上 下
20 / 78

第20話七年前~ブリリアントside

しおりを挟む

 
「ははははっ。何時もこんなに風に議会が早く承認してくれると私も助かるのだがね」

「上機嫌ですわね、お父様」

「ブリリアント、お父様は法案が通って嬉しいのよ」

「誰の邪魔も入らずにすんなりと通る事など滅多にないぞ」

「ほほほ。国王も一人息子は可愛いのね」

「それはそうだろう。唯一の子供だ。ユリウス殿下を連座させないためには法案を飲むしかない。それに、犯罪者にも優しい国王像はもう使い飽きている。そろそろ違う方面にイメージアップする必要があったのだから兄上も私に感謝している事だろう」

「では、犯罪者は鉱山送りが決定したのですね」

「ああ。ただし、重犯罪者のみが対象だ。流石に軽犯罪者まで鉱山送りにはできないからな。彼らは更生の余地ありとしている」

「なんにしても、王家所有の鉱山の働き手が増えたことは喜ばしいですわ」

「まったく。国王も頑固なこと。帝国の職人を使えばすぐだというのに」

「ふふっ。公爵領の鉱山は帝国のプロの鉱山職人が働いてくださっていますから安定してダイヤモンドが採れますものね」

「ええ。ブリリアントにも理解していると言うのに、あの国王は……」

「こればかりは仕方がない。国王派の貴族の目もある。まあ、兄上はそれが無くとも帝国人を鉱山には入れないだろうがな」

「帝国の魔道具を使えば簡単に採り出せるのに、愚かだわ~~。どうせ、ルキウス(弟)が発見した鉱山をルキウス一人の手柄にしたく無いとかいうくだらない理由なんでしょう。国王はそれでいいかもしれないけど、付き合わされる国民は哀れだわ」

 お母様、楽しそうに仰らないでください。王国人にとっては死活問題なんですから。労働環境は過酷の一言という噂も聞く程です。

「王家所有の鉱山はかなり原始的なやり方をされていると聞きましたが本当でしょうか?命の危険もあるとか……」

「それは本当だよ、ブリリアント」

「そのような処でモントール元伯爵はやっていけるのでしょうか?」

「ふふっ。それは大丈夫よ、ブリリアント。元伯爵は逃げ出さないように『隷属の首輪』をしているわ。帝国産の魔道具だから絶対に外れないし、逃げ出せば全身が痺れる仕組みだから安全よ」

「……お母様、そう言う意味では……」

「それもあるが……仕事面でも彼なら皆に歓迎されている筈だ」

「え?」

 「歓迎されている」とはどういう事でしょう?見るからに労働に従事した事のないモントール元伯爵に鉱山の仕事ができるのでしょうか?寧ろ、足手まといだと言われて邪険にされるのではないでしょうか?
 私がお父様の言葉に考え込んでいる間、二人の会話は続きます。

「何しろ、彼は絶世の美青年だからね。日々、過酷な労働に従事している屈強な男達からしたら垂涎物だろう」

「あら、それは良いわ。肉体労働者には『癒しの存在』は不可欠よ。仕事に対する意欲が違うもの。きっと先輩達に可愛がられているでしょうね」

「鉱山の責任者は私が王子時代の知り合いでね、懇意にしている相手だから元伯爵のあれやこれやを色々と話しておいたよ」

「流石、ルキウスだわ。女の敵が、自分が弄んだ女性達と同じ目にあうなんて、これこそ因果応報の刑罰だわ」

「彼も自分が以前やっていた事の反省ができるだろう。実践経験できる機会なんて中々ないからね」

「ねぇ、ルキウス。元伯爵のお仕事を撮影できないかしら?」

「責任者に依頼すれば可能だが、どうするんだい?」

「ふふふっ。売るのよ。商売」

「売れるかい?」

「あら!一定の需要があるのよ!特に元伯爵タイプなんて女性にも人気よ、きっと」

「やれやれ。まあ、彼は重犯罪者だ。二度と表舞台に戻ってこれないからいいが……鉱山には普通の労働者もいるからね」

「それは大丈夫よ!」

「ん?」

「一般人は修正するわ。誰なのか分からないようにね」

「それなら良いか」

「ありがとう、ルキウス。愛してるわ」


 なんでしょう。
 お父様とお母様の会話に滲み出る恐ろしさは。会話の半分も理解できません。辛うじて、モントール元伯爵がより悲惨な展開が待ち受けているという事だけです。

 アラン・モントール元伯爵。

 私が再び彼の名前を聞くのは数年後のこと。
 その時に両親の恐ろしい会話の内容を知る事になるのですが、それはまた別の話。
 

しおりを挟む
感想 75

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

恋した殿下、あなたに捨てられることにします〜魔力を失ったのに、なかなか婚約解消にいきません〜

百門一新
恋愛
魔力量、国内第二位で王子様の婚約者になった私。けれど、恋をしたその人は、魔法を使う才能もなく幼い頃に大怪我をした私を認めておらず、――そして結婚できる年齢になった私を、運命はあざ笑うかのように、彼に相応しい可愛い伯爵令嬢を寄こした。想うことにも疲れ果てた私は、彼への想いを捨て、彼のいない国に嫁ぐべく。だから、この魔力を捨てます――。 ※「小説家になろう」、「カクヨム」でも掲載

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

婚約破棄?とっくにしてますけど笑

蘧饗礪
ファンタジー
ウクリナ王国の公爵令嬢アリア・ラミーリアの婚約者は、見た目完璧、中身最悪の第2王子エディヤ・ウクリナである。彼の10人目の愛人は最近男爵になったマリハス家の令嬢ディアナだ。  さて、そろそろ婚約破棄をしましょうか。

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ

もぐすけ
ファンタジー
 シーファは王妃だが、王が新しい妃に夢中になり始めてからは、王宮内でぞんざいに扱われるようになり、遂には廃屋で暮らすよう言い渡される。  あまりの扱いにシーファは侍女のテレサと王宮を抜け出すことを決意するが、王の寵愛をかさに横暴を極めるユリカ姫は、シーファを見張っており、逃亡の準備をしていたテレサを手討ちにしてしまう。  テレサを娘のように思っていたシーファは絶望するが、テレサは天に召される前に、シーファに二つのギフトを手渡した。

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?

鶯埜 餡
恋愛
 バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。  今ですか?  めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?

処理中です...