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本編

11.カルーニャ王国の苦悩

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「おい、聞いたか。エルヴィラ王女殿下が出戻ってくるそうだ」

「バカ、ちげぇだろ。結婚を無効にされたんだ。出戻りも何もないぜ」

 カルーニャ王国の民衆の間ではそんな会話が頻繁に行われていた。

「それだけじゃない。第一王女殿下や第二王女殿下も出戻ってくるらしい」

「はぁ!?あのお二人は随分前に嫁いでいっただろう?なんでまた……」

「決まってるだろ。離縁されるんだ」

「離縁!?」

「ああ、そうなるか知れないって専らの噂だ」

「おいおい。それじゃあまた物価が上がるんじゃねぇか?」

「上がるだろうよ。王女殿下の結婚で貿易が黒字だったのに……。いまじゃあ……」

 他国からそっぽを向かれてしまったカルーニャ王国は現在大混乱に陥っている。
 度重なる失策は貴族だけではなく、民衆の間にも不満と憎悪を植え付けた。
 通常の国ならクーデターが勃発するところだが、今やクーデターを起こす余裕すらカルーニャ王国にはない。
 目の前の問題の対応だけでもいっぱいいっぱいなのだ。

 解決する兆しは欠片もなく。
 どうすることもできないまま国は急激に傾いていく。
 間もなくカルーニャ王国は完全に他国からの庇護と援助を失い、人心も離れることとなる。

 繁栄を謳歌する未来は閉ざされた。
 大勢いる王子や王女の結婚という手段で国を存続させる道を模索したが、その全てが失敗に終わった。


「また断られた」

「そっちもか?」

「ああ……自国の王女すら敬えない国に嫁がせる王女はいない、と言われた」

「こちらも同じだ」

「王子でもダメだったのか?」

「王配は飽く迄も女王の夫だと。政務に関われるかどうかは女王の胸一つ。身分の低い母を持つからといって実の妹を蔑ろにする王子では、とても務められないだろうと言われた。女王であり妻である者を敬えないような夫など話しにならない、とね」

「そうか……」

 美しく賢い王子ならば隣国の王配となりうる。
 そう思っていたが……。

 ペトロニラ王女のことが露見して以降、カルーニャ王族は他国から遠巻きにされていた。
 国交を継続してくれている国からも「貿易はするが、王族同士の結婚は無理だ」と断られている。

 カルーニャ王国は、完全に孤立した。

 辛うじて縁戚関係のある国からは「面倒事をこれ以上、起こさないように」と告げられており、いつ契約を破棄されてもおかしくはなかった。


「どうする?このままでは……」

「それは……。だが、どうしようもないだろう」

 八方塞がりだ。
 カルーニャ王国の王族は現状を打破しようと足掻いたが、無理だった。

 正しくカルーニャ王国の没落。


「何故……こんなことに……」

 後悔先に立たず、だ。
 カルーニャ王国の終焉は刻一刻と近付いている。


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