【完結】吉良上野介~名君は如何にして稀代の悪役になったのか~

つくも茄子

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呉服屋・長次郎3

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 数ヶ月後、お玉は可愛らしい赤ん坊を産んだ。

 実家での出産や。
 溺愛しとる唯一の娘ということで、父親の儂の我が儘が通った形でや。婿殿が言いくるめてくれたのは言うまでもあらへん。ホンマに頭が上がらんわ。

 お玉によう似とって目の大きい子や。
 大きゅうなったらになると評判になったわ。
 人目を忍んで祝いに駆け付けてくれはった家老方は随分落胆してはったけど、こればかりは天の采配や。仕方あらへん。それでも殿さんには事が分かっただけでもお偉いさんたちにとっては儲けもんや。

 『御子様の御誕生おめでとうございます』

 大石様はだけは他の家老らとは違った。
 
 『御子様が成長なさった暁には是非某の反物を来ていただきたく』

 祝い品は上物の反物。
 有難く頂戴した。


 娘のお玉が早産で子を産んだことを婚家は酷く心配しなさった。
 儂もそうやが相手の家も初孫にあたる。「暫く嫁と孫は実家でしたほうがいい」と相手方から気をつかわれてしもうた。
 婿殿がゆうには「早すぎる出産で嫁の体が弱り、孫も酷く脆弱に生まれて来てしまった」と思うとる、という話や。儂も婿殿も、お玉も、その勘違いを訂正せなんだ。寧ろ好都合とばかりにその話に乗っかったんや。ホンマに偶々孫が他の子よりもちょっとばかし小さく生まれてきたのが功を奏したんや。


 7歳までは神のうち――

 魔よけや健康祈願のために孫を可愛らしく飾り立てた。
 そうすると益々「お雛さんのようや」と評判になる始末や。

 赤穂浅野家が取り潰されてしもうて、家臣の皆様方も散り散りにならはった。御家復興を目指しとった大石様も血気に流行る若衆寵愛厚い小姓あがりならず者候補ども他に伝手の無い臣下と死んでもうた。
 大石様にだけは孫の晴れ姿を見てもらいたかったな……。
 孫の七五三の晴れ着は以前大石様から頂いた反物を使わせてもろおた。藍色の色地に鶴と亀の絵。裏地に謎解きのように家紋が施されておったわ。一体何処まで知ってはったかは分からん。せやけど、大石様が何も言わんでくれたお陰で娘と孫は毎日を笑って過ごせとる。
 
 孫は病弱やから、他の子よりも一年遅くに節句の祝いをしたんや。

 羽織袴姿のはそら凛々しかったわ。
 
 浅野の殿さんが頭の固いお人で助かったわ。一度思い込んだら疑う事を知らんらしい。普通は「あれ?」と思うもんなんやけどな……。孫が「男の子」だという事は町のもんは殆ど知っとった。せやけど「厄除け」のために女の子として育てとると思うてくれとったから何も言われんかったわ。

 大石様、孫が元服したら約束通り、もう一つの反物を使わせて頂きます。
 
 
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