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成れの果て
【 2 】 温度差
しおりを挟む「 3回も しちゃったね♪」
ドリップコーヒーに、
お湯を注ぎながら 、
ケンは 満足げに笑顔を向けてきた。
「 あっ……、うん 」
何て答えていいか解らず 、
アタシは彼から目を反らす 。
窓から射し込む朝陽も 、
リラックス効果のある珈琲の香りも、
初体験を終えてスッキリした、
ケンの爽やかな笑顔も… 、
今のアタシには 、
不釣り合いな気がして、
落ち着かない … 。
「 お腹すいてない?
フロントに電話して、
ピザトースト頼んだんだけど。
食べられるかな?」
そんな事 、された事もない 。
「 あー、ごめん 。
食欲無くて… 。
コーヒーだけ、貰おうかな 。
その前に、歯磨きしてくる 。」
何この、普通な人の会話 。
普通じゃないアタシが 、
普通な人みたいな会話してる 。
変なの… 、変な感じ … 。
床に脱ぎ捨てられたバスローブを、
拾い上げて、ゆっくりと羽織る 。
「 …… 綺麗な体だね、
アンジュちゃん 。」
天使みたいな顔で 、
汚れない台詞を言われて 、
アタシは 戸惑う 。
綺麗な体 … 、な 訳ない 。
何人の男達と 、
寝てきたと思ってるんだ ?
自分が 、純粋ではない事を 、
自分が 、一番よく解ってる 。
例え 、ケンの目に間違って 、
綺麗に映ったとしても … 。
「 さっきから 、
すごい… 何か… 、言ってくるね 。」
女の子が 、喜びそうな言葉を 。
「 んっ? 何が ?」
ケンは、不思議そうな顔をする 。
無意識に、言っちゃうんだろうな、
彼は 。
「 何でもない 。」
アタシはバスルームへと向かう 。
鏡に映る自分の顔は 、
どこか優しげに見えた 。
少なくとも今は 、
人を殺してきたような 、
すわった目は していない 。
満たされたのかな… ?
ケンに抱かれて 。
いやっ、満たされては… ないな 。
むしろ 、何だかケンに… 、
申し訳ない気持ちになってる 。
昨夜のケンは 、
今朝がたの ケンも 、
すごく大切そうにアタシを抱いた 。
「 ほっそいなぁ~…
強く抱きしめたら壊しちゃいそう 」
と、言いながら 。
アタシの肌に触れる手も、
指 も 、唇 も 、
手探りで動かしていく彼の感触から、
アタシを好きだという気持ちが 、
何となく… 伝わってくるようだった。
上手くやろう、とかじゃなくて、
アタシを好きだから触る… 、
という、シンプルで、無垢な感触 。
それをアタシは 、
どう受け止めていいか解らず 、
終始 、冷静 だった 。
気持ちは、良かった 。
だけど、天井の鏡に映る自分と 、
揺れるケンの背中を見ていたら 、
鏡の中の2人を冷静に見守るしか、
出来なかった 。
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