【完結】吉良上野介~名君は如何にして稀代の悪役になったのか~

つくも茄子

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側用人・木下義郎3

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 江戸城も城下とは違った意味で混迷を極めていた。
 赤穂の浪人の裁きは私が思っていたのとは違って、判決が中々でなかった。てっきり、直ぐにさらし首になるとばかり思っていたのだが……。

「これぞまさに武士の鏡。天晴な仇討ちである。赤穂の浪人は助命すべきである」

「何を申す!江戸城内に置いての刃傷事件。公儀の裁定を不服とみなした赤穂の浪人どもが徒労を組んで無抵抗の年寄りをなぶり殺しにしただけのこと。死罪に値する行為だ」

「そなたには武士の心がないのか!このような忠義者は早々いないぞ!」

「このような事は前代未聞のこと……早急に決めるのは難しい」

「仇討ちなど珍しくもないだろう!?」

「確かに珍しくない。だが今までは『親の敵討ち』や『兄弟の敵討ち』が大半で、今回のように『主君のため』というのは初めての事では無いか!」

「そのような些細な事どうでもいいではないか!肝心なのは、このような時代においても主君への恩義を忘れないという一点が大事なのだ」

「しかし、公方様のお膝元でこのような騒ぎを起こしたのだ。処罰無しになど断じて出来ん!」

「なんと!」


 意見が別れてしまっている。これでは、まとまらんだろう。武道派の者たちは赤穂の者どもを褒めそやしている始末だ。城下でも無責任な噂話が飛び交っている。老中方の言っているような内容は庶民も言っている事だ。要は「戦乱の時代が終わり平和な世に置いて、己の命をなげうって忠義を示した赤穂の浪人は武士の鏡である」と言った処だろう。赤穂の浪人の処罰が遅れれば遅れるほどおかしな噂話がまかり通っていく。

 あの愚かな浅野の事を「忠誠を尽くすに値する殿様だった」と言われているのだ。「一年半もかけて計画を練り行動を起こした赤穂の浪人たちの殿様だ。きっと吉良様の虐めにも耐え忍んでいたことだろう。刃傷に及んだのもあっての事だ。そこまで追い詰められた浅野の殿様は本当に気の毒な人だったに違いない」と、おかしな話がどんどん変な方向に捻じ曲げられていった。

 作り話にもほどがある!
 虐めの実態もないし証言も無いぞ!
 まぁ、細やかな気配りができる……細かい事にまで気が付いてしまう吉良殿と気が合わない者はいる。だが、そんなものは相性の良し悪しではないか!大半の者から慕われているのだ!吉良殿は!

 赤穂の浪人も本気で仇討ち目的ならば、いっその事、吉良殿の首を打ち取ったその場で切腹でもすればいいものを!大名行進のように街を練り歩いてくれたお陰でこちらはいい迷惑だ!

 
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