上 下
6 / 20

第6話 皇后の頭痛の種6

しおりを挟む

 考えられることは有るには有るが……。

「『加護持ち』の可能性はどうです?」

「はぁ!? 加護持ち? 母上、泣く子も黙る冷酷非情な帝国の影の支配者らしくもない」

「誰が恐怖の対象ですか。真面目に聞きなさい」

「それこそ有り得ませんね。『加護持ち』にそこまでの力はありませんよ」

「ええ。通常はね」

 精霊の『加護』はその精霊が個人を気に入った場合のみ与えられる。
 土地に根差した高位精霊と違って『加護』を与えるのは専ら中位精霊、下位精霊。けれど、稀に大精霊からの『加護』を与えられる人間もいる。それこそ数百年に一人いるかいないかの逸材。

 どうやら馬鹿息子も私の考えが分かったようで苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「分かりましたね、この結婚が大きな意味を持つという事を」 
 
「……そんな憶測に過ぎない事のために婚姻をしろと?」

「憶測だろうと何だろうと先手を打っておくのは為政者として当然の判断です」

「……母上の考え違いだったらどうするんですか? 責任を取ってくださるんでしょうね」

「安心なさい。シルヴィア公女は美しい事で有名です。公国一の美姫と謳われる姫君ですよ。彼女のは側妃達がカバーするでしょう。それに……ここ数年で食料の価格が高騰しています。バレッタ公国産の小麦も今年から値上げに入りました。シルヴィア公女を妃に迎える事でより安く取引ができるようになる。それに加えて、南の海産物も安価に入手できる。どちらに転んでも損はありません」
 
「国同士が強固な関係を築けば更なる利益に繋がる、という訳ですね」

「分かっているではないですか」

「実に母上らしい手腕だと感心しています」

「それは、ありがとう。この母は帝国の皇后ですからね。国益を重要視するのは当然でしょう。四ヶ月後にはシルヴィア公女が我が国ガリア帝国に来ます。以前から準備していた皇太子の後宮に彼女を迎え入れますのでそのつもりでいなさい」

「正妃なのに後宮入りをさせるのですか?」

「おかしな事。例え正妃であろうとも『後宮入り』するのは慣例ですよ」

 自分の母親が父親に代わって政務を行っている。後宮ではなく皇帝と同じ部屋で暮らしている姿を産まれた時から見続けているアレウスは少し思い違いをしている。代々の皇后にそこまでの権利はない。正妃であっても妃の一人。当然、住まいは「後宮」である。この私だからこそ出来ている行為なのだ。古い慣例はいまだに残り続けている。

 もはや取り繕う事もできないのだろう。
 アレウスはしかめっ面である。そのムスッとした表情は、とても皇太子のすべき顔ではない。帝国一の美男子と名高い美貌が残念な事になってしまっている。
 まったく、この利かん気な性格は誰に似たのやら。

「我が帝国の皇太子の結婚式です。国を挙げて盛大に執り行いましょう!」 

 高らかに宣言すると、レモンを口に含んだかのような顔になる息子。それを見ると今までの苦労を思いだし溜飲が下がる思いだった。

 この母に勝とうなど百年早い!
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

痛みは教えてくれない

河原巽
恋愛
王立警護団に勤めるエレノアは四ヶ月前に異動してきたマグラに冷たく当たられている。顔を合わせれば舌打ちされたり、「邪魔」だと罵られたり。嫌われていることを自覚しているが、好きな職場での仲間とは仲良くしたかった。そんなある日の出来事。 マグラ視点の「触れても伝わらない」というお話も公開中です。 別サイトにも掲載しております。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

【完結】4公爵令嬢は、この世から居なくなる為に、魔女の薬を飲んだ。王子様のキスで目覚めて、本当の愛を与えてもらった。

華蓮
恋愛
王子の婚約者マリアが、浮気をされ、公務だけすることに絶えることができず、魔女に会い、薬をもらって自死する。

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人

白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。 だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。 罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。 そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。 切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

より条件のいい女に乗り換えたつもり? それ、豆狸をつかった離縁工作だポン

monaca
恋愛
キャロルは突然、スティーブ王太子から婚約破棄を告げられた。 「どうして?  わたしがあなたになにかした?」 泣き崩れるキャロル。 だがじつは、その婚約破棄はキャロルが仕組んだものだった。 彼女が去ったあと、スティーブは新しい婚約相手をみなに紹介した。 その名はコリーナ=ポンポ。 スティーブは知るよしもないが、その絶世の美女は、キャロルの助けた豆狸が化けたものだった。

巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~

アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。

王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません

黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。 でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。 知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。 学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。 いったい、何を考えているの?! 仕方ない。現実を見せてあげましょう。 と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。 「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」 突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。 普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。 ※わりと見切り発車です。すみません。 ※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)

処理中です...