【完結】徒花の王妃

つくも茄子

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12.結果オーライ?

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「お前はアホか!なんのために今まで待ったんだ。彼女を自分の物にするためだろう?」

「……結婚はした」

「ああ!戸籍上はな!だが、お前がやっている事はあの国王と何が違う?仮面夫婦ではないが未だに関係を持って無いとは……」


 十数年越しのプロポーズ。
 それは結果としては成功だった。ただし、内情は大敗を期した。試合に勝って勝負に負ける、とはこの事だろう。帝国で新しい身分と名前を手に入れて意気揚々と新しい人生を彼女と共にスタートを切ったというのに……私達は白い結婚のまま。お陰で先に帝国に避難していたブロワ公爵から散々な言われようだ。

「普通に口説けば良かったものを。何故、よりにもよって交渉の真似事のような口説き方をしたんだ?あれでは『利用価値があるから結婚するんだ』と捉えられても仕方がない。外交交渉じゃないんだぞ」

「……時間が無かったんだ。それに……」

「それに、なんだ?まさか、後から口説くつもりだったなどとは言うなよ。こういうのは最初が肝心なんだ。そもそもお前の場合、家門だけでなく妻も子も捨てた酷い男なんだ。そこから挽回するなどよっぽどだぞ?」

「ぐっ~~…………」

「なんだ、図星か。外堀埋めて逃げられないようにしたのはいいが、あれではな……」

 目の前の公爵は呆れながら茶を飲んでいる。
 私だって、ロマンチックなプロポーズがしたかったさ!
 だが、時間の勝負だったのだから仕方がないだろう!
 帝国での新婚生活のような暮らしに舞い上がっていたことは認める。イチャイチャできると思っていたのにテレサを怪訝な顔で見てくるんだ!


「あの状況下で悠長に告白なんてできるものか!彼女は国王や王太子と違って頭カラカラの恋愛脳じゃないんだ」

「確かに、お前の言い分には一理ある。冷酷非情の宰相が甘い事を言った処で何かの罠としか思えん。寧ろ、帝国に来て早々に婚姻を結べたのは偏に利害関係が有ってのことだろう。そうでなければ、あんなにあっさりと書類にサインはしないだろうからな。帝国との交渉事に自分も含まれていると理解していたに違いない。まぁ……実際その通りだからな。お前も『違います』とは言えんのだろう?もっとも、交渉と言っても大したものじゃない。かの国の最後の王女という看板も帝国にとっては保険くらいのものだから」

「……それでも何時までも監視付きの生活は御免だろう。帝国の密偵は彼女が王妃の位を退いた処でいなくなるものではないからな」

「ああ、死ぬまで監視は続いただろう。それもあって、この国に来たんだろう?皇帝陛下との交渉にわざわざ王妃の監視を引き受ける程にな……。皇帝陛下も部下がお前にネチネチといびられ続けて病んでしまうよりかはマシだと判断したようだが」

 何故か、冷ややかな目で見られた。言っておくが、私は密偵共に危害を加えた事は一度もない!ちょっとばかし話し合いをしただけじゃないか。
 
「私の事はいい。そっちはどうなんだ?」

「どうとは?」

「御息女と奥方後妻を連れてきているんだろ」

「ああ。娘は帝国の皇太子との縁談を勧められている。私は妻とゆっくりと隠遁生活を送らせて貰っているよ」

「何が隠遁生活だ。研究三昧の日々の間違いだろ?」

 この男が愛したのは後にも先にもグランデン帝国皇女であった先妻のエリーザベト様だけだ。六歳年上のエリーザベト様を押して押して押しまくって結婚にこぎつけたのは奇跡に近い。亡くなった今もエリーザベト様一筋の男だ。
 そんな男が再婚した時は私だけでなく周囲の高位貴族は驚愕した。……後から事情を知って大いに納得はしたがな。

「彼女は実にだよ」

「……一応、奥方だろ」

「書類上のな。彼女達は実に良いサンプルだ。特に娘のアリスは素晴らしかった。元が素直な質なのだろうな。催眠療法が良く効いたよ」

「過去の記憶の改ざん……か。元の記憶が戻ることは無いのか?」

「恐らく、と言いたいところだが実際は未知数だ。元々、精神の解明はまだまだ発展途上だからな。何かの拍子で記憶が戻る場合もある」

 この男が精神研究の第一人者だと知る者は少ない。研究対象が厳選されている事もあるが、まさか、研究対象と結婚するとまでは思わなかった。

 フィリア・ランカー男爵未亡人。
 そして、その娘のアリス・ランカー男爵令嬢。

 彼女達の存在を知ったのは、とある田舎町の大火災。二人は唯一の生き残りだった。


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