番外編 ダークサイド

rosebeer

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ホワイトアウト (The End.)

【 6 】 ホワイトアウト

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………  ー  10年 後   ー  …




43歳になったアタシは 、


狭い車内で 、


彼が運転する振動に揺られていた 。


助手席に座りながら 、

心地いい音楽と 、

楽しい彼の話を聞きながら 。



「 楽しそうだな 。」


よく笑うアタシの顔を 、

彼は運転しながらチラッと見てくる。


「 今まで生きてきた中で 、

今が一番 楽しい 。」


アタシは、

運転する彼の後頭部を撫でる 。


「 それは良かった 。」


ちょっと誇らしげに笑う彼の声が 、

アタシに安心感を与えてくれる 。




       もう 、


       刺激的な人生なんて 、いらない 。




彼は 、長年勤めていた会社を辞めて 、


「 移動販売のコーヒースタンドをやる 」


と 、ある日アタシに言ってきた 。


事後報告だった 。


突然の彼からの宣言に 、

アタシは 、

飲みかけたビールを吹いたっけ。



理由を聞くと 、



彼が毎日淹れてくれるコーヒーを 、

アタシが毎回、「 美味しい♪」と 、


「 お店開けばいいのに♪」と 、


何年も、毎日言ってくれたから。

という理由だった 。




        アタシが 原因かい (笑)



「 いいんじゃない?美味しいから。」


アタシはその夜 、

吹き出した唇を拭きながら笑った 。


「 嫌じゃないの?」 彼は驚いていた。


「 なんで嫌なの? いいと思うよ。


アタシも付き合うよ。


接客業には自信あるし、楽しそう。」



改めてビールを飲み直すアタシに、

彼は嬉しそうな顔で近づいてきて、


アタシの背中を抱きしめてきた 。



       「 ありがとう 。」



何年経っても 、ずっと一緒にいても 、


その言葉を素直に言える彼が、好き 。



「 うん… 」 アタシは照れた顔を隠す 。




お互いに貯めてきたお金を 、


アタシ達は真新しい第二の人生に 、


躊躇なく つぎ込んだ 。



小さくて可愛いトラックを購入し 、


移動販売向きに改装し、塗装もして。


彼はセンスがいいから 、


アタシは何の心配もなく 、


彼に全てを託した 。


アタシは彼から 、

メニュー開発と接客業を任された 。



日本全国を旅しながら 、

ゆっくり流れていく時間を共有し 、


同じ景色を見ながら 、


アタシは 彼と一緒に生きてきた 。



何の後悔も無い 。




10代の頃に経験した 苦い思い出も 、



月のように白く光り消えていった私も、




       思い出す事は 、なくなった 。





「 まさか、


京都まで この車で来るとは… 」



彼は笑いながら 、

高速道路を運転している 。



「 まさか 、カミーユ が 再婚して 、


京都の玉の輿にのるとは。(笑)」



アタシも一緒に笑った 。



アタシ達は 、

新婚のカミーユ家族に会いに 、

ゆっくりと時間をかけ 、


途中で、

行き当たりばったりの販売をし、


のんびりとした旅を続けていく 。




       「 いらっしゃいませ。」



もうアタシは 、


人を殺しそうな目つき ではない 。



「 可愛いお店~♪」


来るお客様がみんな 、

そう言ってくれるのが 嬉しかった 。



「 主人の手作りなんです、全部♪」


アタシは彼を見ながら微笑む 。


「 ステキなご夫婦ですね!」


「 ありがとうございます。」



「 おすすめのメニューは何ですか?」







       「 自家製の 、


        レモネード と 、


        辛口ジンジャーエール です 。」













 












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