9 / 21
本編
9.国際問題1
しおりを挟む
身分詐称は犯罪だ。
例えそれが高貴な身分の者であったとしても。
それが自国ではなく他国でなら尚更だ。
国際問題に発展しかねない。
「以上のことから、カルーニャ王国がペトロニラ王女殿下を不当に貶め、嫡出のエルビラ王女殿下付きの侍女として召し抱えたと推測されます。また、その際にペトロニラ王女殿下の身分を『男爵令嬢』と身分を記載したに違いないと推察いたします。貴国はペトロニラ王女殿下の身分を詐称しておいて“両国の友好関係が変わらぬものであることを切に願う”と言うのですか?我が国に嫁いで来られたエルビラ王女殿下ですが、彼女は本物なのでしょうか?もしや身分を偽って嫁いで来られたのではありませんか?」
要約すると「お前のところは自国の王女を男爵令嬢にして何がやりたいんだ?スパイ活動でも目論んでいるのか?それにしても王女を侍女に仕立て上げてのスパイ活動はお粗末すぎる。なら王妃として嫁いで来た幼女も怪しい。本当に王女か?偽物じゃないのか?」である。
もっというなら「てめぇらが泣きついてきた結婚だろう!何、被害者ぶった顔してやがる!いい加減にしろよコラ!それともうちの国に喧嘩売っているのか?なら高値で買ってやる!」であった。
戦争まったなし。
カルーニャ王国の対応次第では戦争も辞さないだろう、という強い意志が感じられる。
対してカルーニャ王国の外交官達は慌てふためいた。
それはそうだろう。
まさか王女を嫁がせた同盟国から「信用ならない」と糾弾されるとは思わなかった。
スパイやら偽物やら。
訳の分からないことを言われ、パニックに陥ってしまった。
「お、お、……お待ちください!我々はそのような事は決していたしておりません!エルビラ様は間違いなくが我が国の王女殿下でいらっしゃいます!!」
「では何故、ペトロニラ王女殿下は『男爵令嬢』と記載されていたのですか?貴国には『王女』の身分を偽る者が多いのですか?」
「そ、そのようなことはありません!」
「では何故、『侍女』としてこの国に?おかしいでしょう。ペトロニラ王女殿下は『失われたカルーニャ王族の証である虹色の瞳』の持ち主。なので、カルーニャ王族とはっきりと証明できますが、エルビラ嬢は違う。証明するだけの根拠がない。そうではありませんか?」
「……っ」
外交官は言葉に詰まる。
敬称を変えた事に気付いたのだろう。
ファブラ王国は「エルビラという名前の少女を一国の王女とは認めない」という意思表示を――
エルビラ王女は王妃の娘。
王妃によく似た美しい少女だ。
けれど「王妃に似ている」と言ったところで、証明にはならない。
「似ている少女を連れて来ただけではないか?」と言われるのがオチだ。
「ご理解できたようですね。ご自分達が如何に矛盾したことを仰っているのは」
「……」
「我が国としては本物かどうか分からない王女を正妃に迎い入れる気はありません」
「……し、信じていただけないかもしれませんが……エルビラ様は間違いなくカルーニャ王女殿下です!」
最後は叫ぶように告げたが、ファブラ王国側の結論は変わらない。
仮にエルビラ王女の出生記録を始めとした書類を提出したとしても、「偽造では?」と突っぱねられることだろう。
カルーニャ王国が幾ら「エルビラ王女は本物」と言ったところで意味はない。
そのカルーニャ王国が「もう一人の王女を侍女の男爵令嬢」として偽っているのだから。
庶子の王女だ。
それも侍女が産んだ王女。
美しいわけでもない。醜くはないが、凡庸だ。
劣り腹の王女、と陰口を叩いていたのは何も貴族だけではない。
国民もまた、華やかさのない王女を軽く扱っていたのだ。
ずっとそれが当たり前だった。
許されない行為だと疑問にすら思わなかった。
そうした積み重ねがあったからこそ、他国がカルーニャ王国を糾弾する事態となったのだろうに。
「この件に関して、我が国は国際法に則り対応してまいります。よろしいでしょうか?」
ファブラ王国側がそう告げてもカルーニャ王国の外交官は「それは……その……」と口籠るばかり。
彼らは自分達の行いを恥じていない。
それどころか「自分達は悪くない」とすら思っている。
いや、何が悪いのかを理解していなかった。
自分達の常識が大多数の国では「非常識な行い」になるとは夢にも思わずに。
そのツケを彼らは存分に支払うことになる。
例えそれが高貴な身分の者であったとしても。
それが自国ではなく他国でなら尚更だ。
国際問題に発展しかねない。
「以上のことから、カルーニャ王国がペトロニラ王女殿下を不当に貶め、嫡出のエルビラ王女殿下付きの侍女として召し抱えたと推測されます。また、その際にペトロニラ王女殿下の身分を『男爵令嬢』と身分を記載したに違いないと推察いたします。貴国はペトロニラ王女殿下の身分を詐称しておいて“両国の友好関係が変わらぬものであることを切に願う”と言うのですか?我が国に嫁いで来られたエルビラ王女殿下ですが、彼女は本物なのでしょうか?もしや身分を偽って嫁いで来られたのではありませんか?」
要約すると「お前のところは自国の王女を男爵令嬢にして何がやりたいんだ?スパイ活動でも目論んでいるのか?それにしても王女を侍女に仕立て上げてのスパイ活動はお粗末すぎる。なら王妃として嫁いで来た幼女も怪しい。本当に王女か?偽物じゃないのか?」である。
もっというなら「てめぇらが泣きついてきた結婚だろう!何、被害者ぶった顔してやがる!いい加減にしろよコラ!それともうちの国に喧嘩売っているのか?なら高値で買ってやる!」であった。
戦争まったなし。
カルーニャ王国の対応次第では戦争も辞さないだろう、という強い意志が感じられる。
対してカルーニャ王国の外交官達は慌てふためいた。
それはそうだろう。
まさか王女を嫁がせた同盟国から「信用ならない」と糾弾されるとは思わなかった。
スパイやら偽物やら。
訳の分からないことを言われ、パニックに陥ってしまった。
「お、お、……お待ちください!我々はそのような事は決していたしておりません!エルビラ様は間違いなくが我が国の王女殿下でいらっしゃいます!!」
「では何故、ペトロニラ王女殿下は『男爵令嬢』と記載されていたのですか?貴国には『王女』の身分を偽る者が多いのですか?」
「そ、そのようなことはありません!」
「では何故、『侍女』としてこの国に?おかしいでしょう。ペトロニラ王女殿下は『失われたカルーニャ王族の証である虹色の瞳』の持ち主。なので、カルーニャ王族とはっきりと証明できますが、エルビラ嬢は違う。証明するだけの根拠がない。そうではありませんか?」
「……っ」
外交官は言葉に詰まる。
敬称を変えた事に気付いたのだろう。
ファブラ王国は「エルビラという名前の少女を一国の王女とは認めない」という意思表示を――
エルビラ王女は王妃の娘。
王妃によく似た美しい少女だ。
けれど「王妃に似ている」と言ったところで、証明にはならない。
「似ている少女を連れて来ただけではないか?」と言われるのがオチだ。
「ご理解できたようですね。ご自分達が如何に矛盾したことを仰っているのは」
「……」
「我が国としては本物かどうか分からない王女を正妃に迎い入れる気はありません」
「……し、信じていただけないかもしれませんが……エルビラ様は間違いなくカルーニャ王女殿下です!」
最後は叫ぶように告げたが、ファブラ王国側の結論は変わらない。
仮にエルビラ王女の出生記録を始めとした書類を提出したとしても、「偽造では?」と突っぱねられることだろう。
カルーニャ王国が幾ら「エルビラ王女は本物」と言ったところで意味はない。
そのカルーニャ王国が「もう一人の王女を侍女の男爵令嬢」として偽っているのだから。
庶子の王女だ。
それも侍女が産んだ王女。
美しいわけでもない。醜くはないが、凡庸だ。
劣り腹の王女、と陰口を叩いていたのは何も貴族だけではない。
国民もまた、華やかさのない王女を軽く扱っていたのだ。
ずっとそれが当たり前だった。
許されない行為だと疑問にすら思わなかった。
そうした積み重ねがあったからこそ、他国がカルーニャ王国を糾弾する事態となったのだろうに。
「この件に関して、我が国は国際法に則り対応してまいります。よろしいでしょうか?」
ファブラ王国側がそう告げてもカルーニャ王国の外交官は「それは……その……」と口籠るばかり。
彼らは自分達の行いを恥じていない。
それどころか「自分達は悪くない」とすら思っている。
いや、何が悪いのかを理解していなかった。
自分達の常識が大多数の国では「非常識な行い」になるとは夢にも思わずに。
そのツケを彼らは存分に支払うことになる。
1,450
お気に入りに追加
1,874
あなたにおすすめの小説
飽きたと捨てられましたので
編端みどり
恋愛
飽きたから義理の妹と婚約者をチェンジしようと結婚式の前日に言われた。
計画通りだと、ルリィは内心ほくそ笑んだ。
横暴な婚約者と、居候なのに我が物顔で振る舞う父の愛人と、わがままな妹、仕事のフリをして遊び回る父。ルリィは偽物の家族を捨てることにした。
※7000文字前後、全5話のショートショートです。
※2024.8.29誤字報告頂きました。訂正しました。報告不要との事ですので承認はしていませんが、本当に助かりました。ありがとうございます。
王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。
ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。
【完結】姉は全てを持っていくから、私は生贄を選びます
かずきりり
恋愛
もう、うんざりだ。
そこに私の意思なんてなくて。
発狂して叫ぶ姉に見向きもしないで、私は家を出る。
貴女に悪意がないのは十分理解しているが、受け取る私は不愉快で仕方なかった。
善意で施していると思っているから、いくら止めて欲しいと言っても聞き入れてもらえない。
聞き入れてもらえないなら、私の存在なんて無いも同然のようにしか思えなかった。
————貴方たちに私の声は聞こえていますか?
------------------------------
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています
妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません
編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。
最後に取ったのは婚約者でした。
ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】可愛くない、私ですので。
たまこ
恋愛
華やかな装いを苦手としているアニエスは、周りから陰口を叩かれようと着飾ることはしなかった。地味なアニエスを疎ましく思っている様子の婚約者リシャールの隣には、アニエスではない別の女性が立つようになっていて……。
私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。
お姉ちゃん今回も我慢してくれる?
あんころもちです
恋愛
「マリィはお姉ちゃんだろ! 妹のリリィにそのおもちゃ譲りなさい!」
「マリィ君は双子の姉なんだろ? 妹のリリィが困っているなら手伝ってやれよ」
「マリィ? いやいや無理だよ。妹のリリィの方が断然可愛いから結婚するならリリィだろ〜」
私が欲しいものをお姉ちゃんが持っていたら全部貰っていた。
代わりにいらないものは全部押し付けて、お姉ちゃんにプレゼントしてあげていた。
お姉ちゃんの婚約者様も貰ったけど、お姉ちゃんは更に位の高い公爵様との婚約が決まったらしい。
ねぇねぇお姉ちゃん公爵様も私にちょうだい?
お姉ちゃんなんだから何でも譲ってくれるよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる