10 / 20
第10話 騎士の頭痛の種2
しおりを挟む翌日の朝。
時間よりも一時間早く皇城についた。
皇太子殿下の気まぐれは何時もの事だ。思い付きのまま動かれる方だ。土壇場で取りやめた事だってある。それを踏まえて早くきたものの……どうも嫌な予感がする。城の様子は普段と全く変わらない。門番の様子も、侍従や侍女達も丁寧に挨拶をしてくれる。いつもと変わらない光景に何故だか「ヤバイ」と感じるのだ。
皇太子殿下の元に行かない方が良い――
己の第六感がガンガン警鐘を鳴らしているのが分かる。
天才と名高い皇太子殿下であるが、それ以上にトンデモナイ性質の持ち主だ。破天荒で非常識な性格に幾度となく振り回されてきた自分の感が囁くのだ。
今引き返さなければ後戻りできない――
足が自然と止まってしまった。
皇太子殿下の部屋は目と鼻の先にある。溜息が出る。城の門を通った時から既に皇太子殿下は私が登城した事は知っている筈だ。引き返せない。十中八九、厄介事に巻き込まれる。
「一体全体……何を考えておられるのですか!!!」
避暑地に到着した、その日の深夜に避暑地を抜け出した。私と皇太子殿下は一頭の天馬にまたがっている。天馬を操る皇太子殿下は涼しい顔だ。
どうしてこうなったのか。
避暑地にある離宮についた早々、皇太子殿下は宣った。
『そういう訳で、お前、今から“女”になれ』
はっ!?
何を言われたのか分からなかった。呆然とする私を無視する形で話を進めていく皇太子殿下。何がどうしたら『そういう訳で』になる? そもそも男の私が“女”になれる筈がない。奇行もここまできたのかと頭を抱えてしまった。そんな私の苦悩など知った事かと言わんばかりに勝手に話を進めていくのだから溜まったものでは無い。
『これに着替えろ』
そこにあるのは、女ものの衣装の数々。
まさか……皇太子殿下は本気で私を“女”として扱う気か!?
『殿下!!』
『なんだ、時間がないんだ。さっさと着替えろ』
『……今度は一体どんな遊びを思いついたのですか? 女性用の衣装まで揃えて』
『夫が妻のドレスを用意するのは当然だろう』
『はっ!?』
『今からお前は俺の妻だ!』
とてもいい笑顔で宣う皇太子殿下に眩暈が襲ってきた。
何を始めようとしているんだ?
皇太子殿下は本気で私を妻にする気か?
いやいや、落ち着け。帝国法では同性同士の婚姻は許されていない。
『なんだ。なにが不満なんだ? レイモンドは俺の側近候補だろう? ただ肩書が少しの間変わるだけだ。何も問題ないだろ? だいたい、俺達の付き合いは十年以上経つ。もう夫婦も同然じゃないか!』
本気か!?
本気で仰っているのか!
妻と側近では全く立場が違う!
『んじゃ、そう言う事で』
『ちょ……っ……ま……』
私の反論など聞かずに皇太子殿下に着ていた服を脱がされドレスに着替えさせられた。……殿下の用意したドレスは恐ろしいまでに私の体形にピッタリだった。逆に怖い。どうして私のサイズを知っているんですか!!!
そうして今現在、闇に紛れて帝国を抜け出している最中だ。既に隣国に入国している。しかも……密入国だ。
「殿下、一体どちらへ向かわれているのですか?」
あれから少し頭が冷えた。
皇太子殿下には何らかの目的で行動していると。
「おいおい、殿下は禁句だと言っただろ? 今から『旦那様』と呼べ。な、『奥さん』」
「……では『旦那様』……何処に行こうとしているんですか?」
「ん? 言ってなかったか?」
「……聞いてません」
「バレッタ公国だ!」
「でん……『旦那様』。何故、バレッタ公国なのですか? そして何をしに行く気ですか?」
「決まっている。公国一の美女の顔を拝みにいくんだ!」
アホな事を言われた。
美女の顔を見るためだけにこんな手の込んだ事をするのか?
そもそも、美女など見慣れているだろう!
まだ見足りないのだろうか? それとも皇太子殿下が気に欠ける程の美女だとでもいうのか?
呆れを通り越して感心するしかない。
この時の私は気付かなかった。
皇太子殿下の企みを。
あの皇太子殿下がそんな普通の事をする訳がなかった。自分を張り倒したい。私を女装させて夫婦を装わせてまで入国を果たしたバレッタ公国。皇太子殿下の計画の全貌を知るのは全てが終わった後だった。
20
お気に入りに追加
678
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
幼馴染との真実の愛は、そんなにいいものでしたか?
新野乃花(大舟)
恋愛
アリシアとの婚約関係を築いていたロッド侯爵は、自信の幼馴染であるレミラとの距離を急速に近づけていき、そしてついに関係を持つに至った。そして侯爵はそれを真実の愛だと言い張り、アリシアの事を追放してしまう…。それで幸せになると確信していた侯爵だったものの、その後に待っていたのは全く正反対の現実だった…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
身分違いの恋に燃えていると婚約破棄したではありませんか。没落したから助けて欲しいなんて言わないでください。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるセリティアは、ある日婚約者である侯爵令息のランドラから婚約破棄を告げられた。
なんでも彼は、とある平民の農家の女性に恋をしているそうなのだ。
身分違いの恋に燃えているという彼に呆れながら、それが危険なことであると説明したセリティアだったが、ランドラにはそれを聞き入れてもらえず、結局婚約は破棄されることになった。
セリティアの新しい婚約は、意外な程に早く決まった。
その相手は、公爵令息であるバルギードという男だった。多少気難しい性格ではあるが、真面目で実直な彼との婚約はセリティアにとって幸福なものであり、彼女は穏やかな生活を送っていた。
そんな彼女の前に、ランドラが再び現れた。
侯爵家を継いだ彼だったが、平民と結婚したことによって、多くの敵を作り出してしまい、その結果没落してしまったそうなのだ。
ランドラは、セリティアに助けて欲しいと懇願した。しかし、散々と忠告したというのにそんなことになった彼を助ける義理は彼女にはなかった。こうしてセリティアは、ランドラの頼みを断るのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者が駆け落ちをした
四折 柊
恋愛
レナーテとリュークは二か月後に結婚式を挙げるはずだった。ところが二人の結婚式を一番楽しみにしていたリュークの祖父エフベルト様が亡くなったことで、状況が変わってしまう。リュークの父カレル様が爵位を継ぐと結婚を白紙にしてしまったのだ。どうして白紙に? エフベルト様の喪が明けるまでの延期ではなくて? リュークに会って彼の気持ちを確かめたい。ところがそれ以降レナーテはリュークと会えなくなってしまった。二人の運命は……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
さようなら、もと婚約者さん~失踪したあなたと残された私達。私達のことを思うなら死んでくれる?~
うめまつ
恋愛
結婚して三年。今頃、六年前に失踪したもと婚約者が現れた。
※完結です。
※住む世界の価値観が違った男女の話。
※夢を追うって聞こえはいいけど後始末ちゃんとしてってほしいと思う。スカッとな盛り上がりはなく後読感はが良しと言えないですね。でもネクラな空気感を味わいたい時には向いてる作品。
※お気に入り、栞ありがとうございます(*´∀`*)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
幼馴染のために婚約者を追放した旦那様。しかしその後大変なことになっているようです
新野乃花(大舟)
恋愛
クライク侯爵は自身の婚約者として、一目ぼれしたエレーナの事を受け入れていた。しかしクライクはその後、自身の幼馴染であるシェリアの事ばかりを偏愛し、エレーナの事を冷遇し始める。そんな日々が繰り返されたのち、ついにクライクはエレーナのことを婚約破棄することを決める。もう戻れないところまで来てしまったクライクは、その後大きな後悔をすることとなるのだった…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
見た目普通の侯爵令嬢のよくある婚約破棄のお話ですわ。
しゃち子
恋愛
侯爵令嬢コールディ・ノースティンはなんでも欲しがる妹にうんざりしていた。ドレスやリボンはわかるけど、今度は婚約者を欲しいって、何それ!
平凡な侯爵令嬢の努力はみのるのか?見た目普通な令嬢の婚約破棄から始まる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる