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29.王妃side

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「ギレム公爵……ですって!?」

「はい」

「しかも、婚約期間中だというのに既に一緒に暮らしているですって!?」

「はい。正確にはギレム公爵邸で花嫁修業ですが」

「そんな建前はどうでもいい!……ああああああああ!なんてこと!!これではアリエノールを再びレーモンと結び付ける事が出来なくなったではないの!!!ああああああああ!!!!」


 なんてことなの!
 ほとぼりが冷めた頃を見計らってアリエノールをもう一度レーモンの婚約者にしようとしていた計画が台無しだわ!!

 陛下はああ言っていたけれど、時間が経てば気持ちは変わるわ。
 レーモンの所業に怒っていても実の息子ですもの。可愛くない筈がないわ。現に

 レーモンだって時間が経てば自分の行動の意味を理解する筈なのよ。
 あんな女に夢中になっていたって時間が経てば目が覚める!そうでなくても飽きるのは時間の問題でしょう!!なのに! ギレム公爵がアリエノールと婚約したせいで台無しになったわ!!これではなんのためにアリエノールと婚約を結ぼうとした貴族達を牽制したのか意味がないわ!王家の影を使ってまで妨害してやったというのに……なんてことなの……! 

 王家の影が言うには、ギレム公爵は内密で事を勧めていたらしく、影達も後手後手に回ってしまったらしいわ。

 寄りにもよってギレム公爵にアリエノールを取られるなんて思いもしなかった。
 歳も離れているし、接点が特になかった。
 まさかの事態に私はくらくらと眩暈に襲われる。

「なんて……なんて……ことなの……!」

 二人の婚姻の意味を理解できない程愚かではないわ!!

 ―――今度何かあれば全力で叩き潰す

 という意思表示。
 それは王家と敵対するという意味に他ならない。

 このままゆっくりと滅びるか、それとも二つの公爵家によって早期に滅ぼされるかの違いでしかない……。

 どちらがマシなのかしら?


 二人が結婚し、二つの公爵家の結びつきがより強くなった数年後、実家の伯爵家の代替わりが行われた。新しい当主は伯爵家と遥か遠い親戚の男に譲渡された。伯爵家との血筋は遥かに薄い。父が何故その男を当主の地位に就けたのかは理解できなかった。それでもその頃には父が経営する商会は傾き掛けていたので、当主の座に就ける人物を探したらそうなってしまったのかもしれない。

 ある意味で父の目は確かだった。

 商会はかなりの縮小を余儀なくされたものの堅実な経営でどうにか破産を免れたのだから。



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