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成れの果て
【 10 】 温度差
しおりを挟むケンの父親と 、ケンの母親と、
そして、ケンと4人 で 、
朝陽の射し込む 、
網戸から聞こえる、
海が奏でる、波の行き交う音の中で、
豪華な朝食を目の前にしていた 。
箸が 、進まない… 。
日本酒 が 、呑みたい … 。
緊張で、顔が強張るアタシに、
ケンの母親は話しかけてきた 。
「 アンジュ 、って、
とっても素敵なお名前ね。
お名前付けてくださったのは、
お父様? お母様 ?」
父親 だ 。 …… だけど 。
「 お 、お母様 です 。」
アタシが真顔でそう言うと 、
隣にいたケンが吹き出して、笑った。
「 アンジュちゃん!(笑)
無理しなくていいよ。あはははっ!
いつも通り、普通に話して 。」
ケンは箸を置いて 、
お腹を抱えて大笑いした 。
それは 、無理だろう … ?
アタシだって、空気ぐらい読めるさ。
「 アンジュ って、あれよね?
えっとー、あっ、そうそう!
フランス語で、天使って意味よね?」
お母さんは顔の前で両手を合わせ、
思い出して嬉しそうに、微笑む 。
「 おーっ!
フランス語で、天使か!
いい名前だな!
じゃあ、あれだなっ!
父ちゃんにとってアンジュは、
母ちゃんだな!」
「 うふふふっ♪」
アタシの目の前で 、
ケンの父親と母親が 、
仲良くしている … 。
ケンは、黙々と刺身を食べていた。
きっと、見慣れているんだろう…、
こういう 光景 に 。
ケンの家族の温かな雰囲気の中で、
アタシは1人…
黒く… 、
よどんでいるように、思えた。
アタシ は 、
ここに、居ちゃいけない人間だ 。
さっきまで 、アイスピックを握り、
人間の眼球を突き刺そうと、
身構えていた 人間 だ 。
居ちゃいけないだろう … ?
普通に考えて 。
「 ケン … 、アタシ … 」
箸を置いた手を、
隣にいるケンの膝に、のせる 。
「 んっ? 」
モグモグ噛みながら、
彼はアタシの目を見つめた 。
今にも泣き出しそうな、
アタシの目を 。
「 あっ…」彼は、気付いてくれた。
アタシが 、ここに居れない事を 。
彼は箸を置き 、ゆっくり立ち上がる。
「 どうしたの?」
お母さんは、彼を見上げる 。
「 まだ、食事中だろ。行儀悪い。」
父親は、ケンに軽く叱った 。
「 ウチのプライベートビーチ、
見せてきていい?
アンジュちゃん、緊張してるし、
ちょっとだけ外の空気吸わせたい。」
ぷっ、プライベートビーチ?!
「 あらあらっ、ごめんなさいね。
そうよね、お箸も進んでないし…。
緊張するわよね。
連れて行ってあげて。」
お母さんが 、
リビングの窓から見える海を、
指差した 。
「 母ちゃんが作ってくれた食事が、
冷めちゃうから、
早く戻ってこいよ 。」
父親は、心配そうにアタシを見た。
「 何か… 、すいません 。」
初めての、すいませんを言う 。
アタシは立ち上がる 。
足が 、痺れていた … 。
その場から、動けなくなる 。
無表情なまま 、フリーズ して、
立ち尽くすアタシを 、
ケンと、ご両親は、
不思議そうに眺めていた 。……
ーー … 波の音が 、気持ちいい 。
「 居心地 、悪かったかな?」
流木に座りながら、
煙草に火を付けるアタシに 、
ケンは気まずそうに笑い、
アタシの右隣に腰を下ろした 。
「 なんか… 、色々 、初めて過ぎて。
ちょっと、疲れた… 。あっ、」
初めて、と言って、
ケンの初体験を思い出してしまう。
「 そうだね 。
俺にとっても、初めての連続だよ。
楽しいけど、
ちょっと疲れちゃったね。
ごめんね 。」
ケンは、アタシの頭を撫でてくる 。
「 …… 何で、そんなに優しいの?」
アタシは煙草の煙りを、
ケンの顔にかからないよう、
左方向に息を吹く 。
「 優しい、かな?」彼は照れてる。
「 優しいよ 。」
アタシは、うつむく。
アタシなんかに、優しくするのは…
時間が、もったいないよ 。
「 アンジュちゃん、だからかな。」
「 何が ?」
「 えっ? だから、優しくするの。」
「 美咲にも、優しかったじゃん。
ケンは、きっと… 、
みんなに優しく出来る人なんだよ。
いい人なんだよ。」
「 アンジュちゃんだって、
いい子だよ。」
「 どこが?!(笑)
アタシは 、ケンと住む世界が違う。」
「 ちょっ、ちょっと待って!!
別れ話とかじゃないよね?!」
彼は慌てて、アタシの肩を掴む。
「 んっ? 何が ?」
普通に話しているつもりだった 。
「 違うよね? 別れ話じゃないよね?」
「 何 言ってんの?(笑)」
「 はぁ~… 、良かったぁ~… 。
だって、
変な雰囲気 出してくんだもん!」
彼は、ホッと肩を撫で下ろし、
アタシを見て笑った 。
アタシ達 付き合ってるんだ…
そして、ふいに、テルを思い出す。
アタシ達 、付き合ってるんだ?
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