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52.伯爵夫人side

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「奥様、お客様がいらっしゃいました」

 あら?
 今日は誰も来ない筈なのに……。
 こんな急な来客は一人しか思い浮かびませんわ。ええ、『彼』でしょうね。というよりもそれ以外の来客など思い浮かびませんもの。

何時もの方王太子殿下ですのね」

 王太子殿下は約束など全く頓着なさらない方ですから。ほほっ。お陰で最近は殿下以外の男性との逢瀬もなくなりましたわ。……仕方ありませんでしょう?鉢合わせにでもなったら目も当てられません。殿下は意外に嫉妬深い方ですから。

 ご自分の持ち物に手垢が付くのを好まないというか、独占欲が強いというか。兎に角、一度自分のモノにしたら他者に渡すのも貸すのも嫌なタイプのようですわ。……若いからかしら?それとも遊び慣れしていないからなのか。恋愛に関して妙にロマンティックな面がありますからね。まぁ、それも含めて可愛らしい方ですわ。

 若いお嬢様方のそういった殿下の性質を好んでいるようですが、自分だけが愛されていると勘違いしている令嬢が多いのが少し心配です。今日来てくれたのはある意味で良かったのかもしれませんね。一度、殿下には忠告しないといけないと思ってましたもの。
 

「い、いいえ。今日は違いまして……」

「殿下ではないの?」

「はい」

「では誰が……?」

「そ、それが、実に珍しい方でして、ええ。今すぐ奥様にお会いしたいと仰っていまして」

「珍しい方?」

「は、はい」

 執事の態度に不安を覚えます。王太子殿下ではないのにこの様子……高位貴族の方かしら?でも誰が?

「どなたがいらっしゃったのかしら?」

「…………旦那様でございます」

 意外な人物が来ました。
 まぁ、彼の家でもありますからね。「来た」というよりも「帰って来た」と表現する方が良いでしょうね。何年ぶりの帰宅かは覚えてませんが。出来ればお引き取り願いたいのですが、そうもいかないでしょうね。
 私は小さく溜息をつくと、執事に彼と面会の許可と対応するための用意を命じました。
 はぁ……何だか気鬱ですわね。


 それにしても一体何の用で来たのかしら?
 今まで余程の事がない限り寄り付きもしなかった方が。親族の誰かが急死したのかしら?それなら夫にではなく私に連絡が来ますし……。婚姻に関しても私が全て把握してますからそれもないでしょうし。

 困ったわ。

 夫がこの家に来た理由が思い至らない。



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