【完結】はぁ!?今更やり直したい?あれから何年たったと思っているの?

つくも茄子

文字の大きさ
上 下
13 / 15

女侯爵1 

しおりを挟む
 
 元婚約者ヘンリーが亡くなったという知らせが公爵家から届いたのは、彼と会った一ヶ月後のこと。
 落馬からの転落死。
 俄かには信じられない死因です。検死の結果、怪しい処は全くなく只の不運な事故として処理されました。

 公爵家の跡取りから外されたとはいえ「公爵家の息子」である事に変わりはありません。現役の当主の「兄」として厳かに葬儀が執り行われたのも当然のことでした。公爵家の直系の葬儀という事で王族や高位貴族の出席者ばかりの中で、ヘンリーの妻であるドロシー・スーザン夫人が、夫の棺に縋りついて泣きわめく姿は異質な雰囲気を醸し出しておりました。

「ヘンリ~~!どうしてどうして私を残して逝ってしまうの!」

 貴族という者はどんな時であろうとも冷静に取り乱してはならない、と教えられています。貴族令嬢ともなれば尚更。元男爵令嬢とはいえ、彼の妻はそれが出来ない人種のようでした。

「私を一人にしないで!ああああああああ!」

 高位貴族の方々は見苦しい振る舞いをするスーザン夫人に眉を顰めますが、それに気付かないのでしょう。泣き声は益々高まるばかり。ここまで露骨だと何かの演出めいて見えると思ってしまうのは彼女によって誇りを傷つけられたが故の考えでしょうか?

 葬儀の間中、神殿ではドロシーの泣き声が響き渡ったせいで神官の言葉も葬儀の主催者の公爵の言葉も参列者代表の言葉も聞こえ辛いものでした。公爵家の皆様は彼女の存在自体をとして扱っておりました。スルースキルが大変磨かれて御出ででした。




 ヘンリーが死んで未亡人となったスーザン夫人は、彼の残した遺産で豪遊しているという噂が侯爵領にも聞こえてきました。連日夜会に赴いているというのです。怪しげなパーティーにも参加しているという話です。挙句、カジノにのめり込んでいるという噂も……。


『最愛の夫を亡くして寂しいのだろう。ドロシー・スーザン夫人が夜ごと遊び歩いているのは恐らく自宅に戻りたくないためだ。家に帰れば嫌でも夫君を思い出して辛いからな。公爵家の跡目を捨ててまで選んだ最愛の妻のする事だ。ヘンリーもきっと許してくれる。我々は広い心で彼女を見守っていこうではないか』


 スーザン夫人の実家を始めとした周囲の者達は挙って彼女の振る舞いを擁護していたのです。特にヘンリーの学生時代からの友人たち。彼らもスーザン夫人と一緒になって遺産を食い荒らしているというではありませんか。素晴らしい友情もあったものです。

 もっとも、婿養子を貰い「公爵夫人」となったヘンリーの妹、アリシアは辛辣でした。

「お兄様が亡くなったせいでタガが外れたんでしょう。煩くいう存在がいないのをよい事に遺産を使って豪遊だなんて恥を知らないらしいわ。まったく、使う事だけは一人前の奥方だこと。お金を自由に使えるのが嬉しくて仕方がないのね。もう我が公爵家と縁が切れて爵位も返却されているというのに未だに『子爵夫人』として振る舞っているのだから滑稽だわ。お兄様との間に娘がいるからどうにかなるでも思っているのかしら?図々しい人達だわ」

 実に的を射ていました。
 スーザン夫人はヘンリーの死後直ぐに娘共々「子爵家」から追い出され、実家に身を寄せていると伺った時は驚きました。てっきり、娘が「子爵家」を継ぐものとばかり思っていましたから。

 「爵位はお兄様に貸し与えていただけです。本家の血筋を路頭に迷わせる訳にもいきませんでしたから。生前贈与も子爵になった段階で渡していますからね。お兄様が亡くなれば本当に赤の他人でしかありません。娘?嫌ですわ、お姉様。私には子供がおりますわ。わざわざ男爵令嬢が産んだ子供を引き取る謂れはありませんわ」

 アリシアのいう事も、また納得できるものでした。
 


 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

元婚約者に未練タラタラな旦那様、もういらないんだけど?

しゃーりん
恋愛
結婚して3年、今日も旦那様が離婚してほしいと言い、ロザリアは断る。 いつもそれで終わるのに、今日の旦那様は違いました。 どうやら元婚約者と再会したらしく、彼女と再婚したいらしいそうです。 そうなの?でもそれを義両親が認めてくれると思います? 旦那様が出て行ってくれるのであれば離婚しますよ?というお話です。

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?

ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。 レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。 アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。 ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。 そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。 上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。 「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

処理中です...