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本編

12.カルーニャ王国の第一王女

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 どうしてこうなってしまったのか。
 第一王女として生まれ、未来が約束されているはずではなかったのか。
 それともこうまで落ちぶれてしまったのか……。
 自分達家族が何をしたというの!?

 母国よりも小さな国に嫁がされたとはいえ、結婚相手は王太子。
 将来は国王。
 わたくしは次期王妃。
 夫の王太子は見目もそこそこ良いし、何より私を大事にしてくれる。

 そう思うと悪い縁組ではなかった。

「どうしてですの!?何故、わたくしが離縁などされなくてはならないのです!」

「落ち着きなさい」

「落ち着けません!お母様、お父様に……国王陛下に一体、何が起きているのか説明していただかなければ……」

 父の国王陛下に直談判するしかない。
 なのに国王陛下は碌に取り合ってくれない。
 娘が一方的に離縁されてしまったというのに。

「……今はどうにもならないわ」

「お母様!何故です!?」

「カルーニャ王国の現状を鑑みれば分かるでしょう。とても無理なのよ」

「ペトロニラを蔑ろにしていたからなんだというんです!今まで何も問題なかったではありませんか!」

 お母様は妙なことを言い出した。
 あんな子、妹だとすら思いたくないのに!
 “できそこない”のせいで、何故、わたくしがこんな目に!

「口を慎みなさい」

「お母様?」

「今は違うのよ。虹色の瞳の王女を蔑ろにしてはいけなかった……。いいえ、違うわね。そもそも王族が軽々しく扱われていること自体が異常だったのよ」

「意味が分かりません」

「どうしても理解したくないようね。いいわ。貴方もいい大人ですもの。自分で判断して責任をお取りなさい」

「お母様!?」

 母はそれだけ言うと、わたくしを一人残して部屋を出て行ってしまった。
 わたくしは訳も分からず、その場に立ち尽くすしかなく。

「どうしろと……?」

 一人取り残された部屋で、途方に暮れるしかなかった。

 “劣り腹の異母妹”を悪し様に言うのは空気を吸うのと同じくらいに当たり前のことだった。
 慣れない異国での生活にストレスが溜まっていた。

 嫁いだ国にはストレスを発散させてくれる異母妹はいないし。
 夫は、わたくしを気遣ってはくれるけれど、義理の両親は厳しい方々で、気を緩めることはできなかった。
 疲れていた。
 母国から連れて来ていた侍女達に愚痴るくらいしか発散方法が思いつかない。
 お喋りな侍女達は“劣り腹の不出来な王女”を話題にして大いに盛り上がった。


『異母妹の王女をそこまで悪し様に言う理由が分からない。しかも侍女達まで自国の王女を嘲笑う始末だ。君は何も感じなかったのか?我が国の侍女や侍従がどんな顔をしていたか。悪し様に罵る君達は醜い。しかも王女は虹色の瞳の持ち主だと聞く。何故だい?虹色の瞳はカルーニャ王国の誇りだ。先祖の瞳を取り戻したと、喜ぶべきもので、決して嘲笑うようなものではない』

 離縁が決まった時、夫は悲し気に眉を下げながらもそう言った。
 何を言われたのか理解できなかった。
 それは今も同じ。
 わたくしの母は側妃ではあるものの、王妃の次に位の高い妃。
 見目も素晴らしく、血筋にもなんの問題もない自慢の母が王妃になれなかったのは単純に、王族でなかったためだ。

 公爵令嬢といえども隣国の王女には勝てない。
 ただ、それだけのこと。
 母が王子を産んでいればまた違ったかもしれないけれど。
 残念ながら、わたくしを含め、母が産んだのは王女ばかり。
 国母にもなれない母は、とにかく娘の結婚相手を王族に拘っていた。

「わたくしは息子を産んだのに……」

 母と違って待望の世継ぎを産んだ。

「二人も産んだのよ?」

 なのに何故……。





『王子は諦めなさい』

『お母様!?』

『貴方の元夫は王太子なのよ?当然、再婚をするわ』

『そんな!わたくしという妻がいながら!?』

『もう妻ではないわ。離縁したでしょう?』

『……っ!』

『現実を見なさい。王太子が再婚して相手の女性に息子が生まれたらその子が世継ぎになるのよ。先妻の子供が王になることはまずないわね』

『でも……』

『貴方が離縁されたのがいい証拠でしょう。あちらの国は二人の王子をしっかりと育てていくと言ってくれているわ。貴方はそれを感謝して二度と息子達に連絡を取ろうとは考えないように』

『そんな……』

 母に言いくるめられてしまった。
 息子達に出した手紙はいつの間にか母に回収されていた。
 二度と手紙を送るなと釘を差され、それでも諦めきれなくて、こっそりと侍女に手紙を託した。
 けれどそれが息子達に届くことはなく……。

 わたくしは何処にも届かない手紙を書き続けた。


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