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成れの果て
【 6 】 温度差
しおりを挟む外で 、ケンがアタシを待っている。
その事を、
一瞬で忘れてしまうぐらい、
アタシは相手の動きに集中する 。
ユラユラ… と、
頭を左右に揺らしながら、
背の高い男がアタシに近づいてきた。
「 あっ… 」
手に持ち、構えていた武器を 、
アタシは引っ込める 。
「 せっかく寝てたのに 、
騒がないでくださいよ 。」
店の奥から歩いてきたのは 、
副店長 だった 。
「 携帯 、取りに来たの 。
カウンター暗くてよく見えないから、
電気付けてくれる?」
アタシは武器を隠しながら、
淡々と副店長に話した 。
「 …… 俺 、
明るいと眠気が覚めるんですよね。
せっかく眠りかけたばかりだから、
暗いままでいいですか?
また、すぐ寝たいんで 。」
副店長は、そう言いながら 、
暗いカウンターの中に、
慣れた感じで入ってくる 。
アタシの真後ろを通り過ぎて、
カウンター内のテーブルを触る。
「 確か 、この辺…… 、
あっ、あったあった。…… はい 。」
充電が満タンになった携帯電話を、
アタシに手渡してきた 。
無言で、それを受け取る 。
副店長は、
さっさとカウンターを出て、
「 他に、何か ?」と、聞いてきた。
「 …いやっ、これだけ 。」
アタシは目だけで周りを見渡す 。
来慣れているはずの店内に 、
何とも言えない違和感を感じていた。
カウンターを出て、
出入口まで向かっていく 。
「 また今夜、お待ちしてますね。」
アタシの背後に向かって 、
副店長は眠たそうな声で言ってきた。
出入口のすぐ手前で 、
アタシは足を止める 。
振り返り 、副店長の顔を見る 。
暗くてよく見えない副店長に 、
「 …… なんか、
血の匂いがすんだけど。」
と、顔色一つ変えずに聞く 。
暗闇の中で 、
副店長の肩が少しだけ動いたのを、
アタシは見逃さなかった 。
「 … なんで、血の匂いがすんだよ?」
「 あぁ~… 、あれですかね 。
昨夜 、
営業中に乱闘騒ぎがありまして。
酔っぱらい同士の喧嘩ですよ 。
それでかな? (笑) 」
「 ただの喧嘩で、こんなに匂わない」
アタシは、副店長に不信感を抱く 。
元々 、信頼なんてしていないけど。
「 そういえば 、それ…… 」
副店長が急に歩き出し 、
アタシに近づいてきた 。
アタシは一歩だけ、後ろに下がる 。
「 そのバッグ 、
いつも一緒にいる人の、
バッグですよね?
渡しておきますよ 。
今夜も、
あなたより早く来ると思うんで。」
副店長が 、
アタシの肩に掛けている、
美咲のバッグの肩紐を掴む 。
「 触んじゃねぇー!」
アタシは手のひらで、
副店長の胸を強めに押した 。
少しだけ、後ろによろめく 。
後ろによろめいた後 、
副店長は 、何故か …… 、
あの、シンジがやっていた 、
ハロウィンのカボチャ笑顔をした。
異様な雰囲気が 、一瞬で漂う 。
「 痛いじゃないですか 。」
男は 、ゆらりと近付いてくる 。
「 てめぇが勝手に触るからだろ。」
アタシは、後ずさる 。
相手が女だったら 、瞬殺できるのに。
今 、勝てる気がしない … 。
アイスピックを、
カウンターに置いてきた事を後悔する。
" 「 アンジュは 、
こっちの世界に来ちゃダメ!」"
急に 、美咲の言葉を思い出した 。
「 触ってすみませんでした 。
じゃあ、預かるんで、渡して下さい」
なんで、こいつ …… 、
美咲のバッグ に こだわってる訳?
「 アタシが彼女に、今夜 渡す 。」
きつい言い方で伝えると 、
男は突然 笑い出した 。
「 何が おかしい?」
この、異様な雰囲気は 、
気のせいなんかじゃない 。
店の奥に 、何か ある 。
そんな気がした 。
「 そういえば 、
店の外にタクシー停まってますけど」
「 あっ… 」 ケンを、忘れてた 。
「 行かなくていいんですか?」
ケンが 、ワクワクしている顔が 、
頭に 浮かぶ 。
今 、アタシが 、
これ以上 追及したら…… 、
確実に 、ケン を 巻き込む 。
巻き込みたくない… 。
「 そうだな 。帰るよ 。」……
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