番外編 ダークサイド

rosebeer

文字の大きさ
上 下
62 / 117
成れの果て

【 2 】 温度差

しおりを挟む


「 3回も しちゃったね♪」


ドリップコーヒーに、

お湯を注ぎながら 、

ケンは 満足げに笑顔を向けてきた。


「 あっ……、うん 」

何て答えていいか解らず 、

アタシは彼から目を反らす 。



窓から射し込む朝陽も 、

リラックス効果のある珈琲の香りも、


初体験を終えてスッキリした、
ケンの爽やかな笑顔も… 、


今のアタシには 、

不釣り合いな気がして、

落ち着かない … 。


「 お腹すいてない? 

フロントに電話して、

ピザトースト頼んだんだけど。

食べられるかな?」


そんな事 、された事もない 。


「 あー、ごめん 。

食欲無くて… 。

コーヒーだけ、貰おうかな 。

その前に、歯磨きしてくる 。」



何この、普通な人の会話 。


普通じゃないアタシが 、


普通な人みたいな会話してる 。


変なの… 、変な感じ … 。


床に脱ぎ捨てられたバスローブを、

拾い上げて、ゆっくりと羽織る 。



「 …… 綺麗な体だね、

アンジュちゃん 。」


天使みたいな顔で 、

汚れない台詞を言われて 、

アタシは 戸惑う 。



        綺麗な体 … 、な 訳ない 。



        何人の男達と 、



        寝てきたと思ってるんだ ?



自分が 、純粋ではない事を 、


自分が 、一番よく解ってる 。



例え 、ケンの目に間違って 、

綺麗に映ったとしても … 。



「 さっきから 、

すごい… 何か… 、言ってくるね 。」


女の子が 、喜びそうな言葉を 。


「 んっ? 何が ?」


ケンは、不思議そうな顔をする 。


無意識に、言っちゃうんだろうな、
彼は 。


「 何でもない 。」


アタシはバスルームへと向かう 。


鏡に映る自分の顔は 、

どこか優しげに見えた 。


少なくとも今は 、


人を殺してきたような 、

すわった目は していない 。



満たされたのかな… ?

ケンに抱かれて 。



いやっ、満たされては… ないな 。


むしろ 、何だかケンに… 、


申し訳ない気持ちになってる 。



昨夜のケンは 、


今朝がたの ケンも 、


すごく大切そうにアタシを抱いた 。


「 ほっそいなぁ~…


強く抱きしめたら壊しちゃいそう 」


と、言いながら 。



アタシの肌に触れる手も、

指 も 、唇 も 、


手探りで動かしていく彼の感触から、


アタシを好きだという気持ちが 、


何となく… 伝わってくるようだった。



上手くやろう、とかじゃなくて、


アタシを好きだから触る… 、


という、シンプルで、無垢な感触 。


それをアタシは 、

どう受け止めていいか解らず 、



終始 、冷静 だった 。


気持ちは、良かった 。



だけど、天井の鏡に映る自分と 、

揺れるケンの背中を見ていたら 、



鏡の中の2人を冷静に見守るしか、

出来なかった 。






しおりを挟む

処理中です...