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百鬼夜行
【 4 】 あかつき
しおりを挟む誰か… 、教えてくれないかな… 、
過ちも 争いも ない場所 を 。
…… ー 「 そろそろ帰ろうか 。」
ケンの期待には、
応えられなかった 。
頭の中で、
色々考えを巡らせたけれど、
男を 、
" 穴埋め " としか見てこなかった、
そんなアタシには… 、
彼を満足させられる言葉なんて、
見つかる訳がない 。
幸せにしてあげる言葉なんて…。
アタシには、持っていない 。
" 一緒にいると、楽しいよ 。
初めて、男と一緒にいて、
楽しい と思ったよ。"
素直にフワッと浮かんだ感情 、
だけどきっと 、
そんな言葉じゃ満足しないよね…?
だから、アタシは、飲み込んだんだ。
何も答えられずに、
夜景を見ていたアタシの手を繋ぎ、
彼は小さく溜め息をついてから、
「 帰りにビール買っていこうね。」
と、優しく付け加えて言った 。
「 煙草も 。」アタシは彼を見る。
「 そうだね 。」彼は、微笑んだ 。
…… ーー 彼の部屋は、落ち着く 。
ここで暮らしたいな、と思った 。
冷蔵庫から、
さっきコンビニで買ってきた、
ハイネケンの小瓶ビールを、
ケンはアタシに手渡し、
そしてすぐ隣に座った 。
黒く、ほど良い硬さの、
牛革ハイバックソファが 、
首もとまで支えてくれて座りやすい。
「 ありがとう。」
彼の前では自然 と 、
そんな言葉が言えてしまう 。
アタシは瓶ビールを受け取りながら、
彼が隣に座る暖かさに、
安心感を覚え始めていた 。
「 美咲ちゃんから、連絡きた?」
ビールを一口飲んでから、
目の前にあるテーブルに瓶を置き、
彼はアタシに心配そうな顔を見せる。
「 いやっ、まだ…… 」
アタシもビールを飲み込み、
そして、また 飲み込んだ 。
唇から、瓶を離せない 。
動揺を隠せなかった 。
「 心配だね 。」
彼が、アタシの頭を撫でてくる。
「 どうして… ?」
アタシは彼の顔を不思議そうに見る。
「 えっ? だって、心配でしょ?」
アタシの言葉に、彼は驚く 。
「 … どうして、ケンが心配するの?」
「 いやっ、だって、心配でしょ。
美咲ちゃんは、
アンジュちゃんの友達なんだから。」
「 ………… 」
美咲は、アタシの " 友達 " なの?
アタシの " 友達 " を 、
なんでケンが心配になるの… ?
アタシには、解らない感覚 。
人間らしさを失ってきたアタシには、
その感覚が … 解らない 。
「 えっ? お友達 、だよね?(笑)」
彼は笑いながら、
アタシの顔を不思議そうに覗いた。
「 … わかんない 。」
冷たく聞こえちゃったかな… 。
彼は、
アタシが手に持っていた瓶ビールを、
ゆっくりと奪い取り、
優しく それをテーブルに置く。
アタシに体を向けて、
両手を握って向き合ってくる。
「 …… 何?」 飲んでたのに…
「 アンジュちゃん。」
彼の真剣な声と、真剣な眼差しに、
思わず顔を背けたくなる。
「 …… 何だよ 。」
アタシの声に、動揺が映った 。
「 アンジュちゃんに、何があったの?
今まで、
どんな生き方をしてきたの?」
そんな事 、聞かれた事もない 。
ひどく驚いた顔を 、
彼に見られてしまった 。
アタシの頭の中で 、
" 私 " も、ひどく動揺している 。
アタシを取り囲む頑丈な壁を、
取り壊そうと、ケンが叩いてきた。
怖い 。
この壁が崩れたら 、
アタシは泣き崩れるから 。
「 べっ、別に … 、何も無ぇよ。」
彼から目を反らす 。
アタシ を 見ないで 。
「 何も無くないでしょ?
一人で全部抱えこもうとしないで、
俺で良かったら話してよ。」
話せねぇよ 。
話したら、受け止められないだろ。
話したら、消えるんだろ…?
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