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浮き足立ち
【 6 】 差し伸べる手
しおりを挟むシンジの指先が、爪先が、
アタシの二の腕に食い込む 。
「 痛いっ!」
アタシは顔をしかめて、
すぐにシンジを睨みつけた 。
「 なんで? 電話に出ない?」
シンジは、微笑んでいる 。
あの、乱暴な運転中に見せた、
違和感しか感じられない、
ハロウィンのカボチャみたいな、
怖い笑顔で 。
「 痛い!痛いってば!」
アタシの腕を握りしめる、
シンジの手に、
アタシは手をかけて離そうとする。
びくともしない … 。
手錠のように、離れない 。
「 なんで? 答えて 。」
黒い感情が奥にある事を、
シンジの声色から、感じとる。
「 無いの!今、持ってないの!
なくした、携帯電話!
痛いってば!」
アタシは、とっさに嘘をつく。
持っていたバッグを逆さまにし、
中身を床に ぶちまけて見せた 。
「 見てみろよ!無ぇだろ?
痛ぇーから離せよっ!!」
アタシの本質が、露になる 。
短気で、攻撃的になる本質が 。
アタシの口調に 、
シンジの微笑みが、一瞬 歪んだ 。
さらに、不気味さを増していく…。
「 嫌がってんじゃん、彼女。」
聞き覚えのない声に 、
アタシとシンジは同時に振り返る。
声のする方に顔を向けた瞬間 、
一瞬だけ、
アタシの腕を掴んでいた、
シンジの力が、緩む 。
その一瞬を見逃さず 、
アタシはシンジの手を振り払った。
指先と爪先が強く食い込まれた肌が、
血の跡で滲んでいた 。
シンジ は 、狂ってる …… 。
「 あ~ぁ、こんなに散らかして。」
アタシ達に声をかけてきた男の子が、
足早にアタシに近づき、
足元で、しゃがみこんだ 。
そして、
アタシが床にぶちまけた、
グロスや、財布や、
煙草やライターを、
一つ 一つ 拾い上げてくれた 。
男の子は立ち上がり 、
アタシのすぐ目の前で、
ニコッ と 微笑んだ 。
可愛いその笑顔に、
アタシは羨ましさを感じて、
見とれてしまう 。
「 バッグ 、貸してみて。」
男の子に言われた通り 、
アタシは素直にバッグを渡す 。
その子は、バッグの中に、
床から拾い上げた物をしまっていく。
そんな様子を不思議そうに、
キョトンとした顔で、
見ていたシンジが、
ハッ…!と、我に返った 。
我に返った瞬間 、一瞬で、
天使のように可愛い笑顔の男の子に、
強く、狂暴的な嫉妬心を露にし、
声を荒げた 。
「 てめぇ、何なんだよ ?!」
男の子は、
シンジの怒鳴り声に一瞬も怯まない。
怯まず 、シンジをチラッと見た後、
血の滲むアタシの腕を指差して、
心配そうな顔をアタシに向けた 。
「 大丈夫 ? 痛そうだ…… 」
" かわいそうに… " という、
捨てられた犬を見るような目で、
アタシの腕と、顔を見てきた 。
「 おいっ!
シカトしてんじゃねーよ!!」
シンジが、男の子に詰め寄る。
男の子は、くるりと振り返り、
シンジに向かって口を開いた 。
「 女の子は、
大事にしなきゃダメだよ!」
怒った言い方だけど 、
男の子の顔は怒ったふりで、
幼児に言い聞かせるような、
優しい口調 。
シンジはまた、拍子抜けする 。
アタシは、そんな2人を、
不思議そうに眺めていた 。
「 アンジュ! 誰だよ、こいつ!」
シンジの嫉妬心が溢れる声に、
アタシも我に返った 。
「 あっ…… 、」
この男の子を、巻き込みたくない。
何故か無意識に、そう思った。
「 おっ、おとうと! 弟!」
とっさに、また、嘘をつく 。
男の子の顔が、一瞬 固まった 。
ゆっくりとこっちを見て 、
アタシの顔色を見て、微笑む。
「 どーも!姉の彼氏さん?」
話を 、合わせてくれた 。
「 弟ぉ~? …… あの、あれか?
赤ウィンナー好きな 。」
あぁ~… 、
テルからきたメールを見て、
シンジが勝手に、
弟からのメールだと勘違いしたやつ。
テルからのメールが、
弟からのメール で 、
今、
目の前にいる知らない男の子も、
アタシの弟で …… 、
でも 、2人共 、弟じゃなくて… 、
ややこしいなっ …… !!!
ふいに、シンジの携帯電話が鳴る。
シンジは慌てた顔をして、
すぐに電話に出た 。
「 はいっ!…… すみません!
急用が出来まして 。
今、片付いたので 。
すぐに戻り …… はい、向かいます。
すみません 。」
電話を切った後 、シンジは、
アタシと男の子を見比べる。
可愛い顔立ちの男の子 と 、
派手な顔立ちの 姉…ではないアタシ。
「 朝一で、日本出るから。
また、戻ってきたら連絡する。
携帯、それまでに見つけとけよ!」
彼はそう言って 、
足早にアタシと男の子の前から、
いなくなった 。……
朝一で、日本を出る、か… 。
チバちゃんと、一緒だな … 。
そう 、確信 した 。
気付かなくてもいいのに … 。
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