67 / 117
成れの果て
【 7 】 温度差
しおりを挟む「 顔っ!! 怖いっ!!」
タクシーに戻り、
後部座席に座るなり、
アタシの顔を見て 、
ケンは体を引いて驚いた 。
「 … ごめん。遅くなって。」
モヤモヤする… 、腹が立つ 。
やり残してる事があるはず、絶対。
戻りたい 、店に … 。
「 アンジュちゃん、顔 怖いよ?
どうしたの? 何かあった?」
ケンが車内から 、
店の階段を覗く 。
「 … 何も、無い 。
店ん中が暗くて 、
ちょっと怖かっただけ 。」
ケンは 、アタシの頭を撫でてきた。
「 ごめんね、1人で行かせて 。
俺も一緒に行けば良かったね 。」
ケンの優しい言葉に 、
胸が 苦しくなった 。
" 「 こっちの世界に来ちゃダメ!」"
美咲の言っていた言葉の意味が 、
今なら、解る気がする 。
ケンを 、
あの異様な雰囲気に行かせたくない。
「 般若みたいな顔してるぞ!(笑)
笑って♪」
ケンが、アタシの頬を軽く触る。
般若 、か …… 。
キレた時の姉の顔が、頭に浮かんだ。
アタシの姉なら、あの状況の中 、
どう動いただろう… ?
血だらけになりながらも、
店の奥に向かっていったんだろうか?
それとも、
ケンを守る為に 、
諦めて、引き返すだろうか… ?
「 アンジュちゃん… ?
携帯は、見つかったの?」
ケンは、またアタシの頬に触れる。
「 あっ、うん 。あった 。」
「 良かったね♪じゃあ、行こっか♪」
「 えっ? どこに… ?」
アタシは、
ケンの顔をぼんやりと見つめる 。
「 えっ?」
タクシーの運転手と 、
ケンの声が 、重なった 。
「 俺の実家だよ。どうした?(笑)」
「 あっ、あぁ… 。そうだったね 。」
「 大丈夫 … ? 行きたくなくなった?」
「 大丈夫 。行くよ 。」……
副店長が 、店の窓から 、
アタシ達を見下ろしているのが 、
アタシには 解った 。……
ーー … 「 ここだよ~♪」
広い土地 。広い庭 。広い池 。
和風な 、大きいお屋敷 に 、
アタシの目は、チカチカする 。
タクシーを降りて 、
ケンの実家の前で降りると 、
ケンは片腕を屋敷に伸ばして 、
「 じゃ~ん♪」と、見せてきた 。
このお屋敷… 、実家に行くの ?
この格好で ?!
「 いやいやいやいやっ… 、」
まずいだろ 。絶対 、場違いだから。
門前払いされるわ、アタシ 。
「 大丈夫っ♪ 大丈夫っ♪」
彼は、
アタシの背中を押しながら歩く 。
「 いやっ、無理だよ、この格好は」
アタシは両足のかかとに力を入れて、
ブレーキをかける 。
「 大丈夫だってば♪」
ケンはそう言うと、
インターホンを鳴らした 。
インターホンのスピーカーから、
「 あらっ、おかえり!
待ってて、今 開けるから 。」
母親らしき声がする 。
入口の門が 、ゆっくりと開く 。
「 自動かよっ!」
えっ? ヤクザ映画で見た 、
ヤクザの豪邸の門みたい!
「 お父さん… 、ヤクザ だっけ?」
アタシは、振り返り、
ケンの顔を見る 。
ケンは 、「 違うよ!」と、笑った。
「 俺の父ちゃんは、漁師!(笑)
代々 、受け継がれてるんだ 。」
「 おぼっちゃま?! 何この豪邸!」
「 父ちゃんが、金持ちなだけ 。
そんな事より、どうぞ♪」
ケンは 、アタシの手を握り 、
門を通り抜ける 。
アタシ達が通ったのを、
確認したかのように 、
また勝手に、自動で門が閉まった。
アタシは驚いて振り返り、
しばらく後ろ向きで歩く 。
アタシの手を握るケンの手は 、
未知の世界へと連れていこうとする。
さっきまでいた 、
あの、暗くて… 、異様な世界から 、
連れ出してくれるみたいに 。
いないはずの美咲が 、
閉まりゆく門の向こう側で 、
微笑み 、手を振っている気がした 。
白い 、モヤ の 中 で … 。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる