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39.ソニアside

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 今日も来ない。
 何時からだろう。
 レーモンの訪れる日が減った。


『いい加減にしろ、ソニア。私達はもう子供ではないんだ。何時までも学生気分ではいられない』

 そんなこと今まで言わなかった!

『仕事が忙しいんだ。……話?それは重要な案件か?』

 なんでそんなに冷たいの?
 もっと優しくしてよ!

 前は優しかったのに!

 なんで!?


 理由が分かった。
 侍女達の話しているのを偶然聞いて知った。

 レーモンが浮気してる。

 相手は年上の人妻だって。
 凄い美人の伯爵夫人だって。
 その人に男の人はみんな夢中になっちゃうんだって。

 レーモンが裏切ってた。

 嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき!!!

 忙しいっていったじゃない!
 仕事だって!!

 なのに……私を裏切ってた。

 どうして!!?

 レーモンは私の“王子様”なんだよ?
 私を幸せにする必要がある!

 なのに……なんで……。


 周りにいる人達が噂してる。


「やっぱりね。いつかこんな日が来るんじゃないかって思ってたもの」

「よく今まで持ったものだわ」

「ほんと。ただでさえ後ろ盾がない状況なのに、あの態度だもの」

「まぁね。でも、あれで子供がいたらまた別だったのにねぇ」

「幾ら子供は天からの授かりものだからって。懐妊の兆しすらないんだからしょうがないわよ」


 侍女達の笑い声が聞こえてきた。

 私、馬鹿にされてる。

 子供、子供、子供、子供、子供……。

 まるで呪文のようだった。

 子供がいたら良かったの?
 私とレーモンの子供。

 子供が出来ないのは私のせい……?


 違う違う違う違う違う違う!!!


 私のせいじゃない!!!



 こんなに苦しいのに。
 こんなに辛いのに。

 レーモンは助けてくれない。

 私が泣いてるんだよ?
 傷付いてるんだよ?

 なんで助けてくれないの?
 なんで会いに来てくれないの?

 こんなの……おかしい。
 こんなの私が望んだ状況じゃない。

 だって『物語のお姫様』は「めでたしめでたし」で終わるじゃない!!

 ハッピーエンドじゃなきゃいけないの!!!











 ガシャン!!



「離して!!」

「ソニア……落ち着け……!」

 暴れる私を護衛達が拘束する。
 離して、離して、離しなさいよ!!

 ムリヤリ口を塞がれた。

 なんでよ!?
 私が何をしたっていうの!!

 夫の浮気に怒っただけじゃない!
 これは妻の当然の権利ってやつでしょ!?

 おかしいよ。こんなの……。

 私はそのまま拘束されて寝室で軟禁状態になった。
 後から侍女長に色々言われた。

「レーモンの素行を見咎めてはいけない」とか、「王太子のレーモンに手を挙げるなんてとんでもない」とか。
 他にもたくさん言われた。
 いっぱい怒られた。
 でも何が悪いの?

 分からない。



 レーモンが来るたびに喧嘩になる。
 その度に拘束されて怒られる。

 暫くするとレーモンは来なくなった。

 季節が二度巡った。

 最後にレーモンの顔を見たのは何時だったかな?……もう思い出せない。

「レーモンに会いたい。連れてきて」

「それは無理でございます」

「なんで?」

「王太子殿下はお忙しいのです」

「はっ!女に会うのに、でしょ?」

「……そんな事はございません」

「ウソツキ。みんな、嘘ばっかり!いいからレーモンを連れてきて!!」


 叫んだ。
 何度も叫んだ。

 叫ばないといけない。
 だって叫ばないといつの間にかレーモンも此処に来なくなる。
 ずっと来なくなる気がした。
 何時の間にか来なくなった先生達みたいに。


 私の願いが叶ったのは数ヶ月後だった。



 

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