた。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

処理中です...