12 / 79
~ロクサーヌ王国編~
12.父公爵の改革②
しおりを挟む父の改革は確かに効果を発揮しました。閉塞感漂う社会に劇的な変化を与えたのですから。産業に力をいれて雇用を生み出し、商人同士の熾烈な商売争いを起こさせて癒着をなくしたお陰で「安くて悪い物」は店から消えました。登用される文官は実力さえあればドンドン出世していくシステムに変え、従来の「家柄制度」を廃したのです。
けれどそれは新たな問題を生み出したのです。
元々、私の父である公爵は仕事人間の実力主義。
嫌な言い方をすると「実力を発揮しない者を理解できない」「才能のない者の気持ちが分からない」「能力をださないというのは即ち努力が足りないからだ。努力すれば必ず成果は発揮する」といった処があるのです。
なので父の政策は基本「努力する才覚のある者のため」とも言えるでしょう。つまり、才能のない人間は度外視しているのです。そもそも「努力しても出来ない」という人の理解が乏しい父に別れと言う方が難しいのですが……。
それでも公爵領での領地経営は父と私の共同作業でした。父が取りこぼした者達を拾い上げるのが私の仕事とでも言いましょうか。だって、よく考えてください。元から下級身分の者は学校に通う事もできないのです。つまり文字の読み書きができない。そういった人々は半数以上いるのが現実なのです。それを「才ある者を優遇する」と言ったところで優遇されるのは大貴族に顎でこき使われてきた下位貴族と中流階級のみ。更に下の者達には政策が行き届かないどころかその意味さえ理解できていない節がみられます。
夢と期待を膨らませていた民衆の大半は失望したことでしょう。街には不平不満をいう者達が次第に増えていったのは必然でした。
『何故だ。何故、王都の民は努力を怠るのか……私には理解できん。政府への不満はいつの世でもある。だが、それに負けずに切磋琢磨すべきだろう。何故、なにもかも政府のせいにするのか。我々の悪口に花を咲かせる暇があるのなら他にやるべきことをしてから言うべきだ』
父の見当違いの嘆きに私は唖然としたものです。
もっとも、現政府の大多数が父と同じような意見なので修正する事は不可能でしょう。彼らは父の政策で引き上げられた者ばかり。前政権なら間違いなく上に上る事は不可能だったでしょう。身分の上下関係ない、とした父だからこそ彼らの努力は報われたのです。それを否定する事は困難な上に彼らも「努力しない者を嫌う」傾向にありました。
こうした現政権の思想は多くの国民との間に亀裂を生じさせていたのです。
51
お気に入りに追加
3,222
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢の白銀の指輪
夜桜
恋愛
公爵令嬢エリザは幸せな日々を送っていたはずだった。
婚約者の伯爵ヘイズは婚約指輪をエリザに渡した。けれど、その指輪には猛毒が塗布されていたのだ。
違和感を感じたエリザ。
彼女には貴金属の目利きスキルがあった。
直ちに猛毒のことを訴えると、伯爵は全てを失うことになった。しかし、これは始まりに過ぎなかった……。
(完結)逆行令嬢の婚約回避
あかる
恋愛
わたくし、スカーレット・ガゼルは公爵令嬢ですわ。
わたくしは第二王子と婚約して、ガゼル領を継ぐ筈でしたが、婚約破棄され、何故か国外追放に…そして隣国との国境の山まで来た時に、御者の方に殺されてしまったはずでした。それが何故か、婚約をする5歳の時まで戻ってしまいました。夢ではないはずですわ…剣で刺された時の痛みをまだ覚えていますもの。
何故かは分からないけど、ラッキーですわ。もう二度とあんな思いはしたくありません。回避させて頂きます。
完結しています。忘れなければ毎日投稿します。
冷遇された王妃は自由を望む
空橋彩
恋愛
父を亡くした幼き王子クランに頼まれて王妃として召し上げられたオーラリア。
流行病と戦い、王に、国民に尽くしてきた。
異世界から現れた聖女のおかげで流行病は終息に向かい、王宮に戻ってきてみれば、納得していない者たちから軽んじられ、冷遇された。
夫であるクランは表情があまり変わらず、女性に対してもあまり興味を示さなかった。厳しい所もあり、臣下からは『氷の貴公子』と呼ばれているほどに冷たいところがあった。
そんな彼が聖女を大切にしているようで、オーラリアの待遇がどんどん悪くなっていった。
自分の人生よりも、クランを優先していたオーラリアはある日気づいてしまった。
[もう、彼に私は必要ないんだ]と
数人の信頼できる仲間たちと協力しあい、『離婚』して、自分の人生を取り戻そうとするお話。
貴族設定、病気の治療設定など出てきますが全てフィクションです。私の世界ではこうなのだな、という方向でお楽しみいただけたらと思います。
【完結】出逢ったのはいつですか? えっ? それは幼馴染とは言いません。
との
恋愛
「リリアーナさーん、読み終わりましたぁ?」
今日も元気良く教室に駆け込んでくるお花畑ヒロインに溜息を吐く仲良し四人組。
ただの婚約破棄騒動かと思いきや・・。
「リリアーナ、だからごめんってば」
「マカロンとアップルパイで手を打ちますわ」
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結迄予約投稿済みです。
R15は念の為・・
妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした
水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」
子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。
彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。
彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。
こんなこと、許されることではない。
そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。
完全に、シルビアの味方なのだ。
しかも……。
「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」
私はお父様から追放を宣言された。
必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。
「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」
お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。
その目は、娘を見る目ではなかった。
「惨めね、お姉さま……」
シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。
そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。
途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。
一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。
【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。
キーノ
恋愛
わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。
ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。
だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。
こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、押しと穏やかに過ごしますわ。
※さくっと読める悪役令嬢モノです。
2月14~15日に全話、投稿完了。
感想、誤字、脱字など受け付けます。
沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です!
恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。
完璧令嬢が仮面を外す時
編端みどり
恋愛
※本編完結、番外編を更新中です。
冷たいけど完璧。それが王太子の婚約者であるマーガレットの評価。
ある日、婚約者の王太子に好きな人ができたから婚約を解消して欲しいと頼まれたマーガレットは、神妙に頷きながら内心ガッツポーズをしていた。
王太子は優しすぎて、マーガレットの好みではなかったからだ。
婚約を解消するには長い道のりが必要だが、自分を愛してくれない男と結婚するより良い。そう思っていたマーガレットに、身内枠だと思っていた男がストレートに告白してきた。
実はマーガレットは、恋愛小説が大好きだった。憧れていたが自分には無関係だと思っていた甘いシチュエーションにキャパオーバーするマーガレットと、意地悪そうな笑みを浮かべながら微笑む男。
彼はマーガレットの知らない所で、様々な策を練っていた。
マーガレットは彼の仕掛けた策を解明できるのか?
全24話 ※話数の番号ずれてました。教えて頂きありがとうございます!
※アルファポリス様と、カクヨム様に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる