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31.教師side

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 果たしてこの時間に意味はあるのでしょうか?

「先生!出来ました!」

 元気いっぱいの声。
 これが未来の妃殿下だとは誰も思わないでしょう。

「ソニア様、もう少し背筋を伸ばしてください」

「こ、こうですか?」

「ええ、先ほどよりも良くなりました。頑張りましたね、ソニア様」

「へへっ」

「さあ、次はそのまま歩いてください」

 教師である私の言葉に従って歩き始める少女。
 ゆっくりと進んでいきますが、それでも頭に乗せている本の揺れ具合からしてまだ特訓が足りないのでしょう。
 私は苦笑しつつ、彼女を褒め称えました。
 彼女はあの公爵令嬢を押しのけて王太子殿下の婚約者になった身の上です。どんな形であれ、妃になるしか道はありません。それを哀れと思うか、自業自得と思うかは人それぞれですが、私達教師は彼女を立派な淑女へと育て上げなければなりません。

 基本的なマナーすら知らない未来の妃殿下。
 マナーを覚える気がないのかそれとも学ぶことを拒否しているのか……。兎に角、難しい生徒です。前情報では「勉強が得意ではない」「あまり成績がよろしくない」「マナーすら知らない」等色々伺っていましたが、それ以前の問題でした。勉強をするという概念がないと言い換えても良いかと思われます。
 ソニア様にとって勉強時間は苦痛以外の何物でもないようでした。
 そんな彼女が王太子殿下の婚約者だなんて冗談なのでは……という声も教師達の間でありましたが、残念なことに真実なのです。悪夢を見ているのかと思って何度自らの頬を抓ったことでしょう。

「ふう……」

 平民出身のソニア様。
 お父様が元貴族だと聞いてはいましたが、どうやらそれらしい教育は受けてこなかったのでしょう。
 基礎の基礎から教えなければなりませんでした。

 ソニア様に付けられた教師達は皆優秀な方々ばかり。
 それでも「厳し過ぎないように」と王太子殿下から命令されました。私達の雇用主は殿下ではなく国王陛下なのですが……。ただ、国王陛下からは「幼子を相手にすると思って教えるように」と命じられてはいますのでソコは配慮していました。それを殿下は何を勘違いしたのか「自分の命令をよく聞いている」と判断されました。何度も言いましたが、私達は陛下の希望に沿って教育カリキュラムを作成しているのです。殿下の命令でしている訳ではありません!

 もしかして王太子殿下の方にも教育が必要なのではないでしょうか?
 この場合、再教育を意味していますが。
 殿下は理解しているのでしょうか?
 それともソニア様に影響されて今までの教育課程を全て忘れてしまったのでしょうか?


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