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側用人・木下義郎6
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「けったいな事になってはりますな。御公儀が何時までも刑を言い渡さへんから巷では『赤穂浪人の無罪確定』を声高にゆう人まで出てきはりますえ?」
「……駒若」
徳利を傾けて酌をする駒若は遠回しに私を非難しているのだろう。
「なんや『浄瑠璃坂の仇討』のようやわ」
「?三十年前の事件の事か?」
「そうどす。今回の赤穂浪人らの仇討ちとよぉ似て張りますわ」
「あの事件は主君の敵討ちではないぞ?」
「へぇ。家臣同士のイザコザでやんす。浪人らが徒党を組んで屋敷に押し入り、犯行後は従順な態度で自首してきはる点ではよぉ似てはります」
「その件では犯人たちは島流しの刑に処されたはずだ。断じて『無罪放免』の御裁きではないぞ」
当時は、結構な評判を呼んだ事件だと聞く。
今でも歌舞伎や講談のネタにもなっている位だからな。
「いややわ、義さん。問題はその後やわ」
「その後?」
「御赦免で数年の島生活をした後は、元の処よりもええ処に再就職したっちゅう話ですぇ」
「!?」
まさか……駒若は赤穂の浪人らが再就職目当てに仇討ちしたと言いたいのか!?
幾ら何でもそれは……。
「有名どころの話でやんす。国元の家老はんが知らんはずあらしまへん。なんでも仇討ちのお頭は筆頭家老の大石はんというやおまへんか」
「大石内蔵助を知っているのか?」
「江戸に上がられた時期がありましてな、丁度、御座敷にうちを指名してきはりました」
「なに!?いつの時だ?」
「三年位前ですやろか?お忍びで御出ででしたぇ。浅野の殿さんの事でよぉ謝られてはりましたわ」
「……?」
「ふふふ。うち、浅野の殿さんにいい寄られてたんどす」
「はっ!?」
初耳だぞ?
いつからいい寄られていたんだ!
「けったいなお人やったわ」
「何かあったのか?」
「へえ、うちを贔屓してくれはるんはええんどすけど……いらちなお人でえろう気分屋やったわ」
「客などそんなものだろう。特に浅野内匠頭は頭の固い武人気質だったと聞く。恐らく座敷遊びに不慣れだったんだろう」
「せやろか?その割にはうちを『妾』にしてやるゆうてましたわ」
ぶはっ!
飲んでいた酒を噴き出してしまった。
「いややわ、義さん。そないに驚かんといて」
「……いや、すまん。浅野内匠頭は側室を一人も持たない愛妻家と評判だったのでな。つい……」
「義さん。側室やのうても外に幾らでも女子はおります。」
「それはそうだが……」
意外だ。
浅野内匠頭は「正妻好き」と陰で言われていたからな。十年以上も子宝に恵まれないにも拘わらず、離縁して実家に帰す事もなく、側室を持ち跡取りを儲ける事も無い。それでも跡取りは必要不可欠という事もあって実の弟を「養子」にした位だ。
それにしても……駒若に目を付けるとは中々見る目がある。花の盛りの美貌と教養の高さは天下一品だ。
「うちにはもう良い人がおりますんでお断りさせてもらったら、なんや、頭から湯気がでてきそうなほどお怒りやったわ。一緒に来てはった片岡っちゅう人が割り込んでくれんかったらえらい目にあってたかもしれまへんな」
ぶはっ!
二度目の酒の噴き出し。
にこりを微笑んで見ている駒若には勝てない。
今度、簪を贈ろう。
いや、櫛に方が良いかもしれない。特注の木箱を作らせよう。
「……駒若」
徳利を傾けて酌をする駒若は遠回しに私を非難しているのだろう。
「なんや『浄瑠璃坂の仇討』のようやわ」
「?三十年前の事件の事か?」
「そうどす。今回の赤穂浪人らの仇討ちとよぉ似て張りますわ」
「あの事件は主君の敵討ちではないぞ?」
「へぇ。家臣同士のイザコザでやんす。浪人らが徒党を組んで屋敷に押し入り、犯行後は従順な態度で自首してきはる点ではよぉ似てはります」
「その件では犯人たちは島流しの刑に処されたはずだ。断じて『無罪放免』の御裁きではないぞ」
当時は、結構な評判を呼んだ事件だと聞く。
今でも歌舞伎や講談のネタにもなっている位だからな。
「いややわ、義さん。問題はその後やわ」
「その後?」
「御赦免で数年の島生活をした後は、元の処よりもええ処に再就職したっちゅう話ですぇ」
「!?」
まさか……駒若は赤穂の浪人らが再就職目当てに仇討ちしたと言いたいのか!?
幾ら何でもそれは……。
「有名どころの話でやんす。国元の家老はんが知らんはずあらしまへん。なんでも仇討ちのお頭は筆頭家老の大石はんというやおまへんか」
「大石内蔵助を知っているのか?」
「江戸に上がられた時期がありましてな、丁度、御座敷にうちを指名してきはりました」
「なに!?いつの時だ?」
「三年位前ですやろか?お忍びで御出ででしたぇ。浅野の殿さんの事でよぉ謝られてはりましたわ」
「……?」
「ふふふ。うち、浅野の殿さんにいい寄られてたんどす」
「はっ!?」
初耳だぞ?
いつからいい寄られていたんだ!
「けったいなお人やったわ」
「何かあったのか?」
「へえ、うちを贔屓してくれはるんはええんどすけど……いらちなお人でえろう気分屋やったわ」
「客などそんなものだろう。特に浅野内匠頭は頭の固い武人気質だったと聞く。恐らく座敷遊びに不慣れだったんだろう」
「せやろか?その割にはうちを『妾』にしてやるゆうてましたわ」
ぶはっ!
飲んでいた酒を噴き出してしまった。
「いややわ、義さん。そないに驚かんといて」
「……いや、すまん。浅野内匠頭は側室を一人も持たない愛妻家と評判だったのでな。つい……」
「義さん。側室やのうても外に幾らでも女子はおります。」
「それはそうだが……」
意外だ。
浅野内匠頭は「正妻好き」と陰で言われていたからな。十年以上も子宝に恵まれないにも拘わらず、離縁して実家に帰す事もなく、側室を持ち跡取りを儲ける事も無い。それでも跡取りは必要不可欠という事もあって実の弟を「養子」にした位だ。
それにしても……駒若に目を付けるとは中々見る目がある。花の盛りの美貌と教養の高さは天下一品だ。
「うちにはもう良い人がおりますんでお断りさせてもらったら、なんや、頭から湯気がでてきそうなほどお怒りやったわ。一緒に来てはった片岡っちゅう人が割り込んでくれんかったらえらい目にあってたかもしれまへんな」
ぶはっ!
二度目の酒の噴き出し。
にこりを微笑んで見ている駒若には勝てない。
今度、簪を贈ろう。
いや、櫛に方が良いかもしれない。特注の木箱を作らせよう。
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