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~アクア王国編~

25.思惑1

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 帝国の公爵令嬢である私が今回、アクア王国に国賓として滞在する事になった理由。
 それは簡単に言ってしまうと、『準保護国の視察』でした。

 アクア王国の上層部は『自国の王子の正妃に帝国貴族の娘に嫁いできてもらい帝国に便宜を図りたい』という思惑があったのでしょう。


 年々上昇していく水域。
「水の都」との異名を持つアクア王国ですが、このままでは数十年先は海の中へと沈んでしまうでしょう。だからこそ、アクア王国は帝国の力を借りてでもこの問題を解決しようとしました。帝国は魔石や魔法道具の生産に関しては世界一を誇る技術を持っていますからね。

 今回は、魔石を使って結界を張り、その魔力の補充や点検を行う施設を建設するための話し合いが行われる予定となっていました。
 遷都する事も提案されたのですが、国の大半が海に沈む事が想定されていたため却下されました。国全土を覆う結界を張り巡らす方が効率的でもあります。何よりも資金面を考えますと………………ね。

 風魔法を使用する私は結界を張る事が得意です。
 それに、結界内の温度調整も可能。
 何が言いたいのかと言うと、アクア王国にとって私という存在は喉から手が出るほど欲しいモノだった訳です。その割には扱いが雑でしたが。

 要は、見目麗しい王子三人に惚れない女性はいないと思っていたのでしょう。
 それに一度婚約破棄された身。
 軽く見られていた事は否めません。

 男尊女卑の国なら「傷物」の誹りを覚悟しなければいけないところですもの。

 アクア王国は男尊女卑ではありませんが、それでも王族の男性達は女性を軽んじる風潮がありました。女性の爵位継承が法律で禁じられている事も多少は影響しているのでしょう。
 しかし、私の現祖国でもあるアーリャナシル帝国は違います。
 女性だろうと優秀ならば重用されますし、女性の当主は何人もいます。そんなお国柄。この国の王族からすれば「生意気な女」といったところでしょうか?
 平身低頭しろとはいいません。
 それでもある程度の気配りはするべきでしょう。その気配りが王族には全くありませんでしたけれど……。もっとも、それは王族だけではありませんね。この国の上層部の大半がそうでした。普通の貴族の方が余程気配り上手でした。何故、国を動かしている訳でもない貴族達が上層部のフォローをしているのか訳がわかりません。

 故に、私はこのアクア王国のやり方に疑問を感じています。

 だって、そうでしょう。
 国王陛下ですら、最初の頃は私を「王太子妃」に据えようと画策しておられたのですから。

 まぁ、自分で言うのも何ですが、私の容姿はこの世界で群を抜いて美しい方だと自負しています。それに加えて帝室の血筋を引いている公爵家。家柄の良さもありながら未だに婚約者を持たぬ未婚の貴族令嬢。これほどの優良物件はそうないでしょう。この国の上層部が目を付けてもおかしくありませんし、国王から「自分の息子の嫁に」と望まれるのも理解できます。
 事実、国王陛下から何度も縁談話を申し込まれておりました。加えて、王太子にも取り入るように指示していたようです。私を丁寧にもてなす事で好印象を与えようとする作戦なのでしょう。そしてあわよくば、私が王太子殿下を見初める事を期待していたようでした。

 私と接する事で王太子殿下が自分の立場と責任を理解する事を願ったのです。

 つまり、私を介して王太子殿下の矯正を図りたかったという訳ですね。

 ただ残念な事に────

 ミレイ側妃が想像以上に愚かだった事と、王太子殿下は私との接触を拒んだ……最小限に留めた結果、目論見はご破算。

 国王陛下は御存知なかったのでしょうか?

 王太子殿下は自分より賢い女性を嫌う傾向にあった事を。
 加えて「自分の命令に従わなかった」「自分に意見した」という理由で婚約者であったマデリーン様を一方的に蔑み罵って婚約破棄してきた程での方です。
 その癖、「婚約者がいたから我慢していたんだ!」と言い放つ程の我の強さをお持ちですからね。

 本当に馬鹿らしい話ですわね。
 この国の上層部の浅ましい考えに思わず呆れ果ててしまいます。





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