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42.伯爵夫人side

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 スッタモンダの末、戻ってきたスワニール伯爵邸。
 寄りを戻した、再構築……どれも違うわ。嫌々ながら婚家に戻された、という方が正しい。最も、私に逆らう者はこの屋敷を既に去った後だからまだマシかしら?


「~~~っ……だから結婚なんてしたくなかったんだ」

 様変わりした自宅は夫にとって居心地が悪かったみたいだわ。
 仕事ぶりは今の使用人たちの方が何倍も優秀だけれど、前の使用人たちとは違って雇用主が誰かをよく理解しているプロです。無条件で『伯爵家のお坊ちゃま』の味方なんてしない。味方のいない家はさぞかし居辛いでしょうね。ほほほっ。

「したくなかった、と仰っても結局は両家の意向に逆らえなかっただけですわよね?」

「なにっ!?」

「あら?そうではなくて?両家を交えての話し合いに貴男は始終黙り込んだまま。うんともすんとも言わない。自分の家の使用人が紹介状無しで解雇されても反対一つしなかった。いいえ、できなかったから何も言わなかった。そうでしょう?最終的に義両親が私の両親に頭を下げて、伯爵邸の使用人の入れ替えと結婚の継続を願い出た時も何も言わなかったではありませんか」

「そ、それは……」

「家を継ぐことを決めたのなら、貴男は私との間に子供を儲ける必要があるわ。その事を理解していないのかしら?それならば婚姻不履行になるわ。当然、慰謝料と賠償金が我が家から請求されますわね。この家にそんなお金はありませんでしょう?だからこそ義両親は頭を下げてお父様の要求を呑んだ。違いますか?」

「くっ……」

 夫が私との結婚を望んでいなかったからと言ってどうにか出来る問題ではない。
 私だって家の意向で彼と離婚できない状態なんだから!

 愛?
 そんなもの、この一件冷めたわ!
 私の夫への恋情は一気に冷めました。
 まだ多少残っていた愛情と、結婚して直ぐの離婚は世間体に悪いという思いで婚姻継続を了承したに過ぎません。


 ここは政略と割り切るしかない。
 妥協は必要だわ。
 今まで散々貴族としての恩恵を受けて来たんだもの。
 たかだか結婚くらいで貴族を捨てる事は私には出来ないし、夫はもっと出来ない。
 彼は貴族でしか生きられない人種だわ。

「五年。今から五年以内に私は数人の子を儲けるわ。そのためには貴男の協力が必要なの」

「……協力?」

「ええ、だって子供は一人ではできないでしょう?」

「……」

「そうね、子供は三人くらい欲しいわ。それだけいれば両家は安心するでしょうし、私達だって備えがあった方が余裕が出るわ。だから五年。この五年は子作りに専念してもらいます。その後はお互いに自由になりましょう。離婚はできないけれど、それ以外は自由だわ。貴男は愛する女性と存分に恋人ごっこを楽しめばいいし、私も適当に伯爵夫人をやっていくわ」

「え?」

 心底意味が解らないという、間の抜けた顔を晒している夫に優しく微笑んであげました。

「お互い、貴族ルールに沿って自由に生きましょう。大丈夫よ。貴族に仮面夫婦はざらよ。私の両親は違うけれど、夫婦で寝室は別、場合によっては互いに愛人が存在する夫婦だっているもの。義務さえ果たせれば後は問題ないわ。夫が妻以外の女性と暮らそうと誰も咎めない。安心して。私は貴男に良い夫になれ、良い父親になれ、なんて無茶な事は要求しないわ。だってそんな事は無理ですものね。子供の教育に関しては大丈夫よ。最高の教育を施せば父親不在でも立派な跡取りになるわ」

「あ、いや……」

「貴族としての義務と権利の享受に貴男は黙って協力してくれるだけでいいの」

「……」

 五年待てば愛人との生活を許すと言っている正妻の寛大な心に感謝して欲しいわ。




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