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浮き足立ち
【 5 】 差し伸べる手
しおりを挟む隣の幻想に、
気付かないふりは 出来ない 。
まるで 影のように 、
まるで … 双子のように 、
アタシが歩き出すと 、
ついてくる 。
時々、隣にいたり 、
時々、オーラのように重なったり。
「 厄介なもの飲まされたな… 」
苦笑いをしながら、
VIPルームの仕切りカーテンを、
少しだけ指で開けて、
中の様子を覗いてみた 。
コウジ と、目が合った 。
だけど、アタシはそれを無視して、
コウジの更に向こう側に目を向ける。
美咲が、
スカートをまくり上げて、
饒舌野郎の上に跨がっていた 。
向かい合いながら、座位 で 。
長く巻かれた髪の毛先が 、
美咲が上下に腰を動かす度に、
柔らかく揺れている 。
テーブルの上には 、
万札が3枚 投げ出されていた 。
「 …… 騎乗位は嫌い 、って、
言ってたじゃねーか… 」
愛が 感じられないから、って 。
アタシは、
指で開けていたカーテンを、
静かに閉じた 。
愛 なんか 、ある訳ないか… 、
こんな場所 に 。
「 今日はチバちゃん居ねーしな。」
彼女はきっと 、
アタシと同じように 、
埋まらない寂しさを 、
どうでもいい男の偽りの優しさで、
埋めたいだけ、だ 。
アタシは歩き出し、
トイレの前に鏡が広がる、
パウダールームへと向かう 。
鏡の下に取り付けられた棚に、
バッグを置いて、
Dior の グロスを取り出し、
潤いの無い乾いた唇に、塗る 。
鏡の中の自分は 、
うつろな目をしていた 。
絶望的な 、
今日死んだってかまわないような 、
諦めた 目 。
鏡に 、" 私 " は 、映っていない 。
手元のバッグにグロスをしまい、
アタシが顔を上げると 、
鏡越しに 、シンジ と 目が合った 。
アタシの真後ろに立っていた 。
「 ……… っ?!! 」
ホラー映画を演じている感覚に、
恐怖から、声を一瞬 失う 。
「 アンジュ … 」
天井から差し込む薄いライトが、
丁度 、
青白い顔のシンジを照らしていた。
鏡越しに 、アタシ達は数秒 、
目を合わせている 。
シンジが近付く気配も 、
シンジが真後ろにきた気配も 、
全く感じなかった 。
それこそ、亡霊であってほしい。
彼の手が 、
アタシの細い二の腕を掴む 。
かなり力を入れている彼の手から、
言わなくても怒りが伝わってくる。
「 … えっ? なんで … 」
なんで… 、ここに いるの ?
さっき 、" 私 " にした質問 が 、
また 、アタシの中に浮かぶ 。
でも、その答え は 、
さっきとは違って 、
答えを 知りたくない 、
複雑 な 質問 だった… 。
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