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美しい棘
【 9 】 焦燥
しおりを挟む美咲は 、気付いていたんだ 。
" 「 最近だと、
いつ来たのぉ~? ラブホテル。」"
" 「 ケンちゃん照れてる♪可愛い♪
えぇ~っ? …… まさか、童貞 ?」"
" リュウジ君には、気をつけて "
彼女は 、男を見極められる 。
なのに… 、
自分が望んでいない男 を 、
母親からも、
そして、
アタシからも提供されてきた。
アタシが彼女にしてきた事は 、
美咲の母親と、何ら変わりない。
美咲はきっと、
母親を信じていたし、
好きだった、と思う。普通に。
だけど、
美咲自身が選んでいない男と 、
彼女は、関わるはめになり… 。
アタシを好きになってくれたのに、
それなのに、アタシは…… 、
アタシに群がる、
性欲に飢えたゾンビ連中から、
アタシの勘で選んだ男達を、
美咲に あてがえてきた 。
彼女は、文句一つ言わず、
いつも、
「 はぁ~い♪」と言って 、
それらを体内に受け入れてきたんだ。
愛するチバちゃんが、働く職場で。
アタシに、嫌われたくないから 。
「 …… 最低だな、アタシ 。」
なんで、今頃 … 、今さら 、
そんな大切な事に気付いたんだろう?
初めての、" 後悔 " とやらを 、
今 、感じ始めている 。……
「 最低じゃないよっ!!」
ケンが、
アタシの顔を見上げながら、
優しく、強く、言い聞かせる 。
「 んっ… ?」
ケンを間近に感じながら、
アタシは、美咲の事を想っていた。
「 最低じゃないよ!嬉しいよ!
初めてキスしたのが 、
アンジュちゃんで、嬉しいよ!」
まだ 言ってる …、 真面目な顔で 。
「 ねぇ? 本当に、した事ないの?」
半信半疑な目を、ケンに向ける 。
ケンは、
アタシに見下ろされていて、
何だか落ち着かない顔をしてる 。
「 また聞いた!!
何回聞くんだよ!!(笑)
…… ていうか、
もうすぐ26になる男が、
女性経験無い、って… 引くよね?」
自分を守る為に 、
彼は 笑っている 。
「 … 引かない、けどさ 。
信じられないだけ 。
だって、モテるだろ? 何で?」
こんなに、可愛い美少年 が 。
女と、キスした事ないとか… 、
意味が解らないだろ 。
「 女の子より、
ベースが 恋人だったからかな 。」
「 バンドって… 」
シド を、思い出した 。
こんな、大都会ではなく、
観光地とはいえ 、
こんなに小さな港町で 、
バンド を 組んでいて… 、
たぶん、シドのバンドは、
絶対に知ってるはず 。
でも… 、聞くのが 、怖い… 。怖い。
「 俺らのライブ、観に来る?」
ケンは、勇気を出したみたいに、
意を決した口調で、アタシに言う。
「 ごめん 。行けない 。」
シドに、見られたくない 。
ケンと、いる所 を … 。
「 そっか、残念、だな… 」
ケンの悲しそうな顔を見て 、
アイスピックで刺されたような、
そんな、細く… 鋭い 痛み が 、
アタシの胸を、突き刺した 。
「 ごめん… 、行けない 。」
説明のつかない代わりに 、
アタシはまた、
ケンの唇に、キスをした 。
今度は、舌を 入れなかった 。
「 アタシで良かったら… 、
このまま … 、してみる ?
最後 まで 。」
初めて言った、優しい台詞。
そして、優しい 言い方 。
" アンジュには 、
ケンちゃんみたいな男の子 …… "
シド を 愛しているのに 、
薬 に 頼らず 、
" 私 " にも見せられると思う、
他の男との セックス は 、
まだ 、した事が 、なかった 。
ある意味 、
アタシにとっての、
初体験 だ 。
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