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8.王太子妃の価値
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反論する余地もないほどの証拠を揃えて王太子の愛人の実家を潰した。親を初め、親族の殆どが強制労働者となった。最初は死罪だったのを王太子妃の温情で生き永らえている。
『この国の人的資源を有効活用する必要があります。廃材とはいえ、使い方次第では価値が生まれましょう』
王太子妃の言葉に反発する者は勿論いた。
『自分の娘が側妃になる、孫が次期国王だと風聴して他の貴族や商人たちから賄賂や袖の下を受け取らせて甘い汁を吸った者が生かされるなどおかしい』
『今後、同じような輩が出ないようにするためにも厳罰に処すべきでしょう』
『見せしめの意味でも死刑にするべきです』
そんな重鎮達に対し、王太子妃は冷静だった。
『見せしめも込めて労働を課すべきでしょう。貴族として生まれ育った彼らが過酷な仕事に従事してどこまで生き永らえるかの耐久テストとでも考えれば良いのです。今後の参考にもなりますし……人は時に死ぬよりも生き続ける方が辛い事もあるのですから』
『なるほど……』
王太子妃の考えに多くの者は賛同し、処刑は免れたが、強制労働に従事することになった。彼らは死ぬまで鉱山で酷使される運命だ。彼らの子孫まで。
王太子夫妻は婚姻したとはいえ、未だに寝室が別だ。
それは此処に居る者達は全員知っている。だが誰もその事に触れない。触れてはならないタブーなのだ。王太子夫婦の仲が悪いのかと言えばそうではないらしい。意外な事に王太子は正妃であるテレサ王太子妃を尊重していた。重鎮たちの中には王太子妃が年若く王太子の食指が働かなかっただけと見ている者が大半だ。なにしろ、あの愛人を選んだんだ。王太子の女の好みは推して知るべしだった。
「五、六年経てば王太子殿下も妃殿下に興味を持つようになる」
「父上……」
「そんな、顔をするな!お二人には子を作って貰うのは決定事項なのだ!!今は妃殿下も幼い身だが、婚姻以降は食事が進んでいる。年上がお好みの王太子殿下のことだ、直ぐにテレサ様の良さが分かるはずだ」
「年取ればいいってものではないでしょう。王太子妃に愛人のように王太子を甘えさせてダメ男にしてしまうような真似はできませんよ」
「……何故、そこを突くんだ……お前は」
「本当の事でしょうに。まぁ、公務は王太子妃が率先してくれているお陰で業務自体は以前とは比べ物にならないほどスムーズですがね」
「聡明なお方だ……国王陛下の病状が宜しくないことも察している」
「実の息子は只の風邪だと思っているのとでは雲泥の差ですね」
「…………回復の見込みはない。お前も心しておけ」
父である宰相の言葉は何かあれば王太子妃を支えろという意味だろう。肝心の王太子は国王陛下の病はそれ程深刻ではないと思い込んでいる。王家に忠誠を誓っている臣下達は、そんな王太子に不安を感じているのだ。国の頂点に立つ人間がそれじゃ駄目だろうと。だからこそ父は私に忠告をしたのだと思う。次期宰相として王国を支えるのであれば、王太子を傀儡にしておいた方が都合がいい。それを分かっていながら父上は未だに王太子を切る事ができないままだ。国王陛下に対する忠誠心がそうさせるのかは、きっと誰にも分からないだろう。実際のところ、王太子妃は思いのほかに優秀だ。実質的な為政者としてこれほどの適任者はいない。
王太子の愛人を側妃に据えるために一族を罪人として処罰した件もそうだが、恐らく、第一王子となるであろう庶子が万が一にでも国王に即位する事態が起きた場合を想定して厄介な外戚を排除したのだろう。王太子と愛人の傍に侍って甘い汁を吸っていた連中も一掃された。その功績を認めれば確かに王太子妃を重用するのは当然のことだった。
『この国の人的資源を有効活用する必要があります。廃材とはいえ、使い方次第では価値が生まれましょう』
王太子妃の言葉に反発する者は勿論いた。
『自分の娘が側妃になる、孫が次期国王だと風聴して他の貴族や商人たちから賄賂や袖の下を受け取らせて甘い汁を吸った者が生かされるなどおかしい』
『今後、同じような輩が出ないようにするためにも厳罰に処すべきでしょう』
『見せしめの意味でも死刑にするべきです』
そんな重鎮達に対し、王太子妃は冷静だった。
『見せしめも込めて労働を課すべきでしょう。貴族として生まれ育った彼らが過酷な仕事に従事してどこまで生き永らえるかの耐久テストとでも考えれば良いのです。今後の参考にもなりますし……人は時に死ぬよりも生き続ける方が辛い事もあるのですから』
『なるほど……』
王太子妃の考えに多くの者は賛同し、処刑は免れたが、強制労働に従事することになった。彼らは死ぬまで鉱山で酷使される運命だ。彼らの子孫まで。
王太子夫妻は婚姻したとはいえ、未だに寝室が別だ。
それは此処に居る者達は全員知っている。だが誰もその事に触れない。触れてはならないタブーなのだ。王太子夫婦の仲が悪いのかと言えばそうではないらしい。意外な事に王太子は正妃であるテレサ王太子妃を尊重していた。重鎮たちの中には王太子妃が年若く王太子の食指が働かなかっただけと見ている者が大半だ。なにしろ、あの愛人を選んだんだ。王太子の女の好みは推して知るべしだった。
「五、六年経てば王太子殿下も妃殿下に興味を持つようになる」
「父上……」
「そんな、顔をするな!お二人には子を作って貰うのは決定事項なのだ!!今は妃殿下も幼い身だが、婚姻以降は食事が進んでいる。年上がお好みの王太子殿下のことだ、直ぐにテレサ様の良さが分かるはずだ」
「年取ればいいってものではないでしょう。王太子妃に愛人のように王太子を甘えさせてダメ男にしてしまうような真似はできませんよ」
「……何故、そこを突くんだ……お前は」
「本当の事でしょうに。まぁ、公務は王太子妃が率先してくれているお陰で業務自体は以前とは比べ物にならないほどスムーズですがね」
「聡明なお方だ……国王陛下の病状が宜しくないことも察している」
「実の息子は只の風邪だと思っているのとでは雲泥の差ですね」
「…………回復の見込みはない。お前も心しておけ」
父である宰相の言葉は何かあれば王太子妃を支えろという意味だろう。肝心の王太子は国王陛下の病はそれ程深刻ではないと思い込んでいる。王家に忠誠を誓っている臣下達は、そんな王太子に不安を感じているのだ。国の頂点に立つ人間がそれじゃ駄目だろうと。だからこそ父は私に忠告をしたのだと思う。次期宰相として王国を支えるのであれば、王太子を傀儡にしておいた方が都合がいい。それを分かっていながら父上は未だに王太子を切る事ができないままだ。国王陛下に対する忠誠心がそうさせるのかは、きっと誰にも分からないだろう。実際のところ、王太子妃は思いのほかに優秀だ。実質的な為政者としてこれほどの適任者はいない。
王太子の愛人を側妃に据えるために一族を罪人として処罰した件もそうだが、恐らく、第一王子となるであろう庶子が万が一にでも国王に即位する事態が起きた場合を想定して厄介な外戚を排除したのだろう。王太子と愛人の傍に侍って甘い汁を吸っていた連中も一掃された。その功績を認めれば確かに王太子妃を重用するのは当然のことだった。
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