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番外編

2.アリア元王妃side

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「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「アリア王妃様如何なさいました!?……っ!!!」

「わ、私の髪が……どうして……」

 混じりけなしの真っ赤な髪は私の自慢だった。
 なのに……。茶色に見えるほど色褪せていた。

「これは一体どういうことなの!?私の髪が……」

「王宮の洗髪料が王妃様に合わなかったのでしょう」

「そんな!!」

「この度は誠に申し訳ございません。至急新しい物と取り替えますので」

「っ!そんなものではないわ!!これは……!!」

「髪質が合わなかったのです。これ以上の詮索をおやめください」

「……こんなみっともない髪。もう陛下は私を愛してくださらない」

「いいえ。今以上に愛されます」

「…………え?」


 女官長の言葉通り、私の髪を見ても陛下は変わらず愛してくれた。
 寧ろ、前以上に……。

 この時、気付けば良かった。

 陛下は混じりけのある髪が好きなのだと。
 婚約者と同じ髪にしたかったのだと。

 名前しか知らない。
 あった事もない恋敵。

 彼女を全く知らない私は、気付くのが遅すぎた。

 ドレスは全て陛下が準備した。
 宝飾品、靴、下着に至るまで……。

 私の好みとは少し違うけれど、陛下の好みに沿うようにしてきた。

 息子が生まれた時は嬉しかった。
 これで名実ともに陛下の妻。
 私は未来の王の母。

 国民も貴族も王子の誕生を大いに祝福してくれた。

 この時が、私の幸福の絶頂だった。

 息子の立太子。
 その式に、二つの公爵家が欠席した。

 立太子式に三大公爵家が揃わなかった事は前代未聞で、これは息子を王太子にする事に反対するものだと噂された。

 陛下は気にしていなかったけれど、私は気分が悪かった。
 息子の晴れの舞台に水を差されたのだもの。
 それだけじゃない。
 まるで私自身を非難されているような気がしていた。

 息子は王太子になり、公爵令嬢と婚約した。

 私の実家は伯爵家。
 息子には後ろ盾が必要だった。


 陛下は常に優しい。
 私を傍から離さない。
 息子を可愛がってくれる。

 なのに、不安が尽きない。

 不安は現実になった。

 息子は死に、陛下は後継者として公爵家から養子を迎えた。

 王宮の者達が囁く。

『公爵令嬢の幼い頃によく似ているわ』

『まるで陛下と亡くなった令嬢の息子のようね』

『新しい王太子殿下は幼いのに随分と聡明だ』


 義理の息子になった幼い王太子。

 赤と茶色の混じる髪。
 愛らしい顔立ち。

『亡き公爵令嬢にそっくりだ』

 囁く声が私に悪夢を見せる。

 義理の息子を溺愛する陛下。
 陛下は義理の息子に夢中だった。

 我が子の死など全く思い出しもしない。

 私との時間も段々減っていく。



 魔が差したの。
 気付いたら義理の息子新王太子を階段から突き落とした。

 死ねばいい。死んでしまえばいい。

 私の幸せを壊した亡霊なんて消えてなくなればいい。

 亡霊はしぶとかった。
 死ななかった。
 生き残ってしまった。

 そして私は王妃の地位を剥奪され、幽閉された。

 

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