番外編 ダークサイド

rosebeer

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成れの果て

【 7 】 温度差

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「 顔っ!! 怖いっ!!」


タクシーに戻り、

後部座席に座るなり、

アタシの顔を見て 、

ケンは体を引いて驚いた 。


「 … ごめん。遅くなって。」


モヤモヤする… 、腹が立つ 。


やり残してる事があるはず、絶対。


戻りたい 、店に … 。



「 アンジュちゃん、顔 怖いよ?


どうしたの? 何かあった?」


ケンが車内から 、

店の階段を覗く 。


「 … 何も、無い 。


店ん中が暗くて 、


ちょっと怖かっただけ 。」


ケンは 、アタシの頭を撫でてきた。


「 ごめんね、1人で行かせて 。


俺も一緒に行けば良かったね 。」


ケンの優しい言葉に 、

胸が 苦しくなった 。



" 「 こっちの世界に来ちゃダメ!」"



美咲の言っていた言葉の意味が 、


今なら、解る気がする 。


ケンを 、

あの異様な雰囲気に行かせたくない。



「 般若みたいな顔してるぞ!(笑)

笑って♪」


ケンが、アタシの頬を軽く触る。



般若 、か …… 。


キレた時の姉の顔が、頭に浮かんだ。


アタシの姉なら、あの状況の中 、

どう動いただろう… ?


血だらけになりながらも、

店の奥に向かっていったんだろうか?


それとも、


ケンを守る為に 、


諦めて、引き返すだろうか… ?



「 アンジュちゃん… ?


携帯は、見つかったの?」


ケンは、またアタシの頬に触れる。


「 あっ、うん 。あった 。」


「 良かったね♪じゃあ、行こっか♪」



「 えっ? どこに… ?」



アタシは、

ケンの顔をぼんやりと見つめる 。



「 えっ?」


タクシーの運転手と 、


ケンの声が 、重なった 。



「 俺の実家だよ。どうした?(笑)」



「 あっ、あぁ… 。そうだったね 。」



「 大丈夫 … ? 行きたくなくなった?」



「 大丈夫 。行くよ 。」……




副店長が 、店の窓から 、


アタシ達を見下ろしているのが 、


アタシには 解った 。……






ーー …    「 ここだよ~♪」



広い土地 。広い庭 。広い池 。


和風な 、大きいお屋敷 に 、


アタシの目は、チカチカする 。


タクシーを降りて 、


ケンの実家の前で降りると 、


ケンは片腕を屋敷に伸ばして 、


「 じゃ~ん♪」と、見せてきた 。



このお屋敷… 、実家に行くの ?

この格好で ?!



「 いやいやいやいやっ… 、」


まずいだろ 。絶対 、場違いだから。


門前払いされるわ、アタシ 。



「 大丈夫っ♪ 大丈夫っ♪」


彼は、

アタシの背中を押しながら歩く 。


「 いやっ、無理だよ、この格好は」


アタシは両足のかかとに力を入れて、

ブレーキをかける 。


「 大丈夫だってば♪」


ケンはそう言うと、

インターホンを鳴らした 。



インターホンのスピーカーから、


「 あらっ、おかえり!

待ってて、今 開けるから 。」


母親らしき声がする 。



入口の門が 、ゆっくりと開く 。


「 自動かよっ!」


えっ?  ヤクザ映画で見た 、


ヤクザの豪邸の門みたい!



「 お父さん… 、ヤクザ だっけ?」


アタシは、振り返り、

ケンの顔を見る 。


ケンは 、「 違うよ!」と、笑った。



「 俺の父ちゃんは、漁師!(笑)


代々 、受け継がれてるんだ 。」



「 おぼっちゃま?! 何この豪邸!」



「 父ちゃんが、金持ちなだけ 。


そんな事より、どうぞ♪」


ケンは 、アタシの手を握り 、

門を通り抜ける 。


アタシ達が通ったのを、

確認したかのように 、


また勝手に、自動で門が閉まった。


アタシは驚いて振り返り、

しばらく後ろ向きで歩く 。



アタシの手を握るケンの手は 、


未知の世界へと連れていこうとする。




さっきまでいた 、


あの、暗くて… 、異様な世界から 、


連れ出してくれるみたいに 。





いないはずの美咲が 、


閉まりゆく門の向こう側で 、



微笑み 、手を振っている気がした 。





        白い 、モヤ の 中 で … 。









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